38、ゴブリン三兄弟と裁きの印籠の真価
クレスが地下3階から地下2階へと戻ったときである。
クレスの行き先を塞ぐ様に、何かが現れた。
「スネ次郎の言う通り、本当に地下3階から現れやがった。ゴブゴブゴブ」
「僕の情報に間違いはないんでヤス、ゴブゴブ」
「ち、地下3階に行ったのを見かけたのはボクだよう。ゴ、ゴブ」
その場所に現れたのはゴブリン三兄弟であった。
「ち、お前らか…一体何の用だ?」
クレスはそう言いつつ、竪琴に手を掛けた。
するとジャイゴンは一歩前に出て、威嚇する様にロングソードを振り上げつつ、こう言い返した。
「人族の癖に地下3階に行くなんて気に食わねえんだよ!
オレ達でさえ行けていないのに!ゴブゴブゴブ」
「クレスの癖に生意気なんでヤスよ。ゴブゴブ」
「そ、そうなんだな。ゴブ」
「けっ、お前らが地下3階に行けないからって、僻むんじゃねえ!」
クレスは吐き捨てる様に言葉を綴った。
するとジャイゴンが嫌らしい笑いを浮かべた。
「本当はお前をさんざん甚振った後で殺して喰い散らしてやりたかったんだな。気が変わってよう…、グフ、ゴブゴブゴブ」
「クレス!お前の様な人族の男でショタ?とやらを莫大な金額で買ってくれるらしい奴隷商人がこの村にくるらしい。
だからここはお前をこの奴隷の鎖で縛って、売りつけてやろうという算段にまとまったんでヤスよ。ゴブゴブ」
「そ、そうなんだな。
お、お前を売れば沢山美味しいモノを食べられるし、しずリンちゃんにも綺麗なアクセサリをプレゼントして気を引けそうなんだな。ゴブ」
「と言う訳でオレらの為に奴隷になってもらうぜ。
な~~に、痛めつけるが殺しはしねえよ。
せいぜい奴隷となってから鉱山で働くのか、農場で働くのか性奴隷になるのか知らんけど、そこでせいぜい生き足掻くんだな♪ゴブゴブゴブ」
ジャイゴンは話をした。
そうして、ゴブリン三兄弟はジリジリとクレスとの間合いを詰めてきた。
(ヤバイ。さすがにこの間合いでは子守歌2を演奏しようとしたら、すぐに切り付けられて演奏を妨害される。仕方ない!)
(“遮蔽2”発動)
クレスは急ぎ遮蔽2を使用して己の姿を隠した。
「なにィ~~、どこに行った、クレス!ゴブゴブゴブ」
「また、この間の様に消えたでヤス。ゴブゴブ」
「さ、さっぱり分からないゴブ」
三兄弟はしきりにクレスの居た辺りを探し回っていたが、クレスは既に三兄弟の脇を抜けて背後に廻り込んでいた。
(くそう。無駄な出費の2万ザガネも出させやがって!)
クレスは20メートルほどの距離を取ったら、即座に子守歌2を演奏した。
“ポロ~~ン♪ポロ~~ン♪ポロロ~~ン♪”
その音色に気づいた三兄弟は慌てて背後に振り向いてクレスを発見した。
「クレスの野郎め!いつの間に後ろに廻り込みやがってえ~!ゴブゴブゴブ」
そう言って、ジャイゴンや他のスネ次郎やノビ三もクレスの方へ駆け寄って来ようとしたが、クレスの処にたどり着く事なく、3人とも眠り込んでしまった。
「ふう~、結構危なかったなあ」
「そうじゃの」
そう相槌を打つご隠居の眼はいつになく厳しかった。
「さて、これからどうしたものか…」
クレスは今後の対応について、少し途方に暮れていた。
「やっぱ、殺すしかないのかな?」
そう独り言ちたクレスであったが、そこにご隠居が話かけてきた。
「どうやら、この裁きの印籠の精霊のワシの出番の様じゃのう」
「え?ご隠居一体何を言っているんだよ?」
「転生時に少し話したことがあったはずじゃて。ワシは一種の裁きをこなせる精霊じゃとのう」
「ああ、そう言えば、そういう事も話していた様な…。
ただもう15年以上前の話だし、殆ど覚えていないって(苦笑)」
「まあ、一部話が重複するか説明するかのう。
分かり易く端的に言うならば、今回の場合、クレスはこのゴブリン三兄弟に刑事罰及び民事罰を要求できるのじゃて。
そしてそれをワシが“強制執行”して取り立てられる!と言う事じゃのう。フォフォフォ」
「うん?どういう事?」
クレスは、ハテナマークを頭上に浮かべつつ問い返した。
「このゴブリン以前には、クレスを瀕死の状態にした。
たまたまクレスがスキル“瀕死”を持っておったから、死亡しなかったが、本来ならば、クレスは死んでおったはずじゃのう」
