40、寿命取り立てと強制執行
「お前は本当に悪い意味でぶれないなあ…。
ある意味感心するぜ。
ま、今度は足りない分の慰謝料を今度はお前らの寿命から支払って貰うとするか♪」
それを聞いたスネ次郎は呆れたように叫んだ。
「そんな事できる訳がないだろう。
寿命は寿命銀行の専門だ。
ギルド銀行を通さずにやり取りできる訳がないでヤスよ。ゴブゴブ」
「ふん。まあ口で四の五の言ってもお前は理解できまい。
まあ、身をもって理解するんだな」
『ご隠居。まずは、連中の寿命の半分を強制執行で取り立ててくれ!』
『了解。フォフォ。では寿命線を繋ぐとするかのう』
するとご隠居から一般人には見えない補足光り輝く線でゴブリン三兄弟へと伸びて行き、繋がった。
そして1~2秒してから寿命線消えた。
その途端にゴブリン三兄弟が苦しみだした。
『ご隠居。あれってどうしたんだ?』
『急激に寿命を吸い上げたからその反動で痛がっておるの様じゃのう。フォフォ』
10秒ほど経ってから、痛みが引いたようで、三兄弟は騒がなくなった。
その様子を確認したクレスは“ほほう♪”と楽し気に一息ついた。
「おい。ゴブリン三兄弟。お互いの姿かたちを確認してみろ」
それを聞いたゴブリン三兄弟は互いを見た。
その途端に…
「お前誰だゴブゴブゴブ?」
「そうあんたは誰でヤスか?ゴブゴブ?」
「ね、ねえ…君たちは誰なの?ゴブ」
ゴブリン三兄弟は3人とも立派?な成人、…やもはや壮年に片足を入れているような年齢の立派な大人のゴブリンへと変貌していた。
「クククツ。ようこそ大人の世界に♪
年を取った感想は如何かな?ジャイゴン!スネ次郎!ノビ三!」
それを聞いた三兄弟は恐る恐る言葉を紡いだ…
「お、お前ら…スネ次郎にノビ三なのか?ゴブゴブゴブ」
「も、もしかして、ジャイゴン兄貴にノビ三でヤスか?ゴブゴブ」
「え?ジャイゴン兄ちゃんにスネ次郎兄ちゃん?ゴブ」
暫しの沈黙の後に三兄弟は大絶叫した…
「クレスぅ~~~~、てめえふざけるな!ぜっていに殺してやる!さっさとオレの寿命を返しやがれ!!ゴブゴブゴブ」
「ク、クレスの癖に生意気でヤスよ!身の程をわきまえて寿命を返すでヤスよ。ゴブゴブ」
「ぼ、ぼくの寿命を返せ~~。こんなんじゃ、しずリンちゃんに会えないよう。ゴブ」
“クククツ”
クレスは低く笑いながら、次の言葉を綴った。
「いやあ~、まだ全然慰謝料を貰い足りないんだよなあ…。
本当はお前らの家族にも請求したい処だけど、ここはお前ら三兄弟の残りの寿命で勘弁してやるよ♪だからせいぜいオレの慈悲に感謝するんだな♪」
『ご隠居。残りの寿命を回収してくれ!但し、残りの寿命1分だけはそのまま奴らに残しておいてくれ』
『フォフォ。それは構わんが、一体なぜかのう?』
『な~に、最後の1分で奴ら三兄弟に懺悔の時間でもくれてやろうと思ってさ♪せいぜいさえずってくれるだろうからな♪クククツ』
『なるほど、了解。フォフォフォ』
そう言うとご隠居は寿命線を三兄弟に伸ばして残りの寿命を残り1分を残して回収した。
すると三兄弟はまたも痛みから苦しみだしたようである。
「い、いってえ~~ゴブゴブゴブ」
「痛いでヤスよ。ゴブゴブ」
「痛いよう、ゴブ」
痛みが引いたようである。
「ようジャイゴン、スネ次郎、ノビ三。今の姿かたちを見た感想はどうだい?クククツ」
ゴブリン三兄弟はもはやヨボヨボの爺さんのゴブリンとなっていた。
「ゴホゴホ…お前ら、スネ次郎にノビ三か?ゴブゴブゴブ」
「ジャ、ジャイゴン兄貴でヤスか?ゴブゴブ」
「う、うそだあ~このヨボヨボのシワのある姿がボクなのか、ゴブ」
「クククツ、お前らの寿命はあとわずかだ。残り1分もあるまい。
本当は1分も残してやるつもりはなかったが、せめてもの慈悲だ。
冥土の土産に懺悔する時間だけでもくれてやろうと思ってな♪
せいぜい己の所業を恨むんだな♪ククク アハハハハ♪♪」
そう言って、クレスは今までのうっ憤を晴らすかの様にさも楽し気に笑い出した。
「ゴホゴホ…て、てめえ~、こんな事オレの家族が許さんぞ。ご、ゴブゴブゴブ」
「僕の寿命を返すでヤスよ。ゴブゴブ」
「い、いやだ。ぼ、ぼくは死にたくないよう。ゴブ」
そう言った声が辺りに僅かに響いたが、三兄弟は霧となって消えていった。
その場にはドロップアイテムのゴブリンの魔石とゴブリンの牙が3つずつあった。
「では、残りのドロップアイテムも回収しておくか♪」
クレスは嬉々としてアイテムを拾ったのであった。
「さて、クレスよ。お前さんにはこれで寿命75年分の預金を得た事になるのう」
「そうだな♪ホクホクものだぜ」
「然し、その寿命は暫く秘密にしておいた方が良いのう。フォフォ」
「え?それはまたどうして?」
「どうやって入手したのか確実に勘繰られるわ。
普通はお金持ちや貴族がギルド銀行を通じて入手するのが寿命だからのう。
これまで生活にカツカツであったクレスがどうやって高額の寿命をそれも75年分も入手したのか、騒ぎになるに決まっておろう…」
それを聞いた聞いたクレスは言葉に詰まった。
「じゃ、じゃあどうしたら良いんだよ?」
「最低でも貴族扱いになるまでは秘匿しておいた方が良いのう。
幸いにして預金部分はギルドカードでも非表示にできるからのう。
それまでは我慢するのじゃな。
な~~に、クレス自身の寿命が延びた事でもあるのじゃから、いっその事そのままじぶんで使う事にしても良かろう。フォフォ」
「畜生…。そうするしかなさそうだなあ」
クレスは悔し気に呟いた。
「そういえば、ご隠居?」
「何かのう。フォフォ」
「75年分の寿命でお金に換算すると幾らになるのかな?」
「1日1万ザガネで売り捌いたとして、…1年360日だから…2億7千万ザガネとなるのう。フォフォ」
「2億7千万ザガネ…」
それを聞いたクレスはあまりの金額に茫然とした。
そして我に返ったクレスは
「そ、それだけのお金を自由にできたら…」
と大いに悔しがった。
「そう言えば?ご隠居?」
「なんじゃな?フォフォ」
「1年って365日だよな?」
「いいや、このグランルース世界は1か月30日の12か月で360日で1年じゃのう。フォフォ」
「えええ?マジで?」
「ふむ。マジじゃよ。フォフォ」
「オレって…15年間生きてきて、全然気づかなった…」
クレスは“ガックシ”と両ひざをついて床にうずくまったのであった…
「フォフォフォ。まあ気にするでないわ。
それよりはこんな処にあまり長居するのもまずかろう。さっさと戻るがよかろうのう」
「だな。ご隠居の言う通りだぜ」
そういうやクレスは踵を返してダンジョンの地下2階を後にしたのであった。




