84、領主の特権 その2(ギルドマスター ガルツとの対面)
9月3日、早朝
クレスは何だか気持ち的に落ち着かずガラにもなく早めに目が覚めてしまった。
その為、サアシアはまだ夢の世界を微睡んでいる最中であったので、自分とサアシアの朝食を作り、自分ひとりだけ早めの朝食を取った。
(まだ、シアは起きてこない様だな…)
クレスは、食事用のテーブルにサアシアの朝食を準備しておくと書置きを置いた。
その内容は…
“少し一人で散策したいので出かけてくる。朝食は準備しておいた。食べてくれ”
と記載した内容であった。
その後クレスは、何ともなしにブラブラと森を散策した後で、村の中心部へと足を向けた。
すると、雰囲気的に村がざわついているのが理解できた。
(結構、ざわついているな…)
と、クレスは感じたがひとまずギルドへと足を向けたのであった。
クレスはギルドが直営で営業している酒場兼食堂へと行き、フルーツジュースを注文して一息入れていた。
そうして、一服しつつ何気なく周囲に気を配って見ると、ギルドの中はいつもよりざわついている事が分かった。
なので、クレスはそれとなく聞き耳をしてみた。
すると…
「おい!聞いたか?何でもダンジョンの無料開放期間が終了したらしいぜ…」
「おお!ワシもそれは聞いたぞ。
どうやら、ボスモンスター戦が終了して新たな領主が誕生したと考えて間違いあるまい。そうでなければ、ダンジョンの無料開放期間が終わる訳がないからな!」
「とすると今度の新しい領主が気になるな…。一体どんなヤツなんだろうなあ?」
「さてなあ…。ワシもそこの処は気になるわい…。
下手に重税でも課されたら堪らないからな…」
「そういやあ、重税で思い出したが商店の一部に早速重税を課したって話だぞ」
「何?それってマジか?
だとすると、住民税やダンジョン入場料金も増額もありそうだよな?!
だとするとひと事じゃね~ぞ!今度の新しい領主ってそんなに苛烈なヤツなのか?」
「俺も詳しくは知らないが、一部の商店経営の店主は顔を赤くしたり青ざめたりして慌てふためいているって話らしいぜ。
何でも夕べからシャカリキに飛び回って対応しているらしいが芳しくないらしい」
「ワシら冒険者にも飛び火しなければいいがなあ……」
などなどの新しい領主の誕生に関しての様々な憶測が飛び交っていた…
(ほほう…。やっぱ、新しい領主の事は気になるモンなんだなあ…。
ま、それもある意味当然か…。オレでも逆の立場なら気になる処だしな…)
そう思いながら、クレスはチビチビとフルーツジューズを飲んで花が咲いている噂話を肴にして楽しんでいた。
(それにしても、このジュース、1杯が50ザガネとは安いよなあ…。 あ、でも確かに安いけど、少し前までは1日の食費が50ザガネだったんだよなあ…、オレって)
(然も、あの頃は時給10ザガネの生活でカツカツだったから仕方なかったよなあ…。
そして…その時給10ザガネの生活を物心ついた4~5歳から成人するまでの15歳まで10年以上続けてきたオレって………)
クレスは、一つ盛大なため息をつくと10分ほど遠い目をしていたのであった。
暫し、クレスが黄昏れていた時であった。
食事処の出入り口に見知った人物がクレスの視界に入ってきた。
ライサスであった。
ライサスもクレスの所在を確認できた様で、早歩きでクレスのそばにやって来た。
「居た居た♪クレス君発見♪」
ライサスは何だか嬉しそうなイントネーションでクレスに話しかけて来た。
“ぼう~”としていたクレスであったが、徐々に目の焦点が定まってきて焦点がライサスを捉えた。
「あ、ライサスさん…」
クレスはまだ幾分“ぼう~”としているのか、棒読みな感じで返答した。
「もう、クレス君どうしたの?何だか“ぼう~”としちゃって…」
「あ、ああ、少し前までの食生活を思い出したら切なくなって…。でも、もう大丈夫です」
クレスの口調も元に戻った様である。
「実は、クレス君の自宅まで行ってクレス君を呼びに行く処だったの。
でも、ここで会えてちょうど良かったわ♪」
「うん?オレに何か用事?」
「実は、ギルドマスターがクレス君に会いたがっているの。
今から会える?都合とか大丈夫?」
「いや、別に問題ないですよ。ギルドマスターがオレに??
へえ…、そっかあ…。では今からでも良いですよ」
「ほんと?クレス君、では私に着いてきて♪」
そう言うとライサスは案内する様に歩き始めた。
それに続く様にクレスも連れだって歩き始めた。
(へえ~、ギルドマスターねえ…一体どんな人物なんだろうなあ?)
ふと、他愛無くそんな事を想像していたクレスであった。
ラサイスは、3階にまでクレスを連れていった。
ライサスは3階の中で一番奥まった部屋のドアの前で止まるとノックをした。
“トントン”
すると室内からやや野太い声が聞こえてきた。
「誰だ?」
「ライサスです。ギルドマスターがお探しの人物を連れてきました」
「室内に入って貰え」
「失礼します」
そう言いつつライサスは、ドアノブを握ってドアを開けて室内へとクレスを導いて入っていった。
室内は、10メートル四方は有りそうな広めの部屋であった。
室内の様子は、奥にある窓を背にして大きめの木製の机が置かれており、そこに一人の人物が座っていた。
(コボルト族?それとも獣狼族?の男か!
もしもコボルトにしては結構ガタイが良い方だよな。
身長は175センチくらいかな?
