トリオ
その後、いくつかお店を見て回ったがアルマ達を見つけることはできなかった。こんなにも広い王都なんだから当たり前と言えばそれまでだが、ばったり会った時のことを脳内でシミュレートしていただけに少々残念ではある。
まあ、そんな急ぎの用事では無かったし問題は無いんだけどな。
宿に向かって歩きながら心の中でごちていると、昼間と同じような人だかりを見つけてしまった。
「また、宗教の演説か? 今度こそ、精霊が苦しんでいた原因を突き止められるかもしれないな。今も苦しんでるかは知らないけど……」
「とりあえず行ってみましょう。ルリちゃんが居なくてもあの不快感があれば、きっと同じだと思いますし」
今回、演説をしている人は声が高いことから昼間の時とは違い、女性のようだ。ただ、どちらの声も聞き取りづらいのは共通している。
人が多くて演説をしている姿は見えないが、今度こそは見てやるという気概で無理矢理分け入り前へと進んでいく。後ろを振り返るとミリカも何とか追従してきているようだが、辛そうにしていた。
これは手をつなぐチャンス。
すっと手を伸ばし、ミリカの手を掴み引き寄せてやる。
「あ、ありがとうございます」
1人でも大丈夫です、と手を振りほどかれるかもと思っていたが、素直にお礼を言ってくるミリカの声を聞きながら、前へと進んでいく。そして、ついに最前列にたどり着いた。
演説をしている人たちは、フードを被っているため顔は見えなかったが怪しさ満点である。しかも、そのフード付きローブの色がカラフルで赤、黒、黄色となっていた。
惜しい、黒じゃなくて青なら信号機トリオと呼んでやろうと思ったのに……。
演説をしているのは赤のローブを着ている、女性らしい体つきをしている人だった。宗教っぽい感じがするので、手に持っているのはきっと聖書というやつだろう。
ただ、この聖書というやつが普通の本ではない。
「なあ、ミリカ。本って光るっけ?」
「そんなわけないじゃないですか。図書館で様々な本を見たでしょう。あれは魔導書だと思いますよ。なぜ、こんな通りで魔導書を開いて演説しているのかはわかりませんが、あれが精霊を苦しめている元凶のような気がします。昼間と同じく不快感を感じるので、間違いないと思います。ただ、何のためにそんなことをしているのかわからないんですよね」
俺は何も感じないが、ミリカがそう言うのならそうなのだろう。周りの人達も目が虚ろというか、虚空を眺めているという感じで視線が定まっていない印象を受ける。昼間の時は確認できなかったが、これは異世界といえども異常だろう。
「なら、演説が終わったら声をかけてみようぜ。巧みな話術で誘導して真相を突き止めてやる!」
「どうやって、声をかけるつもりですか?」
俺の発言を頼りに思ってくれたのか、ミリカが聞いてくる。
どうやって……か。
「……私たち、どこかで会ったことありませんか?」
「ナンパの常套句じゃないですか! そんなのありませんで一蹴されて終わりですよ」
「大丈夫だ。そこから俺の話術でどうにかしてみせる!」
「どこからそんな自信が出てくるんですか?!」
いつの間にか、演説が終わっていたようで声が聞こえなくなっていた。3人の方を見てみると、なぜか俺とミリカに注目している気がする。
あ、そういえばここ彼らの目の前じゃん。2mしか離れてない場所で騒いでれば、そりゃ気づくよな。
「なぜ、影響されていない?」
その声はさっき演説していた声に比べ、聞き取りやすい声だった。
「こうなったら、普通に問いかけてやります! あなたたち3人は魔導書を使って何をしていたのですか?!」
「私たちは敬うべき神の素晴らしさについて、大衆に説いていただけですよ?」
ミリカのドストレート過ぎる質問に対して、彼女は動揺すること無く答えた。
魔導書のことは否定していないし、態度が変わらない。つまり、故意にやっていたということか。
「白々しいですね。精霊を苦しめておいて、その言いぐさ。こちらは証拠を掴んでいるんですよ?」
いつの間に証拠を掴んだのだろうか。
「なっ、精霊のことを知っている?! これは想定外の事態になってしまったわ。この魔導書さえあれば、人の記憶を書き換えるのは容易。ならば、そこの2人を取り押さえなさい」
そんな悪の女幹部のような発言と同時に、黒と黄色のローブを纏ったおそらく男であろう2人が俺たち目掛けて走ってきた。男たちは女性よりも後ろにいたため、多少の距離はあるがすぐにでも組みつかれそうな勢いだ。
街中で戦闘になるとか想定外だ。
相手は大柄であり、ミリカは組み付かれたら振りほどくのに苦労しそうだ。
俺が2人まとめて無力化するしかない!




