80、スルワ三人衆との再会
9月2日午前8時頃。
オーク狩りに関しての固い握手を交わしたクレスとサアシアは、満足した食欲の次は、睡眠欲が襲ってきたようで、二人揃ってベッドに入ってゆっくりと休んだのであった。
「クレス、おはようなの」
サアシアは“ふぁあ~~”と眠そうに欠伸をしつつ、同じ頃に起きて来たクレスに声を掛けた。
「はあ~」
クレスも一つ大きな欠伸をした。それから、
「おはよう。シア」と挨拶を返した。
「まずは、洗顔して、それから朝食をとるか♪」
そうクレスは話しかけた。
「分かったの」
サアシアは小さく頷いた。
……15分後……
二人は食卓用のテーブルについて食事を始めていた。
「いよいよ、今日だな♪」
クレスは、食事を取りつつ、はやる気持ちを抑えるように低い声で発言した。
“ハムハム”とサアシアはパンを頬張りつつ、“ゴクン”と嚥下した後に話始めた。
「念のため、対ボス戦の作戦を聞かせて欲しいの」
クレスは一口、水を飲み、それから発言した。
「ああ、そうだな…。
まあ、作戦と言っても別段大したモノではないさ。
昨日と同じく傘で防御する。
但し、傘の効果は変化させて“ダメージ吸収”タイプで攻撃を凌ぐつもりだ。
それから急所スキルを使って、敵ボスボーレムの弱点を視認してから、傘で蓄積したダメージを攻撃エネルギーに変換して、攻撃するつもりだな。
一応、こういう方針だが、何か提案とか意見はあるかな?」
とクレスはサアシアに確認した。
それを聞いたサアシアは少し首を傾げて考えていた様であったが、何かを思いついたのか顔を上げて口を開いた。
「昨日のボスボーレムの再攻撃時間が結構“間”が空いていたと思うの。
大体1分間で一度の攻撃リズムだったの」
「ふむ…。それで?」
クレスは相槌を打った。
「だから、その再攻撃時間を少しでも短縮できないか試してみたいの」
クレスは“ピンッ”と来なかったので、サアシアに話の続きを促した。
「つまり、どういう事だ?」
「だから、敵ゴーレムの注意をシアに…つまり、傘に隠れているシアに向けたいの。
より具体的に言うと敵ゴーレムがシアたちに攻撃した後で少し敵愾心が緩んだ“間“がある様に感じられたの。
だから、そう言うときにシアが精霊魔法の風刃でも石の矢でも何でも良いから、攻撃して注意を引きつけたら攻撃のリズムが短縮されるかも知れないと思ったの」
それを聞いたクレス、やっと“ピン!”と来た。
(ああ、オンラインゲームなどであるターゲット取り(タゲ取り)・ヘイト(敵愾心)取りの事か♪)
「シア。それって試してみる価値があるかも知れないな。
もしも成功したら敵ボスゴーレムの攻撃リズムの時間が短縮されて傘に充電されるエネルギーが早めに溜められるかも知れない♪」
クレスは上機嫌で言った。
「じゃあ、シアもボスゴーレムにちょこちょこ石の矢で攻撃してみるの」
「頼んだぜ♪」
クレスはそう答えた。
「そういう訳で、大体の基本方針は決まったな。じゃあ、後は食事を済ませてしまうか♪」
“ハムハム”……“ゴクン”
木の実を食んで飲み込んだサアシアは頷いた。
20分後に朝食を終えたクレスとサアシアは、自宅を出てダンジョンへと赴いたのであった。
…午前9時頃、ダンジョン入口前…
「では、入るぞ。シア」
「了解なの」
サアシアは頷いた。
二人は、揃って、ダンジョンの中へ入って行った。
…正午を少し回った頃の時間…
クレス達は、地下5階のボス部屋前の待合部屋に到達した。
途中の地下1階から地下4階、そして地下5階は昨日で既にルートを確認済みだったので、迷う事がなかった。
また、途中に居た徘徊モンスターも別のPTもマップで確認できたので、多少遠回りとなったが、HPやMP温存を優先したかったので、迂回して移動したのであった。
「やっと着いたな」
クレスはボス部屋の大きな扉を見据えると発言した。
そして、クレスが改めて周囲を観察しようとした時である。
何かがクレスの体に巻き付いた。
「な、なんだ…」
クレスは焦った様に言葉を発したが、自分の体に巻き付いたモノの正体に気づいたクレスは“ギギギギィ”と錆びた蝶番が重たい音を軋ませるときの様な音をさせて、サアシアの方へ首を廻した。
