情報
アルマが魔法を使っている間、紅茶を飲みながらその様子を観察してみた。
先ほどのミリカの話から、通路みたいなものができているとのことらしいが線でつながっていたり、2人の体が光っているだとか特殊な光景は見られない。
ベッドで寝ている獣人の女性と、その横で崩れ落ちたままになっているアルマの姿だけが俺の目に映る。
そして、俺はその場面からある疑問が脳裏に浮かんだ。
獣人って、尻尾が生えてたよな。仰向けで寝ていると痛くならないんだろうか?
この宿のベッドは柔らかい素材を使っているのか、とても寝心地が良い。だが、尻尾が自分の体重に押しつぶされていたら、さすがに痛いだろうと思う。
くっ、ローブで隠れてしまって、確認できないのが残念だ。
「何してるのよ、そんな前傾姿勢になって……」
椅子に座りながら紅茶を優雅に飲んでいたはずが、無意識に覗き込もうとしてしまったようだ。アルミラにジト目で見られてしまった。
無意識って、怖いよな。
「どうせ、ソウイチのことですから、寝ている獣人の体に興味津々なんでしょう」
どうせ、とは失礼な言い方をしてくれるな。
「あのな、俺は単純に獣人の体の構造について興味が湧いただけだ。ミリカの言うような、邪な感情があるわけじゃない。そう、人体の神秘について考えていたんだよ」
この場合は、獣人体の神秘か。
アルミラとミリカの2人は胡散臭いものを見る目をしているが、嘘は言ってない。
「ほら、仰向けで寝ていると、尻尾が体とベッドで挟まれているだろう。痛くならないのかなってさ」
「この状況でそんなことを考えられるソウイチの頭が羨ましいわ」
「空気くらい、読みましょうよ」
「別に今は何もできないんだから、そのくらい考えてもいいじゃないか……」
2人からの視線がなんとも言えない感じになり、やけになった俺は紅茶を一気に飲み干す。かれこれ、これで5杯目だ。
意外にもアルミラのいれる紅茶が美味しくて、飲みすぎてしまった。
さすがにお腹もタプタプになってきた頃、アルマが目を覚ました。
「確認できましたよ、みなさん。……あれ?」
さっきの話が尾を引いてたため、微妙な空気になっていたことを感じ取ったアルマは小首を傾げていた。
「それで、どうだったんだ? 何かわかったのか?」
この空気を払拭しようと真剣な顔をして問いかけると、これまた真剣な顔をしてアルマが。
「はい、わかりましたよ。獣人の方は仰向けで寝ると、尻尾が体とベッドの間に挟まれて痛くなるそうです。しかも、尻尾でも平衡感覚を取っているそうなので、痺れてしまった場合は立てなくなる時があるそうです」
俺の疑問に答えてくれた。
なるほど、やっぱり弊害があったのか。つまり、獣人は仰向けでは寝られないということか。
「ちょ、ちょっと、アルマ? こんな時にふざけている場合じゃないでしょう?」
「すいません。記憶を覗く魔法って結構神経使うんですけど、現実側の状況を知ることができないわけじゃないんですよ。……みなさんが私抜きで優雅に紅茶を飲んでいたのはずるい、とか思ってませんが、少しいじわるをしてしまいたくなったんです」
1人だけ除け者にされていたと思ったのか、口を尖らせていた。
緊張感が足りず悪かったとは思っているが、その普段は見せない子供らしい姿にギャップを感じてしまった俺はテンション高く心の中で萌えていた。
「う、それは謝るわよ。今からアルマの分もいれるから、許してよ」
「意外とアルミラのいれる紅茶は美味しいので、それで機嫌を直してください」
「……意外とって、どういうことよ?」
そのままの意味だと思うけど、口に出すと話が進まなくなりそうだったので黙っておこう。
ミリカにも色々とツッコミをしたい気持ちが湧いてきたが、これもスルーだ。
紅茶の件は片付いたみたいで、本題に入るためアルマが口を開いた。
「この女性の名前は、エリーサと言います。ある組織の構成員で、他にも何組かこの街で演説をしているみたいです。その組織の目的は宗教の布教もあるみたいですけど、一番の狙いは精霊の力を集めることだそうです」
「精霊の力を集める? 一体、何のためにですか?」
「そこまではわかりませんでした。エリーサさんは組織の下っ端みたいで、あまり多くの情報は持ってなかったんです。ただ、魔導書には人の記憶を書き換える効果と操る効果があるみたいです」
あの時、王都の人たちは目が虚ろになっていたり、虚空を眺めていたりしていたが、あれは操る効果だったということか。
「あと、組織の理念が突飛と言いますか、空想的と言いますか……」
アルマが言い淀むというのも珍しい。一体、どんな理想を掲げていることやら。こんなことをしている連中だし、絶対しょうもないことだろう。
「自分たちの理想郷を作るために、この世界を作り変えるだとか」
うん、悪役らしいテンプレートだな。
「そのために精霊の力を集めて、最終的に神を人工的に造り出そうと計画しているみたいです」
精霊から神様を人工的に作るとか、正気とは思えないな。
「そして、この組織の名称ですが”クレアシオン”と言うそうです」
組織の名称は、悔しいがカッコいいと言わざるを得ない。




