16、下士官昇進試験
6月3日の早朝
ギルドのカウンター前にてクレスはライサスとカウンター越しに会話していた。
「ラシアスさん。ユウカオを買い取って下さい。100セットあります」
「はい。確認するので少し待ってね。…確かに。クエスト完了です。追加報酬も含めての2万ザガネです。お受け取り下さい。」
「はい。…確かに、2万ザガネを受け取りました。」
「それでクレス君?」
「何か?」
「クレス君は今日のクエスト完了を以て、下士官昇進試験の受験資格を付与されました。おめでとうございます♪」
(ををう、やったね)
「ありがとう♪」
「クレス君は受験されますか?」
「勿論です」
「では、下士官昇進試験について説明しますね」
ライサスは言葉を続けた。
「知っての通り、村の外は砂漠地帯が広がっております。
そこには砂漠に棲む様々な生き物がおります。
砂漠サソリ、砂漠一角ウサギ、砂漠狼、砂漠熊、などなど他にも色々生息しております。
そして、試験内容は、砂漠に棲む“砂漠サソリ1匹、砂漠一角ウサギ1匹、砂漠狼1頭を仕留めてくる事です」
「村の外の砂漠での狩り?ですか?」
「そうです。
狩りと言う事になります。
今挙げた生き物はいわゆる自然に生きる“獣”と言う事になります。
そして、無事に狩りが成功した場合には、様々なドロップ品が自動的に発生します。
ご存じでしょうか?」
「い、いえ、詳しくは知りません。
ばあちゃんが、村の外は危険だから決して村の外には出るな!
と…オレが小さい頃から繰り返し何度も言われてきたので…」
「そうですか、…良いおばあさんだったのですね…。
では、いわゆる狩りひいては討伐に関して説明しますね」
「自然の獣に限らず、すべての生き物は、死亡した場合、肉体は直ちに霧のように霧散して消えます。
そしてその場には、ドロップアイテムが落ちております。」
「ドロップアイテム?」
「そうです。
例えば、サソリの場合は毒針の部位、一角ウサギの場合は名称の由来となった一本の長い角、狼の場合は、鋭い犬歯などです。
これらは、貴重なアイテムですので、当冒険者ギルドに提出して頂けたら、買い取らせて頂きます。
尚、討伐依頼のクエストを事前に受諾されておりましたら、ご自身のギルドカードにて自動的に討伐完了の記録がなされますのでご安心下さい。」
「へえ、便利ですねえ…」
(まるで、ゲーム世界の仕様みたいだなあ…)
「また、ドロップされるのは他にもあります。
それは“魔石”と呼ばれるモノです。」
「魔石?」
「はい。その魔石は手のひらサイズほどとなっております。
自然の獣に限らず、すべての生き物が死亡した場合にその場にドロップされます。
これはあなたの人族からも発生しますし、あなたのおばあさんのリアンさんが死亡した場合も発生したかと思います。」
「言われてみればそうだなあ…」
「ただ、ご存じの通り、住民などな死亡した場合は、一種の亡骸と同じ扱いをされますので、お墓に埋葬されるのが常ですね。」
「だなあ…。オレもばあちゃんの魔石?をお墓に埋葬したなあ…」
「ただ、魔石の言うのは、貴重なものです。
当ギルドでも村の外で得られた魔石やダンジョンの内部で得られた魔石などを相応の価格にて買い取らせて頂いております。」
「うん?それほど魔石が貴重なら墓場から取られたりはしない訳?」
「そこは大丈夫です。
ダンジョンマスターの眼が光っておりますので、盗掘しようとしたら即座に金縛りとなり“御用”となってしまうからです」(ニコリ)
「ほう」
(抜かりはないわけか…)
「話を戻しますね。
以上の如く、外で狩りやダンジョン内で討伐を行った場合、様々なドロオプアイテムや魔石が落とされます。
ただ、ここで少し面倒な事態が発生する場合があります。」
「面倒な事態?」
「はい。いわゆる“横取り“ですね」
「横取り?」
「はい。例えば、クレス君あなたが狼を狩り・討伐している最中だったとします。
そこに第三者(仮にAとしますね)の冒険者がその狼を攻撃して死亡させたとします。
では、そこに発生したドロップアイテム品や魔石は誰の所有物になるのでしょうか?
クレス君?それともAの所有物?」
「そ、それは…」
クレスは一瞬返答に困った。
どう判定すればいいのか分からなかったからである。
「その場合は、その狼に一番多くのダメージを与えた人物・パーティの所有物となります。
その判定はギルドカードを介して自動的になされます。
仮に当事者の片方しかギルドカードを所持していなかったとしても正確にきちんと判定してくれます。
又、パーティが組まれていた場合は、パーティ全体で与えた総ダメージの累計の大小で判定されます。」
「そうかあ…、そうやって判定するのかあ…。
ギルドカードって便利ですね。」
(益々、ゲーム世界っぽいなあ…(汗))
「そうして発生したドロップ品・魔石は暫定的所有者のみが見る事・触る事ができるようになっております。
そして、一定時間経過後に誰でも見る事・触る事ができるようになっております。」
「ほへえ。至れり尽くせりなのですねえ…」
「ええ。ですから冒険者の皆様も安心して狩り・討伐クエストを受けられるのです」




