29、ダンジョン初挑戦
翌日7月19日の早朝…
クレスはダンジョン入口にあるダンジョン受付場のそばに立っていた。
『やっとダンジョンに入れるんだな』
『じゃがクレスよ!気を付けるのじゃぞ。ダンジョンの中は色々と危険だらけであるからのう』
『分かっているってご隠居。』
クレスは列に並びつつ、順番を待った。
どうやら入場は1パーティを10分単位毎に入れている様であった。
「次の者」
入場の担当者は促した。
(オレだな)
クレスは前に進んだ。
「地下1階への入場料金は一人5000ザガネである。
直接現金を払うか、ギルドカードの預金より払うか選択せよ」
「カードで支払う」
「ならば、カードをそこにある台座の上に置く様に」
それを聞いたクレスはカードを目の前にある台座に置いた。
一瞬光ったかと思うとすぐに“ピンポーン”と言うチャイム音が聞こえた。
「通ってよし!」
クレスは言われたままに先に進んだ。
建物内に入ったら、5メートルほど先に地下へ降りる階段が12時の方向にあった。
「いよいよダンジョンか…」
クレスは、幾分焦る気持ちを抑えつつ先に進んでいったのであった。
ラピス村のダンジョン、通称毒ダンジョン、地下1階、入口付近。
ダンジョンの中は暗かった。
普通は松明やランタンなどの灯りがないと歩くことさえおぼつか無いはずである。
然し、クレスは“暗視”スキルを持っていたので、恙無く周囲の状況を見れたのであった。
「へえ、ダンジョンの中ってこんな風になっていたのか…」
「クレスに馴染み易く表現するとすれば、いわゆるRPGゲームの“ウィザードリィ”のダンジョンの様な綺麗に舗装?整備?された石畳の床や壁?と同じ仕様と表現するのがピッタリじゃのう。フォフォ」
「だな。これって完全にウィザードリィのダンジョンみたいだよなあ」
クレスは“マジでこの世界はどうなっているのやら?”と呟いた。
「まあ、とにもかくにもまずは、“探索”と“索敵”の発動だな」
「発動!」
とクレスはクレスが使用した途端、地図上の地下1階の全マップと各部屋に存在するモンスタ及び通路を徘徊するモンスターの位置情報、更には、罠と隠し扉の位置も詳細に表示された。
そして最後に他の冒険者の位置情報も表示された。
それを確認したクレスは静かにけど大きく喜んだ。
「これはこれは…探索と索敵スキルの同時使用の効果は抜群だなあ♪クククッ」
クレスはマップ上に表示されているモンスターの中で単独に存在して且つ弱そうなモンスターを調べ始めた。
「う~~ん、色々と居るけど、地下1階でいるのは、ジャイアントバットとジャイアントラット、それから毒蛇あたりがねらい目かも知れないなあ」
「フォフォ。そうじゃのう。それらの単独モンスターがねらい目と言えようのう」
「フォフォ。
それからもう耳にタコができとるやも知れんが、ダンジョンを徘徊・攻略している他の冒険者にはくれぐれも気を付けるのじゃ。
今のクレスの実力では、まずもって勝てんからのう」
「ああ、わかっているってご隠居。
では、まずは、単独でいて狙い目のモンスターを仕留めに行くか!」
クレスは気持ちを高めらせつつダンジョンの奥へと進んでいった。
……10分後……
『この先のT字路の右手に大ネズミが1匹いるな。
なら、むしろ好都合だ。曲がり角の直前まで接近して死角から子守歌で眠らせるか!』
『それが良かろうのう。フォフォ』
クレスは曲がり角の直前に来たら、竪琴を手元に持ってきたら、徐に演奏を始めて子守歌のスキルを使った。
効果は覿面であった。
1匹の大ネズミは、直ちに眠りに落ちた。
『よっしゃよっしゃ♪』
クレスは竹槍を構えると
“せ~のっ”と小さな声で掛け声をかけつつ、大ネズミを一撃で即死させた。
すると大ネズミはすぐに霧となって消え去り、後にはドロップアイテムが落ちていた。
クレスは早速鑑定した。その結果は…
大ネズミの尻尾:1本100ザガネ
大ネズミの魔石:1個100ザガネ であった。
その結果を見たクレスはかなりガッカリした。
「うわ、マジかよ。
かなり渋ちんの儲けしか得られないなあ…。
これは、子守歌を使用するにもMP1点は最低でも消費するからよくよく状況を考えて使用しないとすぐにMPが底をついて、入場料の5000ザガネ分が完全に赤字になってしまうなあ…(汗)」
「クレスよ、今回のダンジョンの探索は、ひとまず宝箱の発見に努めてつつ罠解除、ひいては個別クエストの罠解除のクリアを重点的にする事に切り替えてはどうかのう?」
「だな。幸いに地下1階のマップは全て把握できているから、隠し扉を優先的に開けつつ、チェスト(宝箱)を発見できたら、そちらを優先して開けて行こう」
「フォフォ。それがよかろう。
宝箱の中には、運が良ければ“お宝”が入っているやも知れんからのう」
「だな。ではそうするか!
