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天空城の主はこのオレだ!  作者: 日神 衛
59/88

59、サアシアの疑念。それって傘なの?

「では、そろそろこの部屋、水晶の部屋だったか…。この部屋から出ようか?」

そうクレスはサアシアに声をかけた。


「問題ないの」


「じゃあ出るか。恐らく、逆手順で魔法陣に乗れば戻れるだろう」


「シアもこの…あ、待てよ。ちょっとシアの今の服装は目立ちそうだな…」


「この服は変?なの?」

サアシアは戸惑い気味に自分の恰好を見た。


「いや、変ではないさ」

クレスは慌てて否定いた。


「ただ、結構見慣れない服なし、それに素材も相当に特殊みたいだから目立つと思うんだよなあ…。今目立つのはちょっと不味いと思うんだ…」

クレスは“あ、そうだ!”と言って、自分の持っている予備のローブを収納空間から取り出した。


「これこれ!ちょっと地味で汚れているけど、このローブを羽織れば目立たなくなると思うから、暫く、オレの家に帰るまで着てくれないかな?」


サアシアは、どこからともなく出現したローブに目を細めつつ言葉を綴った。

「分かったの。

そのローブを羽織るの。羽織るのは良いけど、そのローブはどこから出したの?」


それを聞いたクレスは、“あっ”と軽く言ったかと思うと“やっちまった!”と小さく呟いた。


「あ~~、これなあ…。

ダンジョンとか冒険するのに回収できた戦利品とかを持ち運び易くする様に、ちょっとしたスキルを覚えたんだ!

まあ、些細な事だし気にしないでくれよ♪」

クレスは苦笑しつつそう言った。


それを聞いたサアシアは、一瞬の沈黙の後に

「…そう。…分かったの」

と一言返した。


「では、行くか!」


クレス達は魔法陣に乗った。

すると一瞬、クレス達が光ったかと思ったら、瞬く間にキャリオンクローラーの居た部屋に移動した。


「元に戻ったか…」

クレスがそう呟いたときであった…


ファンファーレが鳴り響いた。


§§§

「おめでとうございます。

個別指令のエルフ女性との出会いの指令を無事に完了しました」

§§§


とのコンピュータ声がクレス(とご隠居にのみ)聞こえてきた。

(そうか。水晶部屋からシアを無事に連れ出せた事により指令完了と看做されるのか…。まあいい、先を急ぐか!帰り道は連れが居るからいつもとは段取りやペースが違うからできるだけ寄り道せずにダンジョンを抜け出した方がいいだろうな…)


クレスは背後に居るサアシアに振り返り話しかけた。

「簡単に説明すると、ここはラピス村に存在するダンジョンで通称毒ダンジョンと呼ばれている」


「毒ダンジョン!なの?」


「そうだ。理由は簡単で毒を持つモンスターが多く生息しているからだ。

そして現在位置はダンジョンの地下5階にある隠し部屋だ。」


「地下5階の隠し部屋?なの?」


「そうだ。珍しい事に、この部屋には更にもう一つの隠し扉があって、先ほどまで居た水晶部屋へつながっている魔法陣があったのだがな…。

こういう、二重の隠し部屋はこれまでにこのダンジョンには、存在しなかった設定だな!」


「へえ~。そうなの?珍しいの?」


「ああ。珍しいと言えるな」


クレスは言葉を続けた。

「これからの予定だが、オレとシアはいわば、急ごしらえのにわかパーティだ。

チームワークも阿吽の呼吸もまるで出来ていない。

だから、今回はできるだけ寄り道せずにこのダンジョンを抜け出そうと思っているが、問題はないか?何か考えとかあるのなら聞かせて欲しい」


「いいえ。問題ないの。クレスの考えに賛成なの」

サアシアは答えた。


「そうか…。では、できるだけモンスターや罠を避けて帰還する事にする。

そう言えば、シアはこの暗いダンジョンの中は良く見えないだろうなあ?