「あ、あのぅ~~、サ、サアシアさん。
この黒い“呪縛“は何でしょうか?(汗)
自分はまだ何もしていないと思うのですが…(滝汗)」
クレスに巻き付いたモノは、サアシアが使用した“呪縛”であった。
一方、クレスの問い掛けに答える様にサアシアは返答した。
「大丈夫なの。熱くないの」と、サアシアは“ケロッ”とした表情で呪縛した事に関してシレっと流した。
「いやいやいや、熱いとか熱くないとかではなくて。なしてボクは呪縛で拘束されているのでしょうか?(汗)」
クレスはまるで合点が行かず、サアシアに改めて話しかけた。
するとサアシアは…
「今はまだしてないけど…、でも……」
と言いつつ、“チラッ”とサアシアはクレスの背後に視線を送った。
するとクレスの背後から聞き覚えのある艶っぽい声が聞こえてきた。
「おやあ~そこに居るのは、昨日出会ったクレスの坊やか~い?♪」
その声を聴いたクレスは、縄で拘束された不自由な体を“ピョンピョン”跳ねつつ、背後に振り返った。
するとそこに居たのはスルワ、セコ助、チカラの奴隷商人兼冒険者の三人衆であった。
そしてスルワの姿をみとめたクレスは、ルパンダイブよろしくスルワに抱き着こうとしたのであったが、……
“バタン”とクレスは地面に顔面から盛大に倒れ込んだ。
「う、動けん……」
黒い縄に縛られた状態のまま立っていたクレスであったが、跳びかかろうとした途端にバランスを崩したのであった。
それを見ていたサアシアは冷ややかに言った。
「さっきは“まだ”何もしていなかったけど、“これからする”事は分かっていたの。
だから縛ったの。
まだ何もしていないから熱くしていないの」
と、サアシア不機嫌そうに言った。
「シ、シア、これは無いだろう!何もしていないのに縛るなんて(汗)」
「シアが実力を行使してクレスを止めたの。
クレスはあのまま放置していたら、昨日と同じ事をしていたの。
まったくクレスは懲りないの。プンプンなの」
サアシアはほっぺを膨らませつつ“私怒ってます”とアピールしている様であった。
そこに、スルワが会話に入ってきた。
「何だか楽しい事をしているねえ~」
そう言いつつ、スルワ達は、ゆっくりとクレスの方に近づいてきた。
寝転んだまま、クレスは器用に体を動かしてスルワの方に顔を向けた。
「こ、こんにちは。スルワお姉ちゃん…。昨日ぶりですね。 アハ アハハハ」
クレスはスルワの目の奥が笑っていない事に気づいて、場を和ます様に愛想笑いを浮かべた。
「クレス坊やぁ、昨日は随分と世話になったわねえ…。昨日の落とし前はまだついていないよぅ~♪」
スルワは、どこからか持ち出したムチをビシャーンと床に打ち据えながら、クレスにより一層近づいてきた。
「あ、あれは、…昨日の事はもう決着済みだったかなあ……と、 アハ アハハハ」
「ふざけるんじゃないよ!アレで決着済みだってぇ~。
このスルワ様が奴隷に成りかけたんだよ。あの程度で済む訳がないんだよ!!」
スルワは額に青筋を立てながらクレスを睨みつけた。
そして、スルワがムチを振り上げてクレスを打ち据え様としたときである。
セコ助がスルワを止めに入った。
「スルワの姐さん。ここではダメですよ。
下手にここで暴れたら、折角のボスへの挑戦権をフイにしかねません。今は我慢ですって」
そう言って、セコ助はスルワの右腕に飛びついて自制を促した。
「チッ、仕方ないねえ~~。
やいクレス坊や!今は見逃すけど今度別の場所で出会ったら、今度こそ奴隷にするからねえ~。
覚悟しておくんだね!」
そういうと、スルワはクレスのそばから離れて部屋の隅の方に移動していった。
すると、今までの諍いの終わるのを待っていたかの様に天井から声が聞こえてきて、ダンジョン挑戦の登録をするかを聞いてきた。
クレスは即座に挑戦を申請した。
ただ、24時間経過後でないと再挑戦はできないとの事で、クレス達の挑戦できるのは午後3時以降となった。
「で、……シア。そろそろこの呪縛を解いてくれないかな?
