1、異世界転生と裁きの印籠との出会い
前世では、トラックにはねられて死んでしまった日本の15歳の少年。
だが、そこは最近の日本の15歳の少年。
慌てず騒がずテンプレとも言えるチート付きの異世界への優遇転生をして貰おうと辺りを見渡すも綺麗なお姉さんタイプの女神は居らず、居たのは訳の分からない小さな小人サイズの年寄りがプカプカと浮かんでいるだけであった。
どうやらここは三途の川らしく、その年寄りは自分の事を“ご隠居“と呼べと言う。
で、詳しい事を聞くと異世界転生は確かなのだが、選べる種族は人族限定でチートスキルも貰えず、選べるスキルはたった1個だけらしい。
加えて選べる種族は人族限定である。
尚、転生先の異世界グランルースでは、千年以上前の大戦にて人族は敗北した為、敗者の最弱種族として虐げられているとの事だった。
逆に、ゴブリン族やオーク族などの種族が勝者の種族として権勢を振るっている。
又、ゴブリン族やオーク族などが強者として君臨する事によりゴブリン族の様な容姿が種族繁栄の観点から“モテる”と看做される様になった。
つまり、昔と違って人族の立場は逆転して最底辺になった。
容姿も今となってはブサイクな容姿がモテる様になった。
“色々と逆転“した世界で人族に転生する事になった元日本人少年は名をクレスと改めて、新たな異世界で何とか生き抜こうと決意したのであった。
果たして、クレスは頼みの綱となるたった一つのスキル選んで上手く活用して成り上がる事ができるのであろうか?
「あ、これ死んだわ」
高校からの帰宅途中のオレは、交差点の信号を渡っている最中に突っ込んでくる大型トラックを見て呟いた。
………
「で、これはどういう状況?」
そう言うオレの目の前には身長15センチほどの年寄りが目の前にプカプカと浮かんでいた。
「フォフォ、ここはお前さんに分かり易く言うとあの世とこの世の境い目じゃのう。
三途の川と言ったほうがピンとくるかも知れんのう」
この爺さん、見た目は完全に水戸黄門様だな。
「三途の川?」
「そうじゃ。お前さんの知識を借りさせてもらって説明しているがの」
「オレの知識を借りている?」
「ワシとお前さんは深層意識でつながっておるのでな。フォフォフォ」
どういう事だ?
「爺さん、あんた何者だ?」
「ワシか?ワシは“裁きの印籠”という精霊じゃよ」
「裁きの印籠?なんだそれは?」
「裁きの印籠と言うのは、一種の裁判所の様なモノかのう?
ただ、視点が神の視点と同一であるのが特殊じゃがの」
「神の視点?」
「そうじゃ。
普通は犯罪者を捕らえても、有罪・無罪の判定には証拠の是非や検証に関して様々な手続きを踏むじゃろ?
だが、それはその犯罪の真実が客観視されていないからじゃ。
証人や証拠が必要なのもその為じゃ。
じゃが、ワシは真実を見る眼を持っておるからの。
じゃからワシが判断・決定すればそれは問答無用でそれが真実であり決定なのじゃ」
「なんだよ。そのデタラメな力は?」
「フォフォ、だから言うたであろう。神の視点を持つと」
「そんな力は聞いた事がないぞ。ていうか、そもそも精霊なんて居るのか?」
「フォフォ。
そりゃあ、お前さんの元いた前世の世界の地球には存在しておらんかったからのう」
「前世の世界? て事は?」
「フォフォ、お前さんも薄々は気づいておるのじゃろ?