何だったら、予備で持ってきた松明を渡すから使っていいぞ」

と、クレスは松明を出すそぶりをしたのだが、サアシアに言葉で遮られた。


「いいえ。大丈夫なの」


「大丈夫?」クレスは疑問に感じて問い返した。


「シアはインフラビジョン(赤外線視認)を使えるの」


「インフラビジョン?」


「そう。インフラビジョン。

このスキルはロストロイヤルだと誰でも持っているスキルなの。だから大丈夫なの」


それを聞いたクレスは“へえ~~”と感嘆の声を漏らした。

「それはすげえなあ…。オレなんて、ロストロイヤルだけど持っていなかったぜ…」


「インフラビジョンはエルフのロストロイヤルだから所持しているスキルなの」


「ほう~。そうか…、なるほどねえ…まあいいや、これで松明は不要だな」

と、クレスは松明を出す素振りを止めた。


するとサアシアが不思議に思ったのか、クレスに尋ねた。

「クレスは松明を使わないの?」


「ああ。オレも灯りは不要なんだ」


「灯りが不要?なぜ?クレスは人間のはず!なの」


「オレもそう思ってよ。

だから何とか頑張って、灯りの代わりになるスキルを入手したんだ♪」


「灯りが不要なスキル?…それって、シアと同じインフラビジョン?なの?」


「いや、名前が違うなあ!オレのスキルは“暗視”だな…」


それを聞いたサアシアは一瞬口元を“ピクリ”と動かした。

「インフラビジョンは暗い場所を白黒の様に視認できるスキル。

一方、“暗視”は昼間の様な明るさの中を天然色で普段と変わらずに視認できるスキル…言わば、上位互換スキル……どうやって入手したの?」


それを聞いたクレスは居心地が悪そうにしながら、こう答えた。

「いや、まあ…ソロでダンジョンとか探索するのに片手を松明で塞がれて移動するのは面倒に思えてさ。だから、何とか頑張って入手したんだよ。ハ、ハハハ」

と誤魔化す様に笑った。


「そう。……分かったの」

サアシアは言葉少なく答えた。


「さて、いつも通りに段取りしてから出発するか!」


クレスはいつも通りに“暗視+探索+索敵”スキルを使用した。


そうして、クレスは半透明のマップを確認しつつ、現在の状況…罠の配置、徘徊しているモンスターの場所などを確認した。


「そうそう。出発する前に…」

そういうとクレスは例の傘を開いて右の肩の鎖骨あたりに乗せてルンルン気分で歩き出そうとした。


が、さすがにその状況を見とがめない人物はいない訳がない。

サアシアが奇異の視線を向けつつ、クレスに質問してきた。


「ねえクレス。質問があるの」


“さすがに聞かれるようなあ…“と思いつつ、努めて平然とした表情でクレスは返答した。


「何かな?シア?」


「その右手に持っているのって白い傘で合ってるよね?」


「ああ。白い傘だぜ」

クレスは何でもないかの様に答えた。


「ここって、ダンジョンよね?雨も降ってないわよね?」


「そうだな」


「だったら何故クレスはここで傘を差すの?」


するとクレスはばつが悪そうにしつつ答えた。

「いやあ。見てくれは傘だけど、これって実は結構防御効果の高い盾代わりに使えるだぜ。ちょっと信じられないだろうけどさ♪」


「防御効果の高い盾代わりに使えるの?………傘なのに?」

さすがのサアシアも“まさかあ~”と言った表情を浮かべながら、そう聞いてきた。


「まあ、信じられないのも無理ないけど、まずは実際の戦闘を一度だけでも良いから見てくれないかなあ?そしたら信じてもらえると思うからさ♪」


そういうクレスの説得?を聞いたサアシアは胡乱なモノを見る様に傘を見ていたが、これ以上言っても仕方ないと思ったのであろう「分かったの」と一言だけ言ってもう何も傘について言わなくなった。


クレス達が10分ほど歩いたときである。

「やばいな!モンスターに挟まれた」


クレス達が歩いていたのは細長い一本道であった。

移動途中でクレスはマップをしばしば観察していたのだが、注意が疎かになってしまい挟撃される事態を避ける機会を逸してしまった…


「しゃあない。多分大丈夫だとは思うが、シアはオレの傘の左半分のスペースに入ってくれ」

そういうとクレスは傘の右半分のスペースにサアシアが入る様に促した。


「分かったの」

サアシアは言われるがまま、傘の中に入った。


ほどなくして、通路の両脇からキャリオンクローラーが現れた。

東から5体、西から5体である。


“キシャアア~~~”


キャリオンクローラーはクレス達を見つけると威嚇音を上げつつ大きな胴体をくねられつつ、接近してきた。


それを見たサアシアはクレスに急ぎ話を切り出した。


「キャリオンクローラーの8本の触手は結構厄介なの。

一般的な対処方法は中遠距離からの魔法攻撃が有効なの。

もしも、クレスが魔法を使えないのなら、シアが代わりに使うの」

そう言って、魔法を使うような仕草をし始めようとした。


「いや、大丈夫だぜ!

