魔法陣
「一体、何があったんですか?」
アルマがスタンの魔法を唱えてくれたおかげで、男たちの呪縛から解放された俺はリカさんに何があったのかを聞いた。
「それが、私にもよくわからなくてですね。研究所にいたら、いきなりローブを着た人たちが侵入してきたんです。私は先生の機転で何とか逃げ出すことはできたんですけど、残っていたここの職員たちに追いかけられてしまって。……ソウイチさんたちが来て下さらなければ、捕まってしまうところでした」
「そんなことがあったんですね。もう大丈夫ですよ。……あれ、ここの職員たちに追いかけられたって言いました?」
侵入者に研究所を乗っ取られるなんて怖い思いをしただろうと考えた俺は、安心させるために微笑んでみせる。だが、同じ職員の人に追いかけられた、というのはどういうことなのか。
「はい、唯一ローブを纏っていない長身の男がいたんですけど、その人の持っていた本が光ったと思ったら、職員の人たちが操られたように動き始めたんです。そうしたら、私を追ってきて」
本が光って人を操る……間違いない、この研究所を乗っ取ったのはクレアシオンという組織だ。王都での異変の原因もこの組織で間違いないだろう。問題は何をしようとしているかだな。
「頼れるのはソウイチさんたちだけなんです。どうか、先生を助けてください!」
「任せてください。カンナさんは必ず助け出します。その前に質問したいことがあるんですけど……」
すぐ助けたいのだが、その前に色々聞いておかなければいけないことがある。
「はい、何でしょう?」
「ここに、グランデシャトーのギルドマスターが来ませんでしたか?」
「イヴァンさんですか? ……すいません、私は見なかったです」
あれ、来てないのか? でも、リカさんが見てないだけかもしれない。
「私からも良い? その本を持った男って、どんなやつだったの?」
「左半分の顔を覆ってしまうほどの大きな黒い眼帯をした人でした。立ち位置的にリーダーっぽい印象です」
「!? その男は、今どこにいるかわかりますか?!」
男の特徴を聞いた瞬間、ミリカが掴みかかるようにリカさんに詰め寄った。
ミリカの焦り方からして、ただの知り合いということはなさそうだ。
「多分なんですけど、研究所の奥にある実験場にいると思います。広い場所が必要とも言ってましたから」
その言葉を聞いた瞬間に、駆けだそうとしたミリカの服を掴んで止める。
「いきなり走り出そうとしてどうしたんだよ。その男のこと知ってんのか?」
「離してください。今すぐ、その男に会いにいかなければいけないんです!」
「落ち着けって。無策に突っ込んでも、ろくなことにならないぞ。急いで突入したい気持ちはわかるが、作戦を考えてから……」
俺がミリカを落ち着かせようとしていると、突然研究所の奥の方から王都の中心らしき空に向かって一筋の光が伸びた。
その直後、王都の上空を覆うように光の円が展開され。
「あれは、魔法陣?!」
その光景を見ていたアルマが驚きの声を上げた。
魔法陣なんて初めて見た俺は綺麗な模様だな、と呑気に空を眺めていた。何か記号なようなものが描かれているみたいだが、知識の無い俺にはちんぷんかんぷんだ。
青白い線で描かれている魔法陣が王都を照らしている様子は、幻想的である。
「ちょっと、あんたたちどうしたのよ!」
「す、すいません、姐さん。体に力が入らなくなって……」
声のした方を向くと、エリーサの部下たちが地面に座り込んでいた。
「まずいわ。魔法陣が展開されてから、その人たちから漏れ出てる魔力の量が増えたわよ」
これは作戦とか悠長に考えてる時間はないな。
リカさんには、合流した時にミリカが腕輪を渡してあるので心配はない。男連中には我慢してもらおう。
「アルマ、あの魔法陣が何なのかわかるか? あと、あれを消す方法も」
「あれは何かを錬成するための魔法陣だと思います。あんな大きさのは見たことがありませんので、自信を持って言えないんですけど。普通の魔法陣なら発動者の意識が無くなるか、触媒を壊せば消せるはずです」
よし、作戦が決まった。
「わかった。まず、その触媒を壊す。壊せなければ発動者の意識を刈り取る。そして、王都に出現した柱をどうにか処理する方法を聞き出す。その後で、敵の話を聞こう。人命優先ということで、行動しよう」
「作戦でも何でもないじゃない」
細かいことは気にせず、行動あるのみだ。
「でしたら、案内係がいりますよね。私が研究所の奥まで案内します」
前回、来た時には奥まで行くことがなかったから道がわからない。迷って時間を消費することは避けたいので、逃げてきたところ申し訳ないが案内をお願いする。
よし、突入!
「私たちは行かないからね! そんな危険なところ!」
言われなくても、ついてこいなんて言わないから。




