62、サアシアの冒険者登録とランクアップとサアシアの実力
8月7日 早朝
起きた二人は簡単な食事を済ませてから冒険者ギルドに向かった。
「あ、いた居た」
クレスはライサス嬢を発見して、カウンターに並んだ。
約10分後に、クレス達の番となった。
「あら、クレス君おはよう。どうしたの?」
「実は、連れの冒険者登録をしたいので来ました」
そう言ってクレスは、ローブを羽織ったサアシアを示した。
その示された人物を見たライサスは(随分と小柄なのね)と思ったが、クレスと言う先例があり、小柄でも成人に達している事もあるので、黙って手続きを進めた。
「そうなの。では、この紙に必要事項を記入してね」
「はい」
サアシアはおとなしく受け取って必要事項を埋め始めた。
サアシアが書類に記入している間にクレスは質問をしておこうと思って、ライサスに問い掛けた。
「ライサスさん。パーティを組んでいたら、リーダーが伍長以上なら、リーダー以外のメンバーのギルドランクが伍長未満でも一緒にダンジョンの中に入れますよね?」
「ええ。リーダーさえ、伍長以上なら、ダンジョンに入れるわ」
「良かった。それを確認したかったのです。ありがとう」
するとサアシアは書類を書き終えた様であり、ライサスに話しかけた。
「これで良いの?」
さっと、書類を確認したライサスはニッコリほほ笑んだ。
「ええ。OKよ。これであなたも…ええと、サアシアさんね。
冒険者よ。ただ仮登録みたいなものね。
本当のランクの二等兵になるのには、タンポーポの採集をこなしたらOKよ」
「確か、タンポーポ1000本で二等兵。アサカオ1000組で一等兵、ユウカオ1000組で上等兵に昇進。
そして士官・伍長への昇進試験は砂漠で砂漠サソリ、一角ウサギ、砂漠狼の討伐成功が条件でしたよね?」
とクレスはライサスに確認した。
「ええそうよ」
「分かりました。シア行こう!」
と誘った。
「分かったの」
そう言って、サアシアも同意してその場を後にした。
ダンジョンの入口そば…
クレスがサアシアに話しかけた。
「一つ目の目標は、薬草採集だな」
「そうなるの」
「普通は、村外れにある森の中で薬草採集するのが一般的だな。
オレもそうして採集したよ。ただ、探すのが結構時間がかかるんだよ」
「そうなの?」
「ああ。一種類の薬草を探すのに5~10日位かかったよ…」
クレスはややうんざりした表情で答えた。
「あまり生育していないの?」
「そうだな。あまり一つの地域に密集して生育していないし、そもそも見つけるのが意外と面倒だったな…」
クレスは、自分のクエストをこなすのに頑張った過去をチラっと思い出したのか、遠い目をした。
「一方、ダンジョンの中には通称“薬草部屋”と言うモノが存在する」
「薬草部屋?」
「ああ。これはダンジョンの地下2階以降い存在する部屋で、それなりに広い部屋に様々な薬草が密集して自生しているんだ。あたかも畑で育てている様な感じでな…」
「…それって、自生しているって言うの?」
サアシアは腑に落ちない様子で聞いてきた。
「まあ、オレも可笑しいとは思ったよ。
でも、ダンジョンとはそういうモノなんだろう!と無理やり納得したよ」
と、クレスは苦笑交じりに答えた。
「あから、時間の節約を兼ねて、薬草採集はダンジョンでこなすのが望ましいと判断したんだ。シアはどう思う?」
「…シアもそれが良いと思うの」
「じゃあ決まりだな♪」
「そうそう。一応、パーティを組んでおかないとな。
昨日は本当に急だったから仮称も決めずにパーティを組んでの編成だったけど、昨日ダンジョンから抜けたら暫定的なパーティは即座に解散扱いになったけど、今日は一応仮りでも良いからきちんと名前を付けてパ-ティ編成しておこうと思うんだ。シアはどう思う?」
「賛成なの。では、名前をどうするの?」
すると、クレスは幾分テレ気味にこう答えた。
「一応、夕べの段階で考えておいたんだ」
そう言ってクレスはそばに誰も居ない事を確認して、こう言った。
「二人とも、ロストロイヤルだ。
そして血筋的にも古いから古代を意味する“エンシェント”はどうだろうか?」
と、クレスはサアシアに聞いてきた。
「良いと思うの。
それれ仮称だから、他にもっと気に入った名前を思いついたら変更すれば良いの」
「決まりだな♪では、その名前でギルドカードにて登録・編成するか♪シアもギルドカードを介してパーティ登録を申請してくれ」
「分かったの」
そうして二人は、カードを通じてパーティを組んだ。
「へえ…。パーティメンバー数の上限って4人までなんだな…。知らなかったぜ」
クレスはカードの画面を見入って、パーティ上限数なるモノを発見して、ちょっと驚いていたのであった。
「それじゃあ、ダンジョンの中に入ろうか」
するとサアシアがクレスに話しかけた。
「昨日のダンジョンの中では、殆どクレスのみが活躍したの。
シアだとダンジョン内部のマップの把握や徘徊しているモンスターの把握は無理だけど、せめて遭遇したモンスターはシアが対処したいの」
「シアが?」
クレスはサアシアの背格好からまだ幼い少女だと判断しているので、その実力を不安視した。