ところどころに戦場かダンジョンかどこかで負った様な負傷の傷跡がところどころに生々しく残っているなあ…。
何だか歴戦の戦士を連想されるような風貌だよなあ…)
と、クレスは相手を観察していたのだが、その相手が部屋の隅にある応接用のソファの方へ歩きつつ、クレスを招いた。
「こちらのソファにどうぞ…」
そう言いつつギルドマスターは、もう片方のソファへと腰掛けつつテーブルを挟んでもう一つの対となっているソファへとクレスの着席を誘った。
クレスは、勧めらるがままソファに座った。
すると、目の前お人物ギルドマスターは、自己紹介を始めた。
「ワシは、このラピス村に有る支部ギルドのギルドマスターを務めているガルツと言うコボルド族です。以後よろしく願いたい」
クレスもこれに答える様に自己紹介を始めた。
「オレは、人族の男性で名前はクレスと言う。
生まれてから、このラピス村で生活している。
実は、オレは昨日、ダンジョンのボスモンスターを討伐した。これがその証だ」
そう言うとクレスは、マントを羽織り、胸元からネックレス状態の指輪を見せた。
「失礼…」
そう言うと、ガルツは暫し、マントと指輪を見ていた。
「確かに、そのマントと指輪は貴族爵位を表す装備品ですな…。
本人以外は決して装備できないモノですからな…。
分かりました。クレス様を新たなラピス村のご領主様と確認できました。
以後、どうかこのラピス村を導いて下さい」
そう言うと、ガルツは、立ち上がりクレスに深々と一礼した。
クレスは、一瞬上がったように“ドギマギ”したが、…
「あ、ああ…。無理せずにオレなりに領主職をこなすつもりだよ」
すると、脇からラサイスが話してきた。
「ギルドマスター。そろそろクレス君、…いえ、クレス男爵を招いた理由を説明されては如何でしょうか?」
それを聞いたガルツは、“ハタッ”と思い出した様に言葉を発した。
「そうだった。実は、クレス男爵にじかにお伺い事がありまして…」
「うん?何かな?」
「詳しい事は、そこに居る受付嬢のライサスより聞きました。
で、それを踏まえてご希望の商店主に増税の話を伝えました。
すると、該当する商店主が悉く騒ぎ始めたのです」
(まあ、そうだろうなあ…)
とクレスは思った。
「それで?」
「それでですな。“新領主に会って増税に関して話をしたい!”と言うのです。
それで夕べからずっとこのギルドに詰め掛けており、“会わせろ!“の連呼なのです。
ワシとしても、これ以上騒がれるのは業務に支障を来し兼ねないです。
ですのでクレス男爵に於かれは、何とか対面の場を設ける事を許して欲しいのですが……」
そういうガルツは、半ば恐る恐ると言った感じでクレスにお伺いを立ててきた。
(ふ~~ん、このギルドマスターのガルツは、オレが人族でも色眼鏡なしで接してきたな…。
その理由はガルツがコボルト族だからなのか?それとも、ガルツ個人の資質によるものなのか?
まあ、どっちにしてもお互いの分をわきまえて接してくるのは好感度を持てるな…)
「ふ~~ん、確か、件の商人は全部で何人くらいだったかな?」
「全部で6人です。クレス男爵」
「もう全員がこのギルドに揃っているのかな?」
「はい。夕べのうちから2階の会議室に閉じ込めております…」
「そうか…」
そう言ったクレスは少し思案を始めた。
(連中に直接引導を渡すのもなかなかに乙かも知れんなあ……)
「分かった。件の商人連中に会おう」
「ありがとうございます。クレス男爵。助かります」
「そう言えば、今って何時くらいかなあ?」
すると、ライサスが答えた。
「9時半頃です」
それを聞いたクレスはほほ笑んだ。
「すると、既に新領主に関して公表されたはずだね?ライサスさん?」
「うん、公表されたわ、クレス君」
それを聞いたガルツがライサスを叱った。
「コラ!新領主に対して何という口調で話すんだ!口を慎まんか!!」
「す、すみませんでした」
恐縮した様に、ライサスは答えた。
「ああ。まあライサスさんには懇意にしてもらっているから、よっぽどの公式の場でもなければこれまで通りの接し方で構わないさ♪」
「然し、それではクレス男爵の威厳が…」
ガルツは困った様に話した。
「では、人目のなさそうな場所に限定するって事でどうかな?」
それを聞いたガルツは、あまり領主の言葉に背くのは得策ではないと判断したのであろう。
「そういう事でしたら…」
と同意を示した。
ライサスも「クレス君ありがとう♪結構長い事あの口調で話していたから“つい”…。今度から人目とか気を付けるから許してね♪」と言ってきた。
「ああ。まあ、ライサスさんとは色々世話になったからなあ♪」
「どうやらお話もまとまった様ですので、これから2階の会議室にご案内して件の商人とお会い頂いてもよろしいでしょうか?」
と、ガルツが聞いてきた。
「ああ。問題ないさ。じゃあ案内してれるかな?」
クレスの言葉を聞いたガルツは、立ち上がると案内するべく歩き始めた。
ラサイスもクレスを促しつつ同行する様に歩き始めた。
(じゃあ行くか…)
クレスも立ち上がり、後に続いた。
クレス達は2階の中で奥まった部屋のドアの前まで来た。
するとガルツは小さな声でクレスにのみ聞こえる様に喋った。
「ここが、会議室です」
「そうか…。では、ドアを開けてオレを案内してくれ」
「分かりました。では、前を失礼します」
そう言うと、ガルツは、ドアノブに手を掛けてドアを開けたのであった……
修正について:ぼったくり商売人の人数を18人→6人へ修正しました。




