66、真偽の判定スキル
……8月9日早朝……
「おはよう、シア」
クレスは顔を洗って朝食の支度をしていたら、その物音を聴きつけたのか、サアシアも起き出してきた。
「おはようなの」
サアシアも眠そうにしながら、挨拶を返してきた。
「シアの洗顔したり、身支度を整えてくれ!その間にオレは朝食を作っておくから」
「分かったの」
サアシアは眠そうに目をこすりつつ返答してきた。
15分後…
「では、食べるか」
二人はテーブルについて、食事を始めた。
「食べながらで良いから、ちょっと聞いてくれ」
“ハムハム”と口に食べ物を頬張りながら、サアシアは“コクリ”と頷いた。
「備蓄してあった、保存食とか森で採集してあった木の実とかがいよいよなくなりそうなんだ。
だから、村の食料品店に行って、買いだめしてこようと思っている」
“ハムハム…ごくん”と食べ物を嚥下してサアシアは聞き返してきた。
「これまで、村で食料を買った事がなかったはずなの。
ずっと森の木の実や保存食で賄ってきたはずなの。
それを変更するのは何故なの?」
「ああ、それな。地下5階でもオレ達から問題なく冒険できそうなのが、分かったからな。だったら、同じ時間を森で食料採集の時間に費やすよりも、ダンジョンで冒険して戦利品を獲て、売却してその金で食料品を買った方が効率が良さそうだと判断したから何だ」
そう言ってクレスは己の考えを述べた。
“ハムハムハム“
「そ、そういう理由なのね。分かったの」
“ゴクン”とパンを食べつつ頷いた。
「それにな…」
と、クレスは言いにくそうに話を続けた。
「良い稼ぎが得られるようになったから、最近は食事事情を改善していたんだよ。
例えば、以前なら祭のときだけ食べる保存肉を普段でも食べるとか…。
でも、やっぱ味気ないから、もう少し食事のグレードを上げようかと思ってなあ…」
クレスは遠い目をした…
「食事のグレード?」
「ああ…。以前は1日の食費が50ザガネだったんだよ…」
“ボソっ”とクレスは答えた。
それを聞いたサアシアは一瞬表情が固まった。数舜後にサアシアは確認すべく問い返した。
「1日50ザガネなの?500ザガネの言い間違いではなくて?」
「ああ、…50ザガネに間違いないよ…」
その答えを聞いたサアシアは、少し信じられない様な表情を浮かべた。
「どうやって、1日一人50ザガネの食費でやりくりしてきたの?
ちょっと訳が分からないの(汗)」
「いやあ…、オレも自分でやりくりしてきたが、自分でもちょっと信じられなかったよ…。まあ、リアンばあちゃんが以前に買いだめしておいてくれた保存食などがあったからそれで何とかやりくりできていただけなのが実情なんだけどな…(汗)」
「正直、それがなかったらヤバかったよ」
(それにこの世界は一次産業品は前世の発展途上国と同様に物価が安いのが幸いだったみたいだな…。
その代わりに、自動車の様な加工品はメチャクチャ価格が高い様だけどな…。
はあ~(嘆息))
「ただ、今ならそれなりに預金もあるし、村で食料品を買った方が美味しい食事も揃えられると思ってさ。だから一人の1日の食費を千ザガネにしても大丈夫と考えた訳なんだ」
それを聞いていたサアシアは答えた。
「分かったの」“コクリ”と頷いた。
「それで今日は取り敢えず、オレが村に行って食料品を買い溜めしてくるから、シアは少し家で待っていて欲しい。なに1時間も掛からずに終わるはずだ」
「了解なの。では、クレスが買い物を済ませるまで家に居るの」
サアシアはそう答えた。
「決まりだな。食事を終えたら買い出しに行ってくるぜ!」
そう言って、クレスは食事を再開した。
…食事を終えたクレスは、村の食料品店へとやってきた。
「では入るとするか…」
クレスはドアノブに手をかけてドアを開けた。
“チリ~~ン”
ドアについていた呼び鈴がドアの開閉に伴い、音が響いた。
「いらっしゃい♪」
店員?(店主?)らしき人物がクレスの姿を認めて、声をかけてきた。
その店員はゴブリン族の中年の女性?と思えた。
