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王都の魔道具店

 この広い王都内で、俺たちはまず魔道具店に来ていた。


 先ほどの精霊の苦しい声についてルリちゃんは大丈夫、と言っていたが原因はやっぱり気になる。ということで、アルマ達を探しつつ王都を楽しんでしまおうという一石二鳥な考えの元、魔道具店に来たわけだが。


「王都の魔道具店って、多いんだな」


 そこは魔道具店専門の通りとなっていたのか、そういったお店が軒を連ねていた。魔術師らしい格好をした男女が出入りしていたり、店員だろう客引きが居たりとその通りはとても賑わっていた。


 エルストの街はリフェルの魔道具店しかなかったから、比較できなかったがこんなにも並んでいるとそのお店ごとの特色が顕著だな。


「むー、こんなに多いとは思ってませんでした。アルマを見つけるのは無理そうですね」


 隣を歩いているミリカから、そんな言葉が出てくるのも納得するほど人が溢れている。さすが、王都といったところか。


「とりあえず、そこの店にでも入ってどんなものが売っているか見てみようぜ?」


 俺たちは近くにあった店に入ることにした。特に何かを求めて入ったわけではないのだが、一応魔道具を見てみたいと考えていた。それなのに……。


「いらっしゃいませ!」


 身長が2mはあろうかという強面の大男がレジに立っており、お店に入ってきた俺たちに低い声で怒鳴るように声を張り上げたのだ。


 ……え、魔道具店? 


 およそ魔道具店には似つかわしくないであろう男がそこにいたので、入ったお店を間違えたのかと思ってしまった。スキンヘッド、浅黒い肌、丸太のような太い腕、お花の刺繍が可愛らしいエプロン。……エプロンが無ければ殺し屋に見える。


「ソ、ソウイチ。お店の入り口で立ったままでは邪魔になってしまいますよ。は、早く、お店の中に入りましょう」


 あまりにインパクトのある男の従業員がいたせいで入り口に立ったままでいた俺は、その言葉に急いで店内に入った。


 ……すごい睨まれていた気がする。


 店内に入ってみると通りの盛況さはどこへやらといった感じで、がらんとしていