65、ダンジョンマスターとダンジョンボスとは?
……午後5時頃、クレスの自宅……
クレスとサアシアはテーブルにて向かい合う形で椅子に座った。
「さて、これからどうするかの方針を決めたいんだけど、その前に色々とご隠居に教えてもらった方が良いと考えたんだ」
「ほう。それは何かのう?フォフォ」
「オレは先日、毒ダンジョンの地下5階に行った。そうだよな?」
「フォフォ。そうじゃのう」
「確か、毒ダンジョンは地下5階までだったよな?」
「その通りじゃのう」
「と言う事は、もう少し地下5階を探索すればボス部屋に辿り付けると言う事だよなあ」
「フォフォフォ。そうじゃのう」
「だったら、もしもボスを倒せたらオレがダンジョンマスターになれるんだよな!」
クレスは、身を乗り出さんばかりにご隠居に聞いてきた。
「フォフォ。クレスもそろそろボス攻略を射程圏内に収めつつあると言った処かのう。では、ダンジョンマスターとダンジョンとボス部屋に関して、簡単に説明しておくかのう」
“どっこいしょ“とご隠居は、空中で胡坐を掻いた。
「では説明を再開するかのう。ダンジョンマスターの地位と言うのは、次の条件によって変更される。
1、ダンジョンのボスを倒す事。
2、後継者を定めないまま、ダンジョンマスターが死亡する事。
3、ダンジョンマスターの地位を何らかの理由により、譲渡する事。
大まかに分けると以上の3通りじゃのう」
「まずは、1のダンジョンのボスを倒す事 これに関して説明するかのう。
実は、これは、攻略できる日にちが基本的に決まっておるのじゃよ」
それを聞いたクレスは思わず聞き返した。
「え?決まっているのか!」
「そうのじゃよ。例えば、このラピス村のダンジョンの場合だと、2月1日から7日間なのじゃよ」
「なんで、その期間限定なんだ?」
「実はその前に2月1日の前日の1月30日の24時間はダンジョンへの入場は不可能となっておる。
仮にダンジョンに潜っている者は強制的にダンジョンの外に転送される。
そして、その24時間をかけて、ダンジョン内部は、新たな構築をされる。
間取り、罠、モンスターの配置など、全てのう。
これにより事前のダンジョンの情報がリセットされる仕組みとなっておるのが、ある意味面倒な部分と言えようのう。
これを人は“ダンジョン改変”と呼んでおるのう。フォフォ」
「結構エグイ設定なんだな…」
クレスは顰め面をした。
「そうそう。期間限定に関しての質問じゃったの。
このラピス村の毒ダンジョンが初めて攻略されたのが2月1日だったからじゃよ。
この期間に限って、ダンジョンの入場料金及び、ボス部屋への挑戦料金はゼロとなるのじゃよ」
「ぜ、ゼロ?まったくの無料なのか?」
「フォフォ。そうじゃよ」
「な、なんで普段は結構な額のダンジョン入場料金を徴収しているのに、その期間だけはタダなんだよ?」
「それはのう。“力ある者・実力のある者は例え無一文でも誰でもダンジョンマスターになれる機会を平等に与えよう!“と言う趣旨から全てのダンジョンに設定されているルールなのじゃよ」
「そりゃまた何で?」
「フォフォ以前にも言ったと思うが、ダンジョンの存在及びギルドは力有る者を優遇する措置を取っているようじゃからのう。それが理由だろうのう」
「逆に、普段の日は基本的にボスに挑戦できない様になっておる。
もしも、どうしても挑戦したい場合には、莫大な挑戦料金を支払う必要があるのじゃよ。フォフォ」
「莫大な挑戦料金!?それって幾ら位?」
「フォフォ。この毒ダンジョンの場合だと一人について1億ザガネじゃのう」
「1億ザガネ~~~~」
クレスはあまりの金額に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「そんな金を払える訳ないよ」
「フォフォ。まあそうじゃのう。
ただ、中には、お金持ちや大貴族などは金にモノを言わせて挑戦する事もあるようじゃがのう」
「マジかよ…(汗)」
クレスは呆気にとられた。
「そして、実際のボスに関してなのだが、大きく分けて3通りに出現タイプが分かれる」
「3通り?」
「そうじゃよ。
一つは、領主、つまりはダンジョンマスター本人。
一つはダンジョンマスターの分身。分身は本来のダンジョンマスターより弱い設定となっておる。これは本人が遠くなどに行っており、自分自身が挑戦者と対戦できない場合などに設定したりしておるのう。
そしてもう一つは、それぞれのダンジョン特有のモンスターじゃな。例えば、毒ダンジョンだとゴーレムがボスじゃのう。ただ、このモンスターのボスも結構ランダムで変化するのじゃよ。フォフォ」
それを聞いたクレスは、低く唸った。
「結構、面倒な設定になっているんだな」
「フォフォ。では次の“2、後継者を定めないまま、ダンジョンマスターが死亡する事。”について説明しよう。
これは領主、つまりダンジョンマスターが寿命・怪我・病気などで死亡して、且つ、後継者を定めていない場合についてなのじゃが、この場合は、ダンジョンマスターの主は不存在となってしまう。
そうなってしまうと、周囲の環境の安定化の為にも早急に新たなダンジョンマスターを決めなければならない。
よって、ダンジョンは、次の様な事象を生じる。
一つ目は、1日かけて“ダンジョン改変”がなされる。
二つ目は、ダンジョン改変直後、誰かが、ダンジョンマスターになるまで料金がゼロとなる。
これは誰でも良いからダンジョンマスターになって貰って、ダンジョン周辺の環境を安定させて欲しいのじゃろうのう」
「なるほどね…」
クレスは一言呟いた。
「次は、“3、ダンジョンマスターの地位を何らかの理由により、譲渡する事。”の説明じゃな。
これは分かり易い事例を挙げるならば、自分の後継者、息子などにそのダンジョンマスターの地位を譲渡した場合などに生じる事例じゃのう」
「ああ、なるほどね。これが一番分かり易いぜ♪」
クレスは大きく頷いた。
「以上で簡単な説明を終えるとするかのう。
それでそういう訳で現状ではクレスは毒ダンジョンへの挑戦は事実上不可能なのじゃよ。フォフォ」
それを聞いたクレスは、苦虫を噛み潰したような渋い顔をしていた。
「残念ながら、ご隠居の言う通りだな…。
となると、ここ当面の目標は地下5階を中心にドロップアイテムや宝箱の回収でコツコツと稼ぐのが一番だと思うな…。シアはどう思う?」
「シアもその考えに賛成なの。
コツコツ稼いで、来年の2月にダンジョンダスターにでも挑戦すれば良いと思うの」
それを聞いたクレスは言葉を綴った。
「それじゃあ、そういう感じの方針でひとまず、冒険を進めようと思う。
それじゃあ。本日の会議はおしまい♪」
「会議だったの?」
「ああ、まあな♪今決めたけどな(苦笑)」
「では、今日はもうゆっくりと夕食を取って、久々に竪琴でも演奏して寛ぐとするか♪」
「クレスの演奏を聴くのは初めてなの。楽しみなの♪」
そう言って、サアシアは何だか楽し気であった。
クレス達はその後、夕食を取ってから2時間ほど演奏会?実際はクレスのソロ演奏であったが…その演奏を行った後で就寝したのであった。




