63、サアシアの下士官昇進試験
……クレスの自宅……
二人はテーブルのそばにある椅子に座った。
「シア。今日は本当に頑張ったな」
「クレスが見張っていてくれたお陰で薬草採集に専念できたの」
サアシアが軽く笑みを浮かべた。
「ま、まあ同じパーティの仲間だしな…」
クレスは何だか照れた様にそう答えた。
「ま、まあ今日はシアも疲れたと思うから早めに休んだ方が良いと思うぞ」
「シアもそう思うの」
「だよな♪じゃあ、下士官昇進試験の討伐は明日起きてからで良いかな?」
「分かったの。シアもそれが良いと思うの」
その後、二人は疲れた体を休める為に床に就いた。
8月8日早朝…
二人は村の結界の外の砂漠に居た。
「全然見つからないの…」
サアシアは目的の獲物を見つけられずに不満気に口を尖らせてそう言った。
「ハハ。まあそうなるだろうとは思ったよ。
奴らは砂漠の景色に同化・擬態して見つけにくくなっているからな」
クレスはそう言うと、探索と索敵のスキルを使用した。
「そか。あそこに居るのか?!
今からオレが順番に砂漠サソリ→砂漠の一角ウサギ→砂漠狼の順番で石を投げて奴らの注意を引くから、シアはそのスキを突いて目標のモンスターを討伐してくれ!」
それを聞いたサアシアは
「分かったの」と頷いた。
「ここから前方、20メートル先に砂漠サソリがいる。シアはそれを討伐してくれ」
「了解なの」
クレスは懐から出した石を目標目掛けて投げた。
すると“すう~”っと今まで見えなかった砂漠サソリが見え始めた。
「あそこだ」クレスはそう叫んだ。
「分かったの」
サアシアは、一瞬身構えた。
すると、サアシアのそばに薄ぼんやりと半透明な三日月状のギロチンの様なモノが現れた。
「斬るの!」とだけ言った。
途端に、その三日月状のギロチン?は砂漠サソリに疾く飛んでいき、一瞬で切断した。
砂漠サソリはすぐに消えた。
サアシアはそのそばに行き、ドロップアイテムを回収しているようである。
「終わったの」
「ず、随分とあっさりとケリをつけたなあ…。今のはなんだ?」
「今のは風の精霊魔法の“風刃”なの。
ここは砂漠で、風の精霊がそこかしらに存在しているの。だから風の精霊の力を借りたの」
「今度は風の精霊か…。シアは精霊魔法は便利だな…」
クレスは言葉を続けた。
「ああ、今度は、砂漠ウサギでも狩るか!ちょうど索敵に一匹反応したからな。こっちだ」
クレスは、北の方向へと歩き出した。
……1時間後……
クレス達のそばには、一角ウサギではなく、砂漠狼が存在した。
“存在した”のである。
その姿はもう見えない。
「まさか、砂漠の一角ウサギを狩ろうとした処に、はぐれ狼が彷徨って急にくるか!」
クレスは吐き捨てる様に言った。
「でも、問題なかったの」
サアシアがぼそっと言った。
「まあ確かに、問題はなかったけどよう…」
クレスは5分ほど前の戦闘を回想しつつ発言した。
「狼が凡そ50頭だぞ、50頭!それをシアはあっさりと先ほどの精霊魔法の“風刃”であっという間に刈り取るんだものなあ…」
はぐれ狼の遠吠えによって、仲間とおぼしき狼が次々にやってきた。
以前のピンチを思い出したクレスは急ぎ傘を用意したのだが、サアシアは、“風刃”を自身の周囲に多数浮かべると狼共が50メートル位にまで接近したら、まるで麦畑の麦を刈り取る様な感じで淡々と狼の首目掛けて“風刃“を放っていった。
その猛攻は狼どもの一切の反撃を許さずに狼の命を刈り取って行った。
クレスは、自身が苦労して昇進試験をクリアした状況と比較して、一つ大きなため息をついた。
「全然違うよなあ…。オレってほんと攻撃力が貧弱だよなあ…」
「これが種族格差と言うヤツなのか…」
クレスは遠い目をしつつ黄昏れた。
最初に討伐した一角ウサギとその後に成り行きで討伐する事になった狼のドロップアイテムを回収し終えたサアシアがクレスのそばにやってきた。
「アイテムの回収が終わったの。昇進試験も終わったの」
「ああ、…そうだな…。帰るか…」