体格が幾分小さい事と声が中年女性に思えたのがその理由である。
その店員の態度にはゴブリン族でありながら、人族のクレスを蔑んだり、邪険にする様子は見られなかった。
(珍しいなあ…。大抵のゴブリン族は人族のオレを見るとイヤな顔をするんだが…)
クレスは若干訝しく思ったが、本来の目的の買い物をしようと思って話を切り出した。
「保存食や鶏肉・パン・果実ジュースとか、そこそこのレベルの食料品を買いに来たんだ。量は二人分で10日分くらい見繕ってもらいたい」
「はい。分かりました」
そういうと、店員は棚などや奥に備蓄しているらしい様々な食糧を見繕い用意し始めた。
「はい。大体こんな処ですね…」
店員はカウンターにそれなりの量の食料品を並べた。
「それなりに量があるな…。それで幾らになる?」
「はい。〆て20万ザガネになります♪」
それを聞いたクレスは思わず、やや大きめの声で問い返した。
「に、20万ザガネだって?」
「はい。そうです。20万ザガネですぅ~」
店員はニッコリとほほ笑みながら、話した。
「20万ザガネって、ちょっと高いと思うんだが…」
クレスは己の疑問を素直に投げかけた。
「当店の品は新鮮で品質もとても良いなので、よそよりはすこ~~し高いかも知れませんが、十分にその価格に見合う品ですぅ~」
「20万ザガネかあ~」
クレスはその商品をシゲシゲと眺めた。
(う~~ん、幾ら高品質で新鮮な品と言っても、さすがに20万ザガネは高いよなあ…。あ、そうだ♪“鑑定”してみたら良いんだ♪よしスキル“鑑定”発動!)
すると…鑑定結果:食料品~品質:通常分、相場価格:2万ザガネと出た。
それを見たクレスは思わず怒鳴ろうとしたのが、その時に例のチャイム音が聞こえてきた。
“ピンポーン”
§§§
【個別指令の発令】
詳細
スキル:“真偽の判定”の入手
クリア条件:今現在の食料品の売買に於いて、10回取引を成してボラレる事。
“真偽の判定”の効能:使用する事により相手の審議を判別できる。
本当の場合は、顔色が青色。嘘の場合は顔色が赤色となる。
範囲:視界内。
基本消費MP3。持続時間:1時間
§§§
(ここに来て、そういう個別指令の到来か…)
クレスは思わず、歯ぎしりした。
(くそう、この取引でオレがボラレないと指令を完了できない仕組みかよ!
う~~ん……本来の相場が2万ザガネの処、10倍の20万ザガネの価格かよ!
畜生、18万ザガネの余計な出費かよ…)
クレスは内心大いにいら立っていた。
(いやだよなあ…。
イヤだけど…う~~ん…スキル獲得の授業料と思って、割り切るしかないのか……悔しいが仕方ないか…)
クレスは、凄く苛立ったが、スキル獲得の為と割り切って、購入を決意した。
「20万、20万ザガネね…。
それで買っても良いけど、ちょっと中身を小分けしてその小分けした単位で購入したい。具体的には1日分ずつ、購入したい。頼めるか?」
それを聞いた店員は満面の笑みを浮かべて“ニッコリ”とほほ笑んだ。
「はい。大丈夫でございます。
それでは1日分ずつに小分けして、合計10日分の食料で精算させて頂きますね」
そう言って、店員は10等分した。
クレスは、その食料品を合計10回取引して取引を終えた。
その途端に…ファンファーレが聞こえてきた。
「おめでとう。スキル“審議の判定”を入手しました」
それを聞いたクレスは“やったぜ♪”という表情を内心浮かべつつ、表面は努めて平然としながら、食料品を背後に背負ったリュックに収めた。
そして
「じゃあな」と一言だけ言って店を後にした。
店影に入って人目のない事を確認したクレスは、収納空間に購入した食料品を収めた。
「よし。では一旦帰るか…」
クレスは自宅へと戻った。
「食料品を買ってきた」
クレスはサアシアにそう声をかけた。
「おかえりなの」
サアシアもクレスに返答した。
「それじゃあ、今日もダンジョンにそろそろ出発するか♪」
「分かったの」
クレス達は、ダンジョンに出発したのであった…