「仮にも、ロストロイヤルのエルフ族なの。
その辺りのモンスターには引けを取らないの。それに精霊魔法が使えるの」
「精霊魔法を?」
クレスは驚いて問い返した。
「そうなの。だから大丈夫なの。
もしも、クレスから見て戦況が悪いと判断したら加勢して良いの」
「う~~ん。だったら、ひとまずシアのお手並みを拝見しますか♪」
クレスは、そう言って、了解したのであった。
それからクレス達一行は、ダンジョンの入口に並んで、順番の来るのを待った。
「次はその方達か」
入口の警備兵がクレス達にそう問いかけた。
「そうだ。オレ達二人でパーティを組んでいる」
「ふむ。地下1階の入場料金は、一人5千ザガネだ。二人だから合計1万ザガネだ」
「え?1パーティで5千ザガネではないの?」
「いや違う。あくまでも一人で計算する一パーティでは計算しない」
「そうかあ…」
それを背後で聞いていたサアシアは素早く入場手続きを進めていた。
「はい。5千ザガネ。これで良いの?」
と既に支払っていた。
(は、はやい…)
クレスはサアシアの所持金の少なさを鑑みてサアシアの稼ぎが順調に軌道に乗るまでは面倒見ようと思っていたのだった。
「シ、シア早いって…」
するとサアシアは背後を振り返ってクレスに告げた。
「クレスも早く手続きをするの」
「あ、ああ…」
クレスは場の雰囲気に半ば流される様にカードを通じて入場料を支払った。
ダンジョンの地下1階に入場した直後にクレスはいつも通りのスキルを使用した。
サアシアもインフラビジョンを使ったのか、ダンジョンの中は暗いにも拘らず、足取りに覚束無い様子はなかった。
そして、サアシアは背後のクレスに振り返って聞いてきた。
「それで、ダンジョンの中の罠や徘徊しているモンスターの状況を教えて欲しいの」
「ああ。そうだな。やっぱ、オレが先行して歩くよ。
まずは、地下2階へと続く階段まで最短距離で。
但し、モンスターや罠は回避して歩くつもりだ」
「分かったの」
サアシアも短い返答で了承を伝えた。
……30分後……
クレス達は地下2階の入り口そばに到達していた。
「今日も罠にかからず、そしてモンスターにも出会わずに下への階段に到達したの」
「ここが地下2階へと続く階段だな」
「降りようなの」と、サアシアが促した。
「そうだな」
「ここが地下2階へと続く扉だな」
クレスの目の前には大きな金属製の扉があり、その脇には、台座があった。
「この台座で地下2階の入場料金1万ザガネを支払うんだ。
支払い方法は現金でもカードでもOKだ。
ただ、今のシアには入場料金の負担は結構大きいと思うからオレは当分面倒見ようと思うだ」
だが、それを聞いたサアシアは首を横に振った。
「大丈夫なの。折角棺から目覚めて冒険者として登録する為に頑張っているのだから、自分の力でやり遂げたいの」
そういって、サアシアは“ムン!”とばかりに、両手の拳を握りしめて頭上に掲げて気合を入れる仕草をしたのであった…
それを見たクレスもシアのやる気を損ねるのはまずいと判断して、サアシアの気持ちを尊重する事にしたのであった。
「了解。分かったぜ!」
「では、入ろうか」
「うん、入るの」
二人は手続きをして地下2階へとに入っていった。
すると地下2階へと入った途端に徘徊するモンスターと文字通り出会いがしらに遭遇してしまった。
そのモンスターは、大サソリ8体であった。
「うわ、いきなりかよ!」
クレスはこれまでにこういう遭遇戦を経験したことがなかったので、油断してしまい傘も竪琴も構えていなかった。
「随分と突然なの」
サアシアも憮然とした表情を浮かべていた。
「けど問題ないの」
そう言うとサアシアは一瞬何かの気合?らしきモノを入れたと思ったら、サアシアのそばに石の矢?らしきものが複数発生した。そして…
「貫け!なの」
と一言サアシアは言った途端に石の矢?があっという間にぞれぞれ飛んで行き、大サソリの体を貫いたのである。
“ギャア~~”
大サソリは断末魔を上げると8体ことごとくが消え去った。
するとサアシアは大サソリの居た場所に近づき何かを…恐らくドロップアイテムを拾う仕草を行った。
「ドロップアイテムを拾ったの。クレスは戦利品をラクに収められるので持ち運んで欲しいの」
「あ、ああ…」
クレスはサアシアの精霊魔法?の手際の良さに呆気に取られていた。
やや、暫くしてからクレスはようやく質問できた。
「シア。今の石の矢みたいのって精霊魔法なのか?」
「そう。精霊魔法。大地の精霊魔法の一つの“石の矢”なの」
(やっっぱ、石の矢で良かったのか)とクレスは思った。
「石の矢?」
「そう。石の矢なの。ここはダンジョンで大地の精霊の力が多いから大地の精霊の力を借りたの」
「そうか…シアはさすがエルフなだけあって精霊魔法が練達しているんだな…。
オレは攻撃手段が乏しいから羨ましいよ」
クレスは苦笑気味にそう言った。
「た、大した事ないの…」
サアシアは幾分照れた表情を浮かべながら、小さな声で答えた…
「今回はオレの油断が招いた失敗だったよ。
これまでに出会いがしらの遭遇戦を経験したことがなかったからと言って安穏とするべきじゃない!