確か、このT字路を右手の突き当りには隠し扉・つまり隠し部屋があっったな。
手始めにそれから調べてみる事にするぜ」
クレスは通路の突き当りまで行き、隠しドアの前に立った。
「えと、この辺かな?」
クレスは隠されていたスイッチを押した。
するとそれまで見えなかったドアが表面化して見える様になり偽装されていた岩壁が消えてその先に5メートルほど続いた先に部屋がある様であった。
「やった♪」
クレスは喜んで通路の先へと進んでいった。
隠しドアは発見者が通過すると再度偽装する仕組みの様でクレスが中に入った後で再び偽装された岩壁が再現された。
これを見たクレスは
「へえ。便利何だか厄介何だか分からない仕組みだなあ」
と独り言ちた。
隠された部屋は4メートル四方のありふれたものであった。
その部屋の中心には横60センチ、縦40センチ、高さ50センチほどの宝箱が有った。
その形状は、主な材質は基本的に木製で所々は金属で補強されていた。
「フォフォ。ほう~これまた見かけは完全にゲームのウィザードリィに登場する宝箱そっくりの様じゃのう」
「だな。まあ探索スキルには敵反応がヒットしなかったから、モンスターがこの宝箱に擬態している可能性がないがな…。
ただ、罠感知はヒットしたがな…」
クレスは忌々しそうに小さく言った。
「して?一体何の罠を感知したのじゃ?フォフォ」
「毒ダンジョンの二つ名に相応しく“毒針”だったぜ!」
「ほう。それは或る意味好都合ではないか!
仮に失敗しても毒耐性スキルを持っているクレスには意味がないからのう。
あとは、頑張って罠解除を成功させて、個別クエストをクリアさせて、“罠解除”スキルを入手するのじゃな。フォフォ」
「そうだな…」
クレスは同意して相槌を打った。
「ただ、いわゆる盗賊の7つ道具がないんだよなあ。
自作の針先?とかしか準備できなかった。
だが、しょうがない。今は有る材料・道具だけで試みるしかないからな…」
“をいしょ!”と…
クレスは宝箱の前に腰を落ち着けた。
「どういう構造になっているんだか…」
クレスは懸命に罠の仕組みを理解して、その解除に全力を傾注した。
四苦八苦する事15分…
「よし。このバネを上手く外せば、無事に罠は解除されるはず…。そ~~とっ」
クレスは最後の罠解除の大詰めに挑まんとしていた。
「これで終わりだ!!」
すると、“ピ~~ン!”と何かがはじける音がすると共に“プシュ”と鋭い音が低く響いた。
すると宝箱から長さ10センチほどの針がクレスの右手の甲に刺さった。
「いってえ~」
クレスは思わず呻き声を上げた。
「畜生。罠解除失敗かよう…」
「まあ、一度目じゃ。
はじめから上手くできんでもしょうがあるまい。
あまりクヨクヨせん事じゃのう。
幸いにして毒耐性があるのが不幸中の幸いと言えよぅ。
これからもめげずに頑張れるのが良いのう。フォフォ」
「まあ、ご隠居の言う通りか…」
クレスはそう相槌を打った。
「それはそうと、クレスよ。
宝箱の中に何か入っているじゃぞ。フォフォ」
「え?ほんと?何々?」
クレスは“お宝だ~~”と喜びつつ宝箱の中を確認した。
「うん?なんだ。一つは…小剣?いやシュートソードか?もう一つはポーションが一つ?か。後は金貨袋?中身は……1000ザガネくらいか…」
「ほう、ショートソードにポーションか。
一応鑑定したらどうかの?
