77、ボス部屋と帰還の石
クレス達はその後、何事もなく地下5階へと降りられたのであった。
「ふむ…。やっぱ地下5階は色々と入り組んでいるな…。
ま、それは良いんだけども…ボス部屋にはどうやって行けばいいんだ?」
「クレス、ボス部屋への道順が繋がっている通路がマップに表示されていないの?」
サアシアが聴いてきた。
「いや、そういうんじゃなくてさ…。
マップを見るに結構遠くに100メートル四方の大きめの部屋があって、その部屋につながる様に大きな両扉越しに30メートル四方の部屋があるんだ。
で、その部屋がどこにもつながっていないんだようなあ…」
と、やや困惑する様な表情を浮かべてクレスが答えた。
「つまり、ボス部屋とその部屋につながっている部屋だけが孤立しているの?」
「う~~~ん…そういう事になるなあ…。あ、いや待てよ」
クレスがマップをじっくり観察すると何かに気づいた様な声を上げた。
「隣の30メートル四方の部屋の隅にどうやら転送魔法陣があるな…。
どうやらその魔法陣と別の魔法陣が繋がっているみたいだな…」
「と言う事は、その転送魔法陣と対を成すもう1個の魔法陣を見つけ出して、そこから転送すれば良いのね?」
と、サアシアが確認しつつ聞いてきた。
「そういう事になるな!」
クレスは合点がいったような表情を浮かべて嬉しそうに答えた。
「それで、転送魔法陣らしきものはどこにあるのか。マップ上に表示されているの?」
「ああ、それは恐らく……」
クレスは、マックをチェックしているようなそぶりをしつつ、こう答えた。
「恐らく、ここから北西の方角にある魔法陣がそれらしく思えるな…」
「だったら、まずはそこに行ってみるのが良いと思うの」
「だな。善は急げだな♪」
クレスとサアシアは地下4階でのドタバタがウソの様に阿吽の呼吸で方針を決めてダンジョンの中を進み始めた。
クレス達は攻略時間を少しでも短縮すべく、無用な戦闘を避けて駆け足でダンジョンを踏破して行った…
……60分後……
「ここがそうなの?」
とサアシアは、前方の床に見える魔法陣を見据えつつクレスに質問した。
「ああ。これがそうだ。これが転送魔法陣だ。さっさと行こうぜ!」
クレスはサアシアに促した。
「分かったの」
サアシアも“コクン”と頷き返した。
クレスとサアシアは、躊躇いなく魔法陣に乗った。その後、数秒後に二人は掻き消えた。
“シュン”
という、擬音と共にクレスとサアシアは、見知らぬ大部屋に出た。
「どうやら、先ほど話題に上った30メートル四方の部屋だな」
そう言いつつ、クレスは辺りを見渡した。
辺りは、北の方に高さ10メートルは有りそうな大きな金属製の観音扉が据えられていた。
すると、部屋の天井の中心部らしき処から、男とも女とも区別のつかない声が聞こえてきた。
「ダンジョン改変後、初のダンジョンボス部屋待合部屋にようこそ。
ここは、ダンジョンマスターの地位を得るべく、ダンジョンボスに挑戦するPTが待機する待合部屋です。
現在、この待合部屋に居るのはPT名:エンシェントのみです。
ダンジョンボスへの挑戦登録をしますか?」
それを聞いたクレスは、間髪入れずに「挑戦する!」と答えた。
「挑戦申請を受諾しました。
挑戦開始時間は現在、他に待っているPTがいないので、開始時間制限はありません。
ただ、もしも別のPTがこの部屋に到来して挑戦申請した場合は、その時間より10分以内にボスに挑戦して頂くか、挑戦権を後発PTに譲渡しなければなりません。
尚、この待合部屋でのPT同士の戦闘は禁止されております。説明は以上となります。
ボスへの挑戦をなしたい場合は口頭にて申請されて下さい」