と言う苦い戦訓を貰ったよ。以後はこういう事がないようにする!」
そう言って、クレスは気を引き締めた。
「今度はきちんと竪琴を準備しておくからな」
クレスは竪琴を構えた。
「クレス、道案内をお願いしたいの。薬草部屋でどこなの?」
「ああ、そうだったな。え~と薬草部屋は…、こっちだな」
そう言ってクレスは東の方へと道案内すべく歩き始めた。
……20分後……
「ここが薬草部屋だな…」
「凄い…凄いの」
辺り一面には様々な薬草が自生して生い茂っていた。
「初めてみたら誰でも驚くよなあ…。オレも驚いたからなあ…。
まあ、こんだけ自生しているんだ。
クエスト達成に必要な数も集められるだろう。
シアは薬草採集に専念していいぜ。
オレはその間は敵のモンスターの侵入を警戒しているからさ♪」
「分かったの。クレスにお願いするの」
そう言って、サアシアは目的の薬草の採集を開始した。
……6時間後……
「お…終わったの」
そこには疲労困憊しているサアシアの姿があった。
「お疲れ様。頑張ったな。オレも心情的には手伝ってやりたいけど、こればっかりは試験だから手伝う訳には行かないからなあ…」
と気まずそうにクレスは答えた。
「一応、間違いがないか、種類とか数を確認して欲しいの」
「ああ。鑑定を使えば一発で分かるからな。ちと待ってくれ」
そういうとクレスは鑑定スキルを使って、目的の薬草の種類・数に間違いのない事を確認した。
「問題なし!大丈夫だぜ。シア♪」
「良かったの」
サアシアは安堵の表情を浮かべた。
「ダンジョンに潜ってからそれなりに時間も経ったし、シアもかなり疲れたと思うから、今日はもうダンジョンを抜けて、ギルドにクエストの薬草を提出して早めに家に帰って休もうと思うけどどうかな?」
「賛成なの。そのプランをお願いしたいの」
サアシアは思った以上に疲れている様でそのプランに即座に食いついたのであった。
クレス達はダンジョンを脱出して、ギルドのライアスのカウンターにやってきた。
そうして、サアシアはカウンターにクエスト完了に必要な薬草を山積みに置いた。
「手続きをお願いしたいの」
サアシアはボソっと言った。
「い、いきなり、一遍に…」
ライサスも驚いて言葉少なめだった。
「ちょ、ちょっと待ってね。確認するから」
ライサスはカウンターの上の薬草を背後にある計量する篭らしきものに複数回に分けて乗せていった。
5分ほどかかった後で、後ろを向いて手続きをしていたライサスはカウンターの正面に向き直って、サアシアに話かけた。
「では、最後にサアシアさんのギルドカードをこのカウンターに乗せて下さい」
「こう?」
サアシアは言われるがまま、カードをカウンターの上に置いた。
数舜後…
「はい、確かに。これにてサアシアさんは無事にギルドランクお二等兵になりました。
続いて、所定の薬草も収めたので、一等兵→上等兵へとランクアップしました。
おめでとうございます。
提出された薬草は、買い取りで宜しいでしょうか?」
「買い取りでお願いするの」
「では、タンポーポが千本で千ザガネ。アサカオ千本で1万ザガネ、ユウカオ千本で2万ザガネ、〆て3万1千ザガネとなります。宜しいでしょうか?」
「はい。OKなの。お金はカードに振り込んで欲しいの」
「分かりました。次のお話ですが、サアシア様は下士官・伍長への昇進試験の受験資格を得ました。受験されますか?」
「はい。受験したいの」
「分かりました。では、村の外で砂漠サソリと一角ウサギと砂漠狼を討伐してきて下さい。その完了を以て、昇進試験合格となります」
「分かったの」サアシアは一言言った。
そして、サアシアは背後に振り返って聞いた。
「大サソリのドロップアイテムはどうするの?今買い取って貰うの?」
「いや、シアが伍長に昇進してからの方がいいだろう。
オレの分もその時に一緒に買い取って貰うつもりだよ」
クレスが言った。
「そう。わかったの」
サアシアは頷いて承諾した。
そして、サアシアは再びカウンターの正面に向き直った。
「手続きありがとうなの」
「いえ、どういたしまして」
ライサスはニコリとほほ笑んで答えた。
「ここでの手続きは終わったと思うの」
サアシアはクレスに言った。
「だな。今日はもう帰ろう」
「それが良いの」
クレス達はギルドを後にして帰路についた。




