3、ロストロイヤルと人族の境遇
「やはり?」
オレは慌ててご隠居の方へと振り向いた。
「おい、ご隠居。一体どういう事だよ。なんでせっかくの希望のエルフを選べないんだよ!」
「それはのう…クレスがこれから転生する“出自”に関係してくるのじゃよ。
いやむしろこの場合はクレスの前世の影響と言えるであろうのう…」
「出自?出自ってもって生まれた謂れとか血筋とかってヤツ?
そんでもって前世の影響?」
「そうじゃ、その理解で正しいのう。
それでクレスの出自は人間のロストロイヤル、“失われた王家の血筋“となっておるのじゃよ。
ではまずは出自に関して説明するかのう」
「ロストロイヤル?なんなんだそれは?」
するとご隠居は話を続けた。
「すこ~し話が長くなるが、昔話とでも思って聞いてくれ」
「かつてグランルース世界にて、豊かな自然の恵みと光りの女神の加護もあり、人間…ひと族は優れた王族の下で大いに栄えておった。
じゃが、光りの女神と暗黒神との間で些細な諍いから次第に大きな争いへと発展してついにはそれぞれの加護を得られている種族をも巻き込んでの大戦へと発展していったのじゃよ」
「光りの女神陣営は、最大種族のひと族と天使族を中心とした軍勢。一方の暗黒神の陣営は、さまざまな種族が付き従っておった。
ゴブリン族・オーク族・リザードマン族・オーガ族・巨人族・獣人族・ダークエルフ族・吸血鬼族・リッチーなどの不死貴族・悪魔族・ドラゴン族などが主な種族じゃな」
「ただ、中には争いを嫌って中立神を頼り、その加護下に入る種族も少なからずおったのじゃ。
エルフ族・ドワーフ族・コボルド族・ケンタウロス族などじゃな…」
「大戦はほぼ100年間続いた。
して結果は暗黒神側の勝利となった。
天使族は地上世界から放逐され、ひと族の多くは辺境の過酷な山奥に逃れるか、危険な深い森林に逃げ延びるのが主な連中じゃったな。」
「もしくは、恵みの少ない荒野や砂漠に命からがら落ち延びていったのじゃ。
そして、中には奴隷として暗黒神側の種族に虐げられて、町に住んでいる人族もおるようになった」
「それが今から約1200年前の話じゃよ。
さすがに1200年経ったので、暗黒神側の種族が支配する町などにて奴隷から逃れて住んでいる者もある程度はおるがその生活水準はスラム街の生活レベルと変わらんのじゃ…嘆かわしい事じゃ……」
そういうとご隠居は大きなため息をついた。
その話を聞いてオレは疑問に思ってご隠居に質問してみた。
「なあご隠居。
今の話だと暗黒神側の種族の方が圧倒的に種類が多くて、且つ、ひと族より強そうだよな。例え、天使族が味方にいたとしても暗黒神側には悪魔族がいるから戦力的には相殺されそうだし…。
なあ、なんでそんな不利な状況で戦争に踏み切ったんだ?」
「さきほど言ったじゃろう。
豊かな自然に恵まれて生活しておったと…。
つまりは、大規模に農地を拡大・耕作して沢山の生産食料を文字通り糧として他種族と比較して多くの人口を擁しておったのじゃよ」
「加えてひと族はゴブリン族やコボルト族には劣るがエルフ族やドワーフ族やダークエルフ族と比較したら、多産じゃからのう。
つまり食料さえ十分にあれば、人口の多さをバックに勢力を拡大できたのじゃよ。」
「じゃが、戦争というのは非生産活動の最たるものじゃ。
戦争によって農作地は次第に荒廃していった。
働き手も戦争の激化とともに、兵士として戦地へ行った。
戦争は100年続いた。
慢性的な食糧不足となった。更には、暗黒神側は戦争末期にトドメの一手を打った。」
「トドメの一手?」
「そうじゃ、世界規模レベルでの農作地・生活地の荒廃を成す忌まわしき大規模魔法であった。
その結果、世界中が荒野や砂漠や凍土など人族が生活するには過酷な生活環境へと一変してしまったのじゃ。
後世ではその大規模魔法を“自然呪い”と呼ぶようになったのじゃ…」
「でも、それって暗黒神側の種族も同じ条件なのでは?
過酷な生活環境であることには変わりがないと思うのだが?」