クレスは半分彼我の差に愕然としつつも達観した様な表情を浮かべつつ、村へと足を向けた。
……冒険者ギルド……
クレス達はライサス嬢の居るカウンター前に並んだらすぐに順番が回ってきた。
サアシアは一歩前に出て昇進試験に必要なドロップアイテムをカウンターの上に置いた。
「昇進試験完了の為のロドップアイテムはこれで良いの?」
サアシアが質問した。
するとライサスがほほ笑みながら
「ちょっと待ってね。確認するから。
それをサアシアさんはギルドカードをカウンターの上に置いて下さい♪」
サアシアは言われるがまま、カードを置いた。
2~3分かけてライサスは手続きらしきものを進めていた。
そして…
「おめでとうございます。下士官昇進試験のクリアを確認できました。これにてサアシアさんは伍長です。いま、提出されたドロップアイテムはこちらで買い取りしましょうか?」
「少し待って欲しいの。これから出すドロップアイテムも買い取って欲しいの」
そう言って、サアシアは砂漠狼24頭分のドロップアイテムをカウンターに置くと共に、残りの24頭分のドロップアイテムをクレスに渡した。
「待った。だったらオレもだ」
そう言って、クレスは先日入手した大サソリのドロップアイテム5体分をサアシアに渡した。
結局クレスもサアシアと同様に、砂漠狼のドロップアイテム24頭分と大サソリ5匹分を通常クエスト完了と言う形を取りつつ、買い取りをライサスに求めたのであった。
「分かりました。サアシアさんとクレスさんは、ギルドから出される通常依頼をこなしつつドロップアイテムの買い取りを求めるのですね。
では……まずはそれぞれ39150ザガネずつお渡ししますね。
それとサアシアさんには、砂漠サソリ1匹と一角ウサギ1匹分〆て1400ザガネを追加でお渡しします。どうかお受け取り下さい」
「では、これも買い取って欲しいの」
そう言うとサアシアは以前に得た戦利品のキャリオンクローラーお魔石と触手を提示した。
「はい。分かりました。それは5500ザガネですね。どうかそれも含めてお確かめください」
クレスとサアシアは間違い事を確認すると全てギルド銀行に預金した。
これで
クレスの預金は約150万ザガネ
サアシアの預金は約11万ザガネとなった。
「そう言えば、ライサスさんに少し確認したい事があったんだよ」
クレスは発言した。
「あら、何かしら?」
「えとさあ、オレって自分で言うのもなんだけど結構なクエストの数をこなして、ギルドへの貢献点を稼いでいると思うんだけど、まだ軍曹に昇進できないのかなあ?」
「ああ、その事ねえ…」
ライサスは、思わせぶりな表情を浮かべつつ答えた。
そして、言いにくそうにしつつ、ポツリポツリと話し始めた。
「兵卒から下士官への昇進は案外あっさりとできるんですけども。
…ただね、下士官の伍長になったら途端に昇進がスローペースになるのよねえ。
これはクレス君に限らず、大抵の冒険者が感じて質問してくる内容なのよねえ…」
「そんなに昇進しにくい訳?」
クレスは繰り言の様に問い返した。
「ええ…。他の冒険者の方も相当に頑張ってようやく一歩ずつ昇進していく感じだからねえ…。
それにギルドや一般住民の人たちも下士官になれてようやく冒険者として一人前と看做す風潮があるみたいなのよ。
それだから、ある意味少しでも冒険者を社会人として一人前として待遇できるように早めに下士官に昇進し易くしているフシも見受けられるよのねえ…」
「そうかあ…。そういう思惑もあったんだ…」
クレスも思わず感心したかの様に頷いた。
「だからね、クレス君もあまり焦らずにコツコツとクエストをこなして、一歩一歩着実に頑張って昇進すれば良いと思うわよ」
「分かった。色々説明ありがとう。ラシアスさん」
クレスは軽く一礼してライサスに礼をした。
「いいのよ。これもギルドの仕事なんだから。じゃあ、クレス君も頑張ってね♪」
「ああ。じゃあまた♪」
クレスは手を振りつつ、サアシアを促して、一緒にその場を後にしたのだった。




