82、ダンジョンマスターとは
「それにしても、今回の敵のボスモンスターはゴーレムだったのは、或る意味僥倖だったな…」
クレスは呟く様に言った。
「え?それってどういう意味なの?」
「あ、ああ…。ほら、ゴーレムっていうモンスターは基本的に単純な命令しか受付けないだろ?
例えば、“目の前の敵を攻撃せよ!”とか或いは“目の前にある宝箱を守れ!”とか、はたまた“この部屋の侵入者を殲滅せよ”とか“自身の急所を攻撃されたら速やかに殲滅せよ!”とかさ……」
クレスは、さきほど迄の戦いを思い返す様にしんみりと言った。
「それって、つまり傘の防御効果や特殊反撃効果との相性が良かったって事なの?」
サアシアは、自身の考えを述べてみた。
「ああ。その通りだ。先ほどのボスゴーレムは、どうやら愚直なまでに前もって命令された事柄を素直に実行するみたいだったからな…。
だから、幾ら自分の攻撃が全く効果の無い状況にも拘らず、ひたすらオレ達を攻撃し続けたのさ」
クレスは言葉を続けた。
「だけど、少しでも頭の回る連中なら……
そうだな、スルワ三人衆の様なごく一般的な冒険者だったら、自分の攻撃がまるで効果のない事を理解できたら一旦攻撃を止めて他の手段を探すだろうさ…」
それを聞いたサアシアも残念そうに頷いた。
「それは…そうかも知れないの…」
「だろ?! ま、傘の効果で負けはしないだろうけど、恐らくは引き分けに終わっていただろうなあ…」
「つまり、今回の勝利は相性が良かったから!運が良かったって事なの?」
「そういう事になるだろうなあ…。
まあ、それこそ強力な攻撃を仕掛けてくる敵と対戦した場合には、相性の良い戦法となるのだろうけども、そうそう上手い具合に嵌められるとは考えにくいけどな…」
クレスは苦笑しつつ、言った。
そう言う感じでクレスとサアシアが、ボスモンスター戦の感想戦を述べていた時である。
ボスゴーレムの発生した場所に転送魔法陣らしきモノが現れた。
同時に天井よりアナウンスらしき声が聞こえてきた。
「部屋の中央に発生した転送魔法陣より、ダンジョンマスター専用のコントロール部屋にお進みください。
尚、ダンジョンマスターの承認ある場合は、PTのメンバーも同伴可能です。
如何されますか?」
「同伴を承認する」
クレスはすかさず答えた。
「承認の意思表示を確認しました。それでは、魔法陣の中にお進みください」
「サアシア、行こうか?」
「分かったの」
二人は魔法陣の上に乗った。その後、二人は転送された。
「ここは…」
クレスは転送先の周囲を見渡した。
そこは30メートル四方ほどの部屋であった。
部屋の奥には、巨大なモニター?らしき画面とその5メートル後方に20インチほどのモニターらしき画面とそのモニターを乗せる少し大きめの机と腰かける椅子が存在した。
すると、天井からアナウンスが聞こえてきた。
「奥にある椅子の前までお進み下さい」
「あ、ああ…」
クレスとサアシアは言われるがまま、進んだ。
「机に乗っているアイテムをご確認下さい」
そう言われて、クレスは、机の上に載っているアイテムに目を向け、手に取って見た。
「これは…、指輪と…マントか?」
指輪はシンプルなデザイン色は灰色であった。
マントも広げてみたが、生地の表も裏も灰色であった。
「この、指輪とマントがどうかしたのか?」
するとアナウンスの声が聞こえてきた。
「それはダンジョンマスターの地位を証明するアイテムです。
指輪もマントもそれぞれ単独にて貴族の地位を証明します。
マントは貴族の地位を誇示したい場合に着用するのが常となっております。
指輪は、イザと言うときにその貴族の地位を証明したい場合に着用する事が常となっております。
又、普段指輪を指に着用したくない場合は、リング部分に金属の細い鎖を付けてネックレス状態にして着用するのが慣習となっております。又、色彩の灰色は男爵位を表します」
「へえ…。なかなか洒落ているじゃないか♪」
クレスは感心した様に呟いた。
「尚、貴族の身分と色の関係は次の通りです。
男爵 灰色
子爵 茶色
伯爵 オレンジ
辺境伯 黄色
侯爵 緑
公爵 赤
大公 青
副王 紫
国王 銅色
皇帝 銀色
亜神 金色
以上の通りとなっております。
尚、ダンジョンマスター、即ち領主である貴族の場合は、マントの表と裏は同じ色となっております。
然し、ギルドに貢献して領地を持たずに男爵待遇の地位を得た場合のマントですと、裏地のみ“白色”となっております。
この差異により、ダンジョン持ちの領主の貴族とギルドによって付与された貴族待遇者との区別を図っております」