もしかしたらクレスにとって役に立つアイテムかも知れんしのう。フォフォ」
「だな♪では、鑑定してみるか。“鑑定”発動!」
すると結果は…
名称:ショートソード
品質:平均的
名称:解毒薬1
品質:毒1レベルを中和する。状態は平均的
と表示された。
「まあ、地下1階だったら得られる戦利品はこんなモノか…」
「ま、そうじゃのう。フォフォ」
「武器が竹槍と言うのは、些か心細かったのでこのショートソードはまあ、すぐに使える武器となるから、ある意味ラッキーだったな♪」
クレスは幾分嬉しそうにしつつ腰にショートソードを差した。
「さてと、どうやらこの部屋にはもう目ぼしいモノはなさそうだから、他を調べるか」
(へえ、隠し扉は出るときはスムーズに通過できるんだあ…)
そう思いつつ、クレスは隠し部屋を後にした。
クレスはその後で7部屋ほどの隠し部屋を発見した。
その隠し部屋の中にはそれぞれ宝箱が安置されてあった。
いずれも罠が設置されており、罠の種類は毒針や毒ガス、そしてモンスターを呼び寄せる警報などであった。
クレスの罠の解除成功率は8回中4回の成功。半々であった。
いみじくも警報4回ばかり解除成功して毒関係ばかり失敗したのは或る意味幸運と言えよぅ。
宝箱から得られた“お宝”は、小袋に入っていたお金が〆て1万ザガネほど。
ポーションらしきモノが5本。
ダガー?2本。
以上が戦利品であった。
MP節約の観点から戦利品は帰宅してから一括鑑定するつもりのクレスであった。
「う~ん、…MPも少なくなってきたし、今回はそろそろ帰るか」
クレスが、隠れ扉から通常の通路に出ようとしたときであった。
『ちっ、通路の前後にジャイアントバットがそれぞれ1匹ずつか…』
『迂回のしようもないようじゃのう』
『仕方ない。
速攻で前方のジャイアントバットを眠らせて、疾く背後のジャイアントバットを眠らせるしかないな…。
よしここは機敏にこなすぞ!』
クレスは竪琴を腕に構えて準備しつつ、小走りに前方で行き、ジャイアントバットに竪琴を演奏を聞かせた。
“ポロ~ン♪”
一小節を奏でるやいなや、前方のジャイアントバットはあっと言う間に睡魔に襲われて地上へと落下した。
落下してもどうやら睡眠状態のままであった。
(よし、続いて背後のもう1匹を…)
とクレスが振り返りかけたその時に
「キィ~~~」
と言う鳴き声が聞こえると共にクレスの頭に鋭い痛みが走った。
“いっつう~”
クレスの頭にはジャイアントバットの鋭いかぎ爪により引っ掻いた様な跡があり、そこから血が流れていた。
「くっそう、…コウモリのくせにやってくれたぜ!」
クレスは、ここまで接近されてしまっては接近戦もやむなしと判断して素早くショートソードを抜いて構えた。
“キイ~キイ~”
ジャイアントバットはクレスの頭上を煩く飛び回っていた。
『クレスよ!お前さんは人族ゆえに他の種族よりはるかに脆弱なのだから、ここは一気にケリをつけた方が良いのう』
『分かっているよ。ご隠居』
クレスはショートソードを中段に構えて、ジャイアントバットの次の攻撃に備えてカウンターを狙う事にした。
やや暫くジャイアントバットが飛び回っていたが…
「キイ~~~」とひと際甲高く鳴いたかと思ったら、急速に突っ込んできた。
(よし、ここだ!)
クレスは、この機会を逃してはならない!とばかりに一気にショートソードを斬り付けた。
“ザシュ”
「キキキイ~~」
ジャイアントバットは断末魔を上げるとそのまま息絶えて、霧となって消えていった。
「フウ~~~」
クレスは安堵の一息をついた。
「結構やばかったな。
まずは、眠っているもう1匹のジャイアントバットにトドメを刺すか…」
クレスは危なげなく眠っているジャイアントバットにショートソードでトドメを刺した。
「次は、回復だな。回復魔法1を発動」
クレスは自分に回復魔法1を使った。
「はあはあ…。
あとはドロップアイテムの回収だな。
鑑定は帰ってからでいいな」
クレスはドロップアイテムを急ぎ回収した。
「クレスよ。もう殆どMPがないのではないかのう?」
「ああ。かなり少ない。ここは急ぎダンジョンを抜け出す事にする」
クレスは、詳細を明らかにされているマップを頼りに敵や罠を避けつつ、ダンジョンから脱出したのであった…。