もうボス戦の挑戦権の登録もしたしバカな事はしないからさ」
床でジタバタ足掻いているクレスを暫し眺めていたサアシアであったが、“約束なの”と言ったあとで、呪縛を解いた。
「ふう~。参った参った…」
クレスは肩コリをほぐす様に首を動かした。
と、その時である。
撤退スペースに或るPTが出現した。
「畜生、あんなストーンゴーレムに勝てる訳ないだろうに!」
「うちらのPTでは勝てそうにないワン」
「ありゃあ、ワシのバトルアックスではどうにも手に負えんわい」
「一度、ダンジョンを出て装備とか整えて出直した方が良いと思うワン」
そう発言するのは、昨日出会ったドワーフとコボルトの4人組のPTであった。
それを見たクレスは思わず叫んでいた。
「あ、昨日出会ったPTの…」
クレスの声を聞いたドワーフとコボルトのPTもクレス達に気づいて、声を掛けてきた。
「おおう。坊主たちもここまで来れたのか。
ほう~、まさか本当に地下5階まで到達できるとはな。驚いたわい。ガハハハ」
PTのリーダーのドワーフは、豪快に笑った。
「本当だワン。昨日の発言はてっきり強がっているだけだと思っていたワン」
その発言を聞いたクレスは苦笑いを浮かべつつ、思った。
(本当にこの世界の人族は弱小種族と認識されているんだなあ…)
「まあ、人族は得てして弱いからなあ…。
ただオレ達は決して無理はしていないぜ。無理なら潔く撤退するさ♪」
それを聞いたリーダーのドワーフは、少し感心した様な表情を浮かべつつ、頷いた。
「ふむ。それが冒険するに際しての生き残る鉄則だな。ちっとは分かっている様だな。ガハハハ」
そう言ったリーダーのドワーフは、仲間に話しかけた。
「では、一旦戻って出直すとするか。行くぞ!」
「おう」
「「分かったワン」」
そう言うと、ドワーフ達のPTは部屋を後にして出て行ったのであった。
一方、どうやらスルワ達がボスモンスターに挑戦する様であった。
スルワが場を仕切る様に発言した。
「いいかい。挑戦して撤退していったさっきのPTの話を耳にしたね。
連中は一つ貴重な情報をくれたよ!それはボスモンスターが“ストーンゴーレム”だと言う事さね」
それを聞いたセコ助も相槌を打った。
「確かに。そう言ってたね、姐さん」
チカラも答えた。
「ボスモンスターがストーンゴーレムなら、わてらには勝てはしませんねん」
「だろ♪なんと言ってもあたしら…ウフフ」
スルワは自慢げな笑みを浮かべた。
「姐さん得意のゴーレムは、アイアンゴーレムだから♪」
セコ助は嬉しそうに言った。
「アイアンゴーレム対ストーンゴーレムの戦い!確実に姐さんのアイアンゴーレムが勝ちますねん」
チカラも嬉しそうに言った。
それを聞いたスルワも嬉しそうに答えた。
「お前ら♪分かっているじゃないかい♪じゃあ行くよ!準備はいいかい?」
「「アラホラサッサ~」」
そう答えるセコ助とチカラであった。
やがて、ボス部屋に通じる大扉が開き始めた。
“ギィ~~~~~~”
スルワ三人衆は、勇んで部屋に入っていった。
………10分後………
撤退スペースにスルワ三人衆が現れた。
「ふざけるんじゃないわよ!何なんだい、あのゴーレムは!!」
苛立たし気にスルワが叫んでいた。
「何回倒しても、再生して復活してきますねえ」
「姐さんのゴーレムで倒しても倒してもその度に再生するからきりがないでますねん(汗)」
「畜生!一旦出直しだよ。セコ助、チカラ、帰るよ」
「「アラホラサッサ~」」
そう言って、待合部屋から引き上げるスルワ達であった。
そして、一瞬スルワはクレスに視線を転じるとこう言った。
「あんたらもせいぜい頑張るんだね。ただ今度よそで出会ったら容赦しないからね!」
そう言うとスルワ達は引き上げて行った。
「行ったな…」
「行ったの…」
クレスとサアシアは、誰ともなしにそう発言した。
時間はまだ午後1時半くらいであった。
その後、クレス達は90分まんじりとせず午後3時まで待機した。
…午後3時過ぎ…
「時間だな!」
「時間なの」
クレスとサアシアは、お互いを見つつ頷くと大扉の前に立った。
やがて大扉は、ゆっくりと開いていった。
クレス達はしっかりした足取りでボス部屋に入って行った。
ボスモンスターとの2度目の対戦である………




