60、帰宅後に色々と話し合う
……2時間後……
クレス達一行は、無事にダンジョンを脱出して途中で冒険ギルドに寄り一部の戦利品を売却した後、クレスの自宅に戻ったのであった。
「元王族のお姫様からして見たら、貧相な家だと思うが、オレにとっては生まれ育った家なので、まあ勘弁してくれよな♪」
「別に大丈夫。牢獄の棺で休眠する寸前には軟禁状態だったとは言え、実質部屋の一室に閉じ込められていたの。だから大丈夫なの」
「そうか…。まあオンボロの木の椅子しかないがそこに座ってくれ」
そう言うと、クレスは普段食事をするテーブルに備え付けのオンボロの椅子に座る様にサアシアに促し、自分ももう一つの木の椅子に腰かけた。
「ありがとうなの」
サアシアは椅子にちょこんと座った。
クレスは徐に今回のダンジョン探索で得られた戦利品をテーブルの上に並べ始めた。
「じゃあ、今回のダンジョンの冒険で得られた戦利品を確認しつつ、分けるとするか!
ええと、シアと出会う前に入手したコイン20万ザガネ分は、ソロだったからオレの総取り。
後、キャリオンクローラー3匹もオレがソロで倒したから、オレの総取り。
で、シアと出会ってから帰る途中でゲットしたコイン10万ザガネ分は、二人で山分けだから一人当たり5万ザガネの取り分だな。
それと、通路で挟撃されたキャリオンクローラーは10匹だったから、これは二人で分けて一人当たり5匹分のアイテムドロップの取り分だな」
「ちょっと待ってなの。シアはキャリオンクローラーを倒していないの」
「いやでも、ほら一緒にパーティを組んでいたんだからよ、きちんと分配するのが筋ってモンだろ?
何も、実際にモンスターを倒したヤツだけがパーティに貢献しているとは限らないしよ。例えば、ダンジョンの中でのマップを作製したり、罠を察知して外したり、或いは盾役としてパーティを守ったり、もしくは誰かが怪我したら治癒したり…。
そういう役割をそれぞれがこなす事でダンジョンでの冒険を成功に導いたりしているのがパーティだからさ♪」
「でも、今言った役割は今回の帰り道では殆どクレスが一人でこなしていたの」
「う~~ん……まあ、そうかも知れないけど、今回はタマタマだったと言えるし…。
それに実際に敵モンスターを倒したメンバーだけが戦利品を独占できるとなると、不満が募ってパーティそのものの存続・維持が壊れかねないしなあ」
それを聞いたサアシアは、一理ある事を認めぬ訳にはいかず、やや不満げに頷いた。
「そ、それはそうかも知れないの。けど…今回は…」
「それに下手に例外を作ると今後のパーティの維持に亀裂を生じかねない!
と思うのがオレの持論だんだよね」
サアシアは少し訝し気にクレスに質問した。
「クレスってこれまでにパーティを組んだことがあるの?」
「いや。ないぜ!」
「だったら、何でそこまで考えているの?」
「うん?そうか?
こんなことは(オンラインゲームでの)冒険するときの“イロハ”だろうに…。
分け前とかを下手に独占しようとすると簡単にパーティ崩壊につながるからな!
こんなの基本中の基本だよ。ハハハ」
そう、クレスは笑い飛ばした。
「そう。…クレスの考えは分かったの」
サアシアは、静かに理解の言葉を口にした。
クレスは話を続けた。
「と言う訳で、現金に関してのシアの取り分は5万ザガネ。
アイテムドロップの取り分は5匹分、つまり、キャリオンクローラーの魔石5個とキャリオンクローラーの触手5匹分となるな。
将来の事を考えてシアの取り分のドロップアイテムは暫く温存しておくことを進めるぜ♪」
サアシアはクレスの勧めに素直に従って頷いて、現金5万ザガネとキャリオンクローラーのドロップアイテム5匹分をそのまま受け取った。
「え~~と、オレの収支は…入場料が7万5千ザガネ、お宝から得られたコイン収入が35万ザガネ、キャリオンクローラーのドロップアイテムをギルドの通常クエストをこなす形で売り払っての収入が39600ザガネ、〆て31万4600ザガネの儲けだな♪」
そうクレスは今回の稼ぎを締めくくった。
「では、このお金5万ザガネとロドップアイテムのキャリオンクローラーの魔石と触手はシアが貰ってもいいのね?」
「ああ。受け取ってくれ」
「受け取ったのは良いけど、今の世の中ってこれがお金なの?」
と、サアシアはテーブルの上にある受け取ったお金の5万ザガネの一部のコインを自分の手にもってみた。
しげしげとコインを眺めて…
「ザガネ?…通貨の単位がザガネと言うの?」
と、聞いてきた。
「ああ。シアが棺に入る前の通貨とは違うのかな?今はその通貨、っつかザガネがお金だな。けど一体いつ頃からこのザガネと言う通貨が流通し始めたのかなあ?」
クレスは思わず言った。
「フォフォ。そういう時事?と言うか一般知識はクレスは疎いのかも知れんのう。