「へえ~~、結構考えているんだなあ…」
そう言いつつ、クレスは自身の着用する事になるマントを確認した。
「確かに、表も裏も“灰色”だな!」
「でもまあ、取り敢えずは爵位を見せびらかすのはちと避けたいからマントは収納空間に収めておくか♪あと、指輪も鎖につないで首からかけておくとするか!」
「それでは、指輪のそばに置いてある細い鎖をご利用されて下さい」
「あ、これか…!」
クレスは言われるがまま、指輪に鎖を通してネックレス状態にして着用した。
やや間を置いて、天井からアナウンスが聞こえてきた。
「クレス様は、このラピス村のダンジョンマスターとなりました。
つきましては、このコントロール部屋と地上にあるダンジョン出入口の少し近くにあるダンジョンマスター専用の転送魔法陣を使用して自由に往来する事が可能となりました。
この理由は、もしもダンジョン攻略を目指す冒険者がボス部屋まで到来して対ボス戦を選択した場合に、速やかにダンジョンマスターが対処可能にする為の仕組みです」
それを聞いたクレスは、喜んだ。
「それは助かるぜ!オレとしては、自分が強くなったら、ボスモンスターに戦闘されるのではなくて自分で挑戦者を迎撃したいからな♪」
「次に、目のまえにあるモニター画面を注視されて下さい」
それを聞いたクレスは、椅子に座りつつじっくりと画面を注視した。
「え~と、なになに…ダンジョンマスターのノウハウについてだって…」
そう呟いた後、クレスはクレスは画面を操作して何やら、読み始めたのであった……
その途中で、クレスはちょこちょこと独り言を言った。
「村の治安を維持する為の“ダンジョンマスターの目”の維持費って結構高いんだなあ…」
「ふ~~ん、急死した先代の領主のザキ男爵は善政を敷いていたんだなあ…。
基本的な年貢は四公六民に設定していたのか…」
「そうだったのか…村の安全圏にある森や小川や井戸の維持って相当に大変なんだなあ…」
「ふむふむ…商売する上でのお店を出す場合の商店税は月10万ザガネね…。
露店は3万ザガネと言う設定か…」
「へえ。税金は周辺の村ら町を参考にしつつ若干低めに設定していたのか…」
「解放期間外のダンジョンボスモンスターへの挑戦料金の1億ザガネって、このラピス村のダンジョンの場合だと最高額設定なのか?
よっぽど挑戦されたくなかったんだなあ…先代のザキ男爵は…」
などなど…クレスは、軽くザ~~っと、斜め読みしていたが、或る項目に目が止まった。
「うん?教会を領地内に出す場合の税金、教会税が何で領主が税金を貰うのではなくて、逆に教会に寄付の形で支払っているんだ?それも毎月100万ザガネも??」
クレスは、不思議に思い近隣の領地における教会の税と寄付関係を調べてみた…
……30分後……
「なるほどな…!
本来は、教会が教会税を毎月100万ザガネを支払うのが普通なのに、ここの領主がコボルト族だった。
そして、信仰しているのが中立神だったと…。
一方、このラピス村に出張っている教会の信仰は暗黒神だった。
で、相手が人族の次に弱小なコボルト族であり、且つ自分たちが暗黒神だからって、その勢威を傘にきて、税金を納めるどころか、逆に同額の寄付金を強請ったと……。
なかなか、あくどい事をしている教会じゃね~か!
だったら、他にももっとあくどい事をしていそうだなあ」
そう思ったクレスは、暗黒神の教会絡みの出来事を調べ始めた。
「やっぱり、かなりぼったくりのアコギな商売をしているな…。
周辺の村や町の相場と比較してもポーションの類の販売価格がかなりのぼったくりだな……」
そう言いつつ、クレスはこのラピス村でのこれまでのポーションの相場の推移や最低価格・最高価格、どういうポーションがどれほどでどれくらいの量が販売されたのか!などの資料を読んだ。
「けっ、むなくそ悪くなるくらい、暴利を貪っているな…。特に、この3年前………の…解毒薬………」
クレスは食い入る様に、その部分の資料を読み始めた。
すると次第にクレスの表情が憤怒の表情へと変わっていった。
「あ…の…やろう~~~~!(怒)」
クレスの表情はいつの間にか、能面の如く無表情となっていた。
「サアシア!ひとまず帰ろう。
細かい事はまたここに転送陣で来て設定すればいいのだから!」
サアシアは、それまでのクレスの表情を観察していたので、ここは何も言わない様であった。
「分かったの」
サアシアは小さく“コクン”と頷いた。
そして、クレスとサアシアは、コントロール部屋を後にした…。




