手のひら返し
「あなたたちは!? ……そう、つまり私は捕まってしまったわけなのね」
瞬時に今の状況を確認し、納得できるのはすごい。普通は取り乱したりして、騒ぐものだと思っていたが、さすが突飛な理念を掲げている組織の一員なだけはある。
これなら、すぐにでも尋問を始められそうだな。さっきの打ち合わせ通りやって、駄目ならみんなでまた考えよう。
刑事の取り調べみたいで、わくわくする! ……ベッドの上で拘束された女性相手でなければ、雰囲気を壊さなかったかもしれないが。
「理解が早くて助かるよ。なら、これからどうなるか、わかるな?」
なんとなく、こんな勿体ぶった言い方をしてしまった。普通に聞けばいいものを、徐々に追い詰めていく姿が刑事っぽくていい、と思い込んでいる俺はつい力が入ってしまった。
「何でそんな微妙な言い回しなのよ。普通に聞きなさいよ」
案の定、アルミラからブーイングが飛ぶ。
はい、わかりました。
寝かされている女性の隣に座り、質問を始める。
「コホン、まず、あなたのお名前を教えてください」
「エリーサ、年齢は18歳でクレアシオンという組織の下っ端をしているわ」
名前だけしか質問してないのに、組織名まで言うとか。口軽すぎないか? この女性。
だが、ある言葉に疑問を持つ。
「18歳?」
見た目からして20代後半のように見える。明らかに年齢詐称しているのが分かる外見に、首を傾げざるを得ない。もっと、わかりにくい年齢を言えばいいものをなんで無理をするのか。
「私は18歳よ。文句あるの?」
……あ、そうか。18歳と数10ヶ月という意味か。勘違いしていた。
「いえ、ありません」
「ソウイチ。女性に年齢を聞くのは失礼ですよ。私も21歳ですけど、ギルドで疑問に思われた時とか傷ついたんですから、きちんと配慮してくださいね」
年齢については向こうから言ってきたことなんだけど、俺が怒られるのは納得いかない。ただ、聞き返しただけじゃないか。
それにしても、年齢についてアルマは過剰に反応するな。これ以上は地雷だろうから、質問を変えよう。
「次の質問だ。魔導書を持って何をしていた?」
「ご存知の通り、布教活動と理由は知らないけど精霊の力を集めていたのよ。この魔導書を私たちに持たせたのは組織の幹部連中。何組いたのかは知らないけど、この王都中で演説をしているわ。魔導書の力は、人々の意識を操ることと少しだけなら記憶を操作できること。そして、私たちの組織の目的は人工的に神を造り出すことなの」
ご丁寧にすべてを語ってくれたエリーサに軽く引く。
アルマの情報そのままだから、嘘を言っていないのは分かるが、ここまで正直に話すとかこいつの神経を疑う。
待てよ。アルマの情報無しでこれを聞いたらどうだ。果たして、全部信じられるか。
それとも、拘束されている状況に危機感を抱いているから、正直に話すことを選んだのだろうか。
なるほど、これが相手の狙いか。嘘か真か判断するのを難しくさせて、混乱させようとしているんだな。この女、結構やり手だ。まあ、誤算なのは、記憶を覗けるアルマがいたことだな。
「これが私の知ってる全てよ。嘘は言ってないわ。だから、拘束を解いてくれるかしら? 言っておくけど、私は何の力も持たないか弱い女性だから、襲い掛かるなんてことはしないと誓うわ」
こちらが優位なはずなのに、なんでこんなにも強気でいられるんだ。この女性、肝が据わっているとかそのレベルを超越している気がする。
「お前の言った言葉に信じられる証拠はあるのか?」
「証拠なんてあるわけないじゃない。私の言った言葉が信じられないなら、もう何を話しても無駄ね」
仲間の方を見ると、困惑しているのが顔にありありと出ているのが見てとれた。
え、情報全部言っちゃうの? 的な顔だ。
気持ちはわかる。俺もさっきの考えていた時間を返せと言いたい。いや、勝手に渋るだろうと考えておいて、失礼だとは思うけど。それでも言いたい。
「えーっと、問題は無いと思いますよ。拘束を解いても、さすがに冒険者である私たち4人相手には抵抗できないでしょうし」
記憶を覗いたアルマが言うのなら、安心できる。
アルミラが拘束の魔法を解くと、その女性はベッドから起き上がった。そして、俺のほうにしなを作るように寄りかかってきた。
「「「な?!」」」
突然のことに驚いて固まる俺と驚愕の声を上げる3人。
そんな俺たちの反応を気にせず、エリーサは流し目をしながら言葉を放った。
「ねえ、私、あなたに惚れちゃったみたいなの。あなたの強さに胸がキュンとしちゃったの。どうかしら、今夜……一緒に」
香水を使っているのだろうか、俺の鼻を刺激してくる匂い。顔を近づけ、耳元で囁くような甘い声に耳が刺激される。
「本気ですか?」
「当たり前よ。強い男に惹かれない女はいないわ」
……言っちゃ悪いんだろうが、すごいビッチ臭いです。
俺の顔を見てそんなに乗り気じゃないことを察したのか、さらに体を寄せて豊満な胸をスリスリしてくるのは嬉しい。柔らかい感触を楽しめるのは良いんだ。だが、あまり好きでない匂いを漂わせてくるのがこんなにも不快になるとは思ってなかった。
運んでいる時から感じていたが、この香水の匂いは嫌いだな。
匂いが嫌なだけで、魅力を感じない。こんな発見をするとは思わなかった。
「……なんで、効かないの。なら、計画変更よ」
こんなに近くで呟かれると、ばっちり聞こえてしまう。
計算していた行動だったのかよ!
俺から離れると、とんでもないことを言ってきた。
「私を保護して欲しいの。もうあんな組織には居たくなかったのよ。お願い。あの組織にいたのだって、病気で苦しんでいた弟のためにどうしてもお金が必要だったから。本当は、あんな変な組織は御免だったの」
手を合わせて懇願してくる姿は、本当に病気の弟のために身を粉にして働き、苦労してお金を工面していたと思わせるほどの演技力を見せていた。しかも、目に涙を浮かべる徹底ぶり。
最初から、そうしてれば信じていたんだろうけど。
もはや、信じられる要素が皆無だ。
ああ、こんな時こそ嘘を見抜く魔法が便利だと思う。