「最後に、当ダンジョンでの対ボス戦に関しての注意事項を申し上げます。
当ダンジョンでの対ボス戦は、撤退を認めております。
撤退したい場合は、観音扉の半径5メートル以内のエリアに“撤退の意思を持って”当該エリアに進入して下さい。
PTのうち、一人でも撤退の意思を持って当該エリアに入った場合は、PT全体が撤退を選択したと看做して、PT全員をボス部屋からこの待合部屋に転送させます。
そして撤退したPTは24時間のボスへの挑戦権を失います。
再度挑戦したい場合は、24時間経過後に挑戦可能となります」
その説明を聞いたクレスは、一つ質問した。
「もしも、“撤退の意思を持たず“に撤退エリアに不用意に入った場合はどうなるんだ?」
「その場合は、戦闘継続扱いとなります。
同時に撤退エリアには透明な壁が展開されており、不用意に進入した挑戦者は、撤退エリアより弾き飛ばされます」
(なるほどな…)クレスはちょっと感心した。
またこれまでの話を聞いていたご隠居は、2度ほど頷きつつ話に入ってきた。
「フォフォ。このラピス村のダンジョンは優しい設計になっておるのう…」
「優しい?それってどういう意味だ?ご隠居」
クレスが質問した。
「今、話題に上った撤退エリアじゃがのう。
それって、ダンジョンによっては設定されていないダンジョンもあるのじゃよ。フォフォ」
「設定されていない?
だったら、もしも、戦況が不利になって撤退したくなったらどうすれば良いんだ?」
「フォフォ。一つは勝敗の決着が着くまでの殲滅戦じゃのう。
どちらかが全滅・死亡するまで逃げられん」
「マジかよ…」
クレスは少しうすら寒く感じた。
「で、もう一つは、アイテムを使って脱出する方法があるのう」
「アイテム?」
「そうじゃよ。冒険者ギルドで売っておっての。
“帰還の石”という使い捨てのアイテムじゃよ。
これは、いよいよピンチとなりダンジョンのボス部屋から脱出したくなった時に、床に叩きつける事により地表へと脱出できるのじゃよ。
ただ、これは一人用の使い捨てアイテムでのう。一つのPTではないのじゃよ。
じゃから、例えば、クレスとサアシアの場合はそれぞれ1個ずつ帰還の石を使用せねばダメなのじゃよ。フォフォ」
「げ?PT用ではなくて、個人用の使い捨てアイテムかよ?」
ふと、そこでクレスは嫌な予感がしたのでご隠居に聞いてみた。
「その帰還の石って幾ら?」
「フォフォ。1個100万ザガネじゃのう」
「うわっ、たっけえ~~」
クレスは思わず、吐き捨てた。
「じゃがのう。これはラピス村のダンジョンの規模の場合で使える“帰還の石”なのじゃよ。
もしも、このラピス村のダンジョンよりも規模の大きいダンジョンなどの場合は、必然的に必要とされる帰還の石の価格も上がるはずじゃのう。フォフォ」
それを聞いたクレスは、“はあ~~~”と盛大にため息をついた。
「勘弁してくれよう~。
ただでさえ、100万ザガネって高額で使い捨てアイテムアイテムなのに、それ以上に価格アップなんてシャレにならねえよ…」
「フォフォ。じゃがの。使えるだけマシな場合もあるのじゃぞ」
「うん?どういう事?」
クレスは疑問に持って尋ねた。
「数あるダンジョンの中では、帰還の石の効果を妨害するシステムを組み込んでいる場合もあるのじゃよ。フォフォ」
「げえ~、それって帰還の石の使用を前提に組み込んだ場合の戦略が崩れるじゃないかよ!」
と、クレスは突っ込みを入れた。
「じゃから、このラピス村のダンジョンは優しい設計になっておると言うたのじゃよ。フォフォフォ」
これまでの話を聞いたクレスは、ご隠居の話を聞いて“尤もだな”と感じ入った…