伊達に先ほどの隠し部屋でキャリオンクローラーを倒した訳じゃないからさ。

まあ、安心してそのままで居てくれ」

そういう、クレスは安穏とした表情でその場に突っ立ち傘を差していた。


キャリオンクローラーはもうすぐそばまで接近してきた。


そして、触手の射程距離に届いた事を悟ったクローラーは、“ギシャアーー”と言う叫び声?と共に触手を振りかざしてクレス達に襲い掛かってきた。


来たのだが……


「え?」

サアシアは疑問符を一音発した。


結果はクローラーの触手攻撃はことごとく跳ね返され、自分の触手攻撃をモロに受けたクローラーは、その場に麻痺による硬直に陥り、痙攣しつつ床に一斉に10体のクローラーが倒れ込んだ。


「よっしゃ、大漁大漁♪」

そう言ってクレスは、傘を閉じてロングソードを構えて、クローラーにトドメを刺して行った。


その場には、キャリオンクローラーのドロップアイテムの魔石と触手が10匹分落ちていた。

それをクレスはホクホク顔をしつつ拾って、収納空間に収めていった。


「どういうカラクリなの?」

数舜、唖然とした表情で見ていたサアシアは、ようやく次の言葉を発する事ができた。


「ああ。さっきも言っただろう。この傘は強力な盾代わりになるってさ♪」


「盾代わり?その傘が?」


「そうそう♪」


サアシアは今一つ状況を呑み込めなかったので、続けて質問した。

「仮に盾代わりになるとしても、所詮は盾!敵の攻撃を防ぐだけのはずなの。

でも周囲に居たキャリオンクローラーは10匹全てが倒れたの。

クレスは攻撃していないの。でもクロラーは倒れたの。これはおかしいの」


「だから、さっき言っただろう。

この盾は強力だってさ♪つまり攻撃を跳ね返したのさ。

その結果、クローラーが自滅したのさ♪」


「攻撃を跳ね返す盾?そして、敵が自滅する?」


「そうそう。大体そんな理解でOKだぜ♪

言ったろう、強力な盾代わりになるってさ♪

かくいう、この傘のおかげでこの地下5階のキャリオンクローラーは、手ごわいモンスターから、一躍美味しいザコモンスターに成り下がったのさ♪

さっきのドロップアイテムも美味しかったぜ♪

あ、そういえば、ドロップアイテムは倒した本人以外には最初は見えないはずだったな。まあ兎に角、10匹分の戦利品を獲られたって寸法さ♪」

クレスはニマニマしていた。


一方、サアシアは傘をじっくりと見据えていた。


「ひとまず、了解なの」

サアシアは何だか、何かを半分諦めた様な表情を浮かべつつ、そう言った。


「次の質問だけど、さっきクレスはキャリオンクローラーに挟撃された事に事前に気づいた様だったの。それはなぜなの?」


「ああ、それか?それは“索敵”スキルを使っていたからだ」


「索敵スキル?」


「ああ、探索スキルのマップ上に表示されてモンスターの位置を常時映し出すスキルだな」


「探索スキルのマップに表示?

もしかして、このダンジョンのマップを常時・移動しながら把握できているの?」


「ああ、そうだぜ。それが探索スキルの効果だからな。

その探索スキルのおかげで通路や部屋に設置されている罠も表示されるから、サクサク進めるんだ♪へへへ」

クレスは満足気に言った。


「つまり…探索スキルでダンジョンのマップを表示できて、ダンジョン内部の罠も表示される。

索敵スキルで敵の徘徊しているモンスターを発見してそれもマップに表示できている!と言うのね?」

と、サアシアは、低い冷めたような声でクレスに尋ねてきた。


「ああそうだぜ。

これくらいのスキルがないと弱体化している人族がダンジョンにて冒険できる訳がないだろう?!