どれこのワシが簡単に説明しようかのう」
とご隠居が“ワシの出番じゃ”とばかりに話に入ってきた。
「ちょうどよかったぜ。
どうもオレはそういう知識はてんで疎いからな。オレの代わりにシアに説明してやってくれよ♪」
“渡りに船“とばかりにクレスは説明役をご隠居にバトンタッチした。
「そうさのう。どこから説明したら良いのかのう。
折角だからお金とは密接不可分の関係にあるとは言っても過言ではない。
ギルドの事も交えながら、ここ1200年ばかりの歴史をちょこっと触れて説明するとしよう。フォフォ」
「シアの嬢ちゃんは、確か1200年ほど棺の中で休眠していたと言ったかのう?」
「うん。そうなの」
「フォフォ。で、シアが休眠する時は、まだいわゆる大戦…暗黒神側と光の女神との対立に端を発する戦争の決着はついていなかったのじゃな?」
「その通りなの」
「なるほどのう。どうやらシアが休眠した直後辺りに戦争の決着が着いた時期らしいのう」
「戦争は、暗黒神側の勝利で終わったのじゃよ。
その理由は“自然呪い”という詳しい事は分からんが、世界規模の大がかりな魔法?呪い?が使われたらしくてのう。
その結果このグランルース世界の殆どが不毛で過酷が大地になってしまった。
例外は新たに出現・誕生したダンジョン周辺のみ自然豊かな環境を維持できるのじゃよ。ただ、その範囲はダンジョン周辺に限定されており、得られる食料も限りあるので、結果として養える人口も制限される環境へと激減したのじゃよ。
それで人口の多さが一番の武器だった人族の人口が急激に減少してのう。
それで戦争は光の女神側が負けて、暗黒神側の勝利となった。
これが今から1200年ほど前の事じゃのう」
「…つまり、環境激変による食料不足、そして人口減少となったから人族側が光の女神側が負けたの?」
「そういう事じゃ。それでだ、今度は恵まれた環境の陣取り合戦になってのう。
つまりダンジョンの奪い合いじゃのう」
「ダンジョンの奪い合い?なぜなの?」
「ダンジョン周辺の環境が恵まれておると言ったじゃろう。
その理由はダンジョンの支配者・ダンジョンマスターは周辺の環境をコントロールしているからなのじゃよ。
例えば、水源の川や井戸、肥沃な耕作地、快適な気温、これらをコントロールできるのがダンジョンマスターなのじゃよ。
ただ、コントロールできる地域は極限られた地域でのう。
それ故に、住める人口も限りがあるのじゃよ」
それを聞いたサアシアは数舜考え込んだ後にこう答えた。
「人族の最大の優位性たる食料大生産ほ背景にした人口増加・兵力の数の力を活かせなくなったのね?
だから人族、ひいては光の女神側は敗北したのね?」
「そういう事じゃよ。理解が早いのぅ。フォフォ」
「で、ダンジョン発生と共に表裏一体の如く登場したのが、総合ギルド、通称:ギルドじゃ」
「ギルド?」
「フォフォ。そうじゃ。
ギルドは、ダンジョンの存在する処にあまねく存在しておりそのダンジョンから得られるドロップアイテムと上手く付き合う事で発展してきたのじゃよ」
「上手く付き合うって、どういう意味なの?」
「フォフォ。どうやらダンジョンのモンスターから得られるドロップアイテムは役立つようでのう。
それらドロップアイテムをギルドが買い取ったりする事で色々と潤っているようなのじゃよ。
ま、詳しい事は分からんがのう…」
「そしてのう。ギルドとしては、ダンジョンを探索できるような猛者を…即ち、冒険者を求めておるのじゃよ。
ま、何とか有能な者は育て上げてダンジョンから得られる利益を還元して貰いたいのじゃろうのう。フォフォ」
「冒険者を…育てる…の?」
「フォフォ。そうじゃ。今の世の中は力あるものが優遇される。
力無き者は不遇の境遇を甘んじなければならない。
その典型例として、ギルドランクを挙げられるのう」
「ギルドランク、ってなんなの?」
「まあ、一言で言うとギルドへの貢献度をランク付けした肩書じゃのう。
高ランクになりさえすれば、ギルドマスターと社会的地位としては可成り伍する事ができるようになのじゃよ。
いわゆる“貴族様”じゃよ。
因みに、ダンジョンダスターは周辺の地域の支配者という事になるので、ご領主様扱いとなっておるのう。フォフォ」
その後、ご隠居は現在のこの世界の情勢などを具体例を交えながら、メリハリをつけつつ分かり易くサアシアに伝えた。
「………」
サアシアは暫し沈黙した後に話始めた。
「なるほどね。今の世界を生きるには詰まる処は要するに…“強さとお金と地位”が必要なのね。よ~~く分かったの」
「まあ、簡単に要約するとそうなるのう。
じゃから、シアの嬢ちゃんもできるだけ早くギルドで冒険者登録して、自己防衛するためにもランクアップを目指しながらお金を稼いだ方が良いと言えるじゃろうのう。フォフォフォ」