「まあ、そうだな」クレスは相槌を打った。
「そして、今回はクレスを奴隷にしようとしてクレスを売って利益を得ようとした。
そうじゃな?」
「まあ、そうだな」
又もクレスは同意した。
「つまり、クレスの生命及び財産が侵害された事になる」
「ふむ。それで?」
「例えば、クレスを奴隷にして鉱山で一生死ぬまで労働させたら、その利益をこやつらゴブリンどもが得た事になる。
或いは、それこそ奴隷ともなれば最悪の場合、寿命を強制的に寿命銀行に売られかねない。その場合だと捨て値の1日1万ザガネで売ったと換算した場合、1年で360万ザガネ。10年で3600万ザガネを奪われた事になる」
それを聞いたクレスはびっくりした。
「そういう論法もアリなのか?!」
ご隠居は“ニヤリ”と笑みを浮かべて
「アリなのじゃよ。フォフォ」
「つまり、最低でもクレスは、将来の寿命分に相当する権利分をこの三兄弟に請求できるのじゃよ。これは民事罰のみになるがのう。フォフォ」
「ご隠居すげえなあ…」
「フォフォフォ。これが裁きの印籠の力の一つ“強制執行”じゃよ」
「ただのう。この強制執行をなすには一つの制約があってのう」
「制約?」
「そうじゃ。それは“加害者を行動不能にしておく“という制約なのじゃよ」
「行動不能?」
「フォフォ。例えば、今回の様に睡眠状態にしておくとかのう♪」
「そうして、この様に行動不能にさえなっておれば、ワシの持つもう一つの力が使える様になるのじゃよ」
そう言うと、ご隠居は大きく一声叫んだ。
「裁きのお縄!」
そう言うと、ゴブリン三兄弟の体になにやら黒っぽい縄らしきものがグルグル状に巻き付いていった。
「ご隠居。これは?」
「フォフォ。これは“裁きのお縄”と言って、強制執行される対象を縛り付けて、強制執行できる様にしたのじゃよ。
後はこやつらの有する財産に対して強制執行できる様になったのじゃよ。
例えば、ギルド銀行預金」
そして、ご隠居は言葉を切って改めて次の言葉を放った。
「あるいは、こ奴らの寿命を強制的に強制執行して取り上げて、クレスのギルドカードに寿命銀行に預金させるとかな!」
「なっ」
クレスは言葉に詰まった。
「そ、それって、この三兄弟の寿命をオレのモノにできるって事?」
「フォフォ。こ奴らがクレスから寿命の権利を奪おうとしたことと同義の事をしたのだから当然だのう。
ただ、通常の銀行預金で莫大な金額を所持しておったり、今持っている所持品に価値の高いモノがあれば、それで支払いを代用することは可能ではあるが、ワシの見立てによると、こ奴らの所持品とギルド銀行の預金残高を合わせてもせいぜい50万ザガネに届くかどうかだのう。
さすれば、全然足りんのう。
それこそ、こ奴らの寿命を全て75年分を搾り取っても足りんのう」
「マジで?」
クレスは恐る恐る聞いた。
「足りんのう。寿命約75年分をギルドでの買い取り価格1日1万ザガネと換算して、2億7千万ザガネを絞りとっても足りんのう」
「2、2億7千万…」
クレスはビックリして問い返した。
「オレの寿命って結構永いの?」
「ロストロイヤルのショタ属性を軽く見るでないわ。フォフォフォ」
「まあ、話を戻すと寿命を搾り取るとしても全てを搾り取る訳でないのう。
正確に言うと、老衰死亡する1秒前まで搾り取る事になるのう。
完全に全てを搾り取ってしまうと老衰で死んでしまい“殺し“になってしまうが、老衰死亡の1秒前ならば、”殺し“た事にならんから、クレスとしても良心が咎めまい?フォフォ」
クレスはその理屈に暫し唖然としていたが、
「ご隠居!その強制執行!グッジョブだぜ!♪」
と、親指を1本立てて、ニンマリとほほ笑んでいた。
「そういえば、奴らを縛っている“裁きのお縄”って頑丈なのかな?」
「任せんかい!例えドラゴンであろうとも拘束を解く事は不可能じゃのう。フォフォ」
「すげえな♪」
クレスは、“ハハハ”顔を半分引き攣らせつつ乾いた笑いを上げた。
暫し、クレスは茫然としていたが“ニヤリ”と小さな笑みを浮かべたかと思うとこう話し始めた。
「それじゃあ、そろそろこの三兄弟に引導を渡してやるとするか!(邪笑)」