オレの冒険スタイルはできるだけ危険や戦闘を避けて、イザとなったら亀の如く甲羅に籠って、守りを固めて危機が過ぎ去るのを待ち、そして素早く逃げ出してお宝を持ち帰る!ってスタイルなのさ♪」


「まあ、ちょっと恰好悪いけど、人族が冒険するにはこれくらいでちょうど良いくらいなんでな♪ハハハ」

クレスは乾いた笑い声をあげた。


それを聞いていたサアシアは、目の前に居るクレスを何か得体の知れないモノを見るかの様にじっと見ていた。

が、ここでも何かを諦めたように

「分かったの」

とだけ言っただけであった。



「あ、近くに隠し部屋があるな♪急いでるけど、1個の部屋の宝箱位は貰っていってもいいだろう♪

なあシア、近くに隠し部屋があるからちょっと寄ってお宝を回収したいんだけど良いかな?」


「ええ。OKなの」

とサアシアは言った。


「では、早速行きますか♪」


それからクレス達は5分ほど歩いて隠し部屋に入った。


「ねえクレス。隠し扉の存在も分かるの?」


「ああ。探索スキルで表示されるマップに表示されるからな。“隠し扉と隠し部屋”がな♪」


…それを聞いたサアシアは何も言わず一度首を横に振っただけだった…


「ほう。今回の隠し部屋にはモンスターは不在か?

で、中央には宝箱が安置されているって訳か…」


そう言いつつ、クレスは宝箱に接近した。


「へへへ。ま、事前に確認して部屋の中には罠はないのは分かっていたからな。

では、問題の宝箱はと…」


そう言ってクレスは“罠感知”スキルを使った。


「ほう。罠はあるか…種類は?……へえ、麻痺のガスか…。

一応念のため、シアは部屋から出て行ってもらえるか?」


それを聞いたサアシアは、疑問をぶつけた。

「それって危ない罠なのでしょう?

だからシアに部屋から出る様に言ったのでしょう?なの」


「いや、オレはランク麻痺1の毒ガスなら大丈夫なんだ。調べた処、今回の罠の麻痺の毒ガスはランク1だからな…」

とクレスは語った。


「ランク1の麻痺は大丈夫?どういう意味なの?」

とサアシアは聞いた。


「いや、オレって状態異常耐性でランク1の麻痺耐性を持っているからさ。

だから大丈夫なんだぜ♪」

と言った。


「今度は、状態異常耐性なの?…」

サアシアは半分呆れ、半分諦めの表情を浮かべつつ、ボソっと呟いた。


「分かったの。少し部屋をでているの」


「了解♪終わったら、声をかけるからさ♪」


そうして、サアシアは一旦部屋の外に出た。

10分後…


「終わったぜ」とクレスがサアシアに声をかけてきた。


「分かったの」

クレスとサアシアは再び隠し部屋の中で合流した。


「罠はどうしたの?解除したの?」


するとクレスはこう答えた。

「いや、ワザと作動させてみた。

もしかしたら、状態異常耐性・麻痺ランクが上がるかも知れないと考えてよう♪

そしたらビンゴだったぜ♪嬉しい事にランクが1から2に上がったぜ♪

いやあラッキーだったぜ♪♪」


それを聞いたサアシアは“はあ?何それ?”と小さく呟いた。


クレスの耳にはサアシアの呟きが届いていなかった様で…

「お次は、施錠の確認だな!どれどれ……うん、やっぱ閉錠されているな。

ならば、“開錠”スキルの使用だな」

そう言ってクレスは鍵を開けた。


(おまけに“開錠”スキルも持っているのね…。

これならスカウト(盗賊系職業)の仲間も不要みたいなの。

ソロで何でもこなしているみたいね)

そうサアシアは心中で思った。


一方…


「どれどれお宝さんは…コインか、金額は…10万ザガネか。

思ったより渋い稼ぎだなあ。まあないよりマシか…」

クレスはそうぼやいていた。


「もうここには何もなさそうだな。では引き続きダンジョンの出口に向かうか♪」

そう言って、クレス達はダンジョンの出口へと向かった。



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