18、人族の待遇と現実
『さ~て、どうするかなあ。
準備するにしてもどういう道具?とか揃えたら良いのかな?
どう思う、ご隠居?』
『まずは、安めの防具と武器を揃えるのが鉄板ではないかのう。フォフォ』
『だよなあ。じゃあ、まずは武器屋に行くか』
クレスは武器屋に向かった。
『ここが武器屋か…』
『店の看板として盾を背景にして二つの剣がクロスして描かれておる。間違いなかろう。フォフォ』
クレスは西部劇の酒場でよく見かけるウエスタンドアから店の中に入っていった。
中には、様々な武器が店内の至る処に展示されている。
店主らしきゴブリン族の男が店の奥のカウンター?らしきところに座っていた。
「へいらっしゃい。って、なんでえ人族かよ。チッ、挨拶して損したぜ」
「随分なご挨拶だな」
「何しにきたんでい。」
「何しにも何も、店に来るからには買い物に決まっているだろう!」
すると店主はイラつきを隠そうともせずに
「ふん、だっからさっさと選んで買い物をしたらとっとと帰んな。
店の中が人臭くなって他の客が寄り付かなくなっちまったら商売上がったりだからな!」
「なんだと!」
「け、不服なら他所の店に行くんだな。こちとら全然構いやしねえからな。ゴブゴブ」
(のやろう、このいラピス村にはここしか武器屋がないからっていい気になりやがって!)
クレスはかなり、頭にきていたが、我慢して店内の武器を見て回った。
『クレスの今の体格や筋力を踏まえると当座は鉈辺りがお勧めだと思うのう。フォフォ』
『ご隠居もそう思うか?
今の処金もないしオレも鉈が妥当だと思っていたよ。
え~と鉈のコーナーはどこかな?』
クレスは展示してある鉈のそばに行ってみた。
『げ、1本20万ザガネもするのかよ。』
『そのようじゃのう。然し、それが一番安い鉈の値段だのう』
『そうみたいだなあ…。
本当は値引き交渉したいところだけど、この店主のオレへの接客態度からまず、無理そうだなあ。
う~む。悩み処だけど、ユウカオの採集をなんとかコンスタントにこなせば、毎月の住民税3万ザガネは何とか稼げそうだし…。
ここは清水の舞台から飛び降りるつもりで、買うか!』
クレスはその鉈をカウンターに持っていくべく、一応値段を聞いてみた。
指さしつつ…
「なあ、この鉈は20万ザガネでいいんだよな?!」
すると店主は話題の鉈に一瞥をくれると
「ああ、それか。それは200万ザガネだ」
とぶっきらぼうに告げた。
「なっ!」
クレスは思わず言葉に詰まった。
「ここに、値札に20万ザガネと書いてあるじゃないか!」
すると店主は
「ふん、それは人族以外に販売するときの値段だ。
人族は10倍の値段で売るって決めているんだ」
「な、なんだとう!!」
クレスはいきり立った。
「ふざけるな。
20万ザガネで値札が書いてあるんだから、20万ザガネで売れよ!」
「ふん、ワイにも客を選ぶ権利ちゅうモノがあるんや。
イヤならよそに行くんだな。ゴブゴブ」
「そんな言い訳が通用するとでも思っているのかよ」
「ふん、モノの道理を知らんやっちゃな。
いいか人族。
売買というのは売り手と買い手がおるんや。
で、お互いに希望金額を自由に設定できるんや。
これを“契約自由の鉄則”言うんや。
せやから、売り主のワイは幾らで売るかも自由に決められるんや。
分かったか人族。ゴブゴブ」
「なあ~にい~」
クレスはいきり立って、ゴブリン族の店主に詰め寄ろうとした。
そのとき
『クレスよ、そのゴブリン族の言う通りじゃ。ここは引くがよかろうのう。』
『え?』
思わずクレスはご隠居に聞き返した。
『そこのゴブリン族の言う“契約自由の鉄則”というのは本当なのじゃ』
『マジで?』
『そうなのじゃ。だからここは諦めて引くのじゃ。』
『くっそう。』
クレスは泣く泣く詰め寄ろうとしたのを止めた。
(どっちにしても200万ザガネなんて持ってない。ここは諦めるしかないか!)
「け、こんな店に二度とくるか!」
「こっちこそ人族の客なんざ願い下げじゃ。とっとと帰れ。ゴブゴブ」
クレスは苦々しく思いつつ武器屋をあとにしたのだった。
クレスは防具屋・道具屋を回ったが、どこも武器屋と同様の対応をされてしまったので、仕方なくなにも買わずに家に帰ったのであった。
クレスは、自室のベッドに倒れ込む様に身を投げ出した。
「かあ~~、参ったぜ。ご隠居。ここまで人族を目の敵にするとはなあ…」
「そうじゃのう。これではろくすっぽ道具など揃えられんのう。フォフォ」
「そうだよなあ…。
帰りながら、色々考えてみたけど、仕方ないから武器は薬草の採集用に使っているナイフで代用するしかないか…。
一方、他の防具や道具はどうしょうもないな…」
クレスは昇進試験の事を考えたら途方に暮れたが、考えてもどうしょうもないと思い、ナイフ一本でも試験に挑戦しようと決意して明日の早朝から村の外出かけようと思い就寝についた。