お前さんの記憶の通り、トラックに轢かれて即死したのじゃよ。
そして、お前さんはこれから…」
「異世界に転生するってことか?」
「フォフォ、その通りじゃ。じゃから先ほど三途の川と言ったのじゃ」
その爺さんの言葉を聞いたオレは大きく息を吐いた。
「まさかの最近流行りの異世界転生モノかよ。
そっかあ…一応聞きたいけど交通事故をなかった事にするとか、地球に転生するとかはできないのかな?」
「フォフォ。それは無理じゃのう。
既に起こってしまった出来事な上に既にこれから転生する予定のグランルース世界にて生まれ変わる寸前にまで事象が進んでおり、地球との縁も切れておるからのう…」
そうか…
「それにしても爺さん、いやに地球のことに詳しいんだなあ…」
「それは先ほども言うたじゃろう。
お前さんとは深層意識下でつながっておるとのう。
じゃから、ある程度は地球とやらの知識共有できておるのじゃよ」
「な~~んか、こっぱずかしいなあ。それってオレの記憶とか読み放題な訳だろう?」
「あくまでも“ある程度”しか読めんよ。
それにお前さんは本当に知られたくない部分はワシには読めんよ。
じゃから安心するがよかろうのう。フォフォ」
う~~ん…取りあえずはそういう事にしておくか。でないと話が進まない感じがするしな
「じゃあ、それは取り敢えず良いけど。
まだ今の状況が殆ど分かっていないんだけど、説明してくれるかな?」
「フォフォ、では説明するかの。一部重複するがまあ我慢してくれ。」
“よっこらしょ”と爺さんこと裁きの印籠は空中でオレの目の前50センチほど離れた空間に胡坐をかくとおもむろに話を始めた…
「ワシは裁きの印籠と言う。まあ取りあえずの本体はコレじゃな」
そういうなり、爺さんの左隣りにテレビでお馴染みの水戸黄門の印籠が現れた。ただ違いは印籠の家紋が徳川家の“三つ葉葵“ではなくて、豊臣秀吉の”五七の桐門“であった。
「マジで印籠なの?というか、何で豊臣家の家紋な訳??」
「さてのう。それはワシにはわからんのう。フォフォ」
「話を続けるかのう。
一応はこの様に印籠は見えるが、触れることはできん。
試しに触れて見るがよかろうのう」
触れない?マジで?
「じゃあ爺さん、試してみるからな」
そう言いつつ、オレは印籠を掴もうとみてみたが…
“スカッ”
と空を切った…
何度も試して見たが。結果は同じで掴むことは出来なかった…。
「の、無理じゃろう?」
「爺さん、これってどういう事だ?」
「ワシは精霊じゃからの。普段は実態化しておらんのじゃよ」
ん?普段は?
「普段は実態化していない?てことは?」
「フォフォ、ホレこの通り触れる事ができるのじゃよ」
一瞬印籠が光った気がした…
そのあとでオレは手を伸ばすと…
「さわれるな…」
「じゃろう?
ついでに言うとワシとお前さんは深層意識下でつながっておるから、この様に言葉を交わさずに心と心で会話することができる」
『ホレ!この様にのう』
“うわっ“ オレは急に心?に響いてきた声に驚き思わず声を上げてしまった。
『驚かせてしまったようじゃのう。すまんかったのう』
『いや、大した事ではないさ。って、これが心と心との会話なのか?』
『フォフォ、覚えるのが早いのう。そうじゃ。これを“念話“と言う』
『念話?』
『そうじゃ。傍目からだと話しているようには見えんのじゃ。
中々に便利なはずじゃぞ。フォフォ』
『あと、もう一つ言うておくと、ワシの姿は余人には見えんのじゃよ。』
『姿が見えない?』
『そうじゃ。
お前さんとは深層意識下で繋がっておるから、お前さんはいわば特別じゃ。まあ、ワシが意識すれば、姿を現して余人に見えるようにすることは簡単にできるがのう。フォフォ』
ふ~~ん、でも、それって…
『お前さんも気づいたと思うが、念話とこの“姿隠し”を併用すれば、余人に悟られることなく話すことができることになるのう。フォフォ』
ある意味、これってかなり便利じゃないか?
『どうやらお前さんも念話に慣れてきたようだし、ひとまず通常会話に戻さんか?』
「あ、ああ、そうしようか?分かったよ。爺さん」
「では、改めて自己紹介を続けるかのう。
ワシは裁きの印籠の精霊じゃ。
ワシのことは“ご隠居”とでも呼んでくれ♪」
「だから何で、そこで黄門様がでてくるんだよ!異世界では関係ないだろうに!!」
思わずオレは突っ込みを入れてしまった。
「まあ良いではないか。フォフォフォ」
そう言いつつ、首をのけ反らせて甲高く笑い声を上げる“爺さんことご隠居”を見てため息を吐きつつ半ば半分諦めつつ言葉を続けた。
「ああ、もういいやご隠居で…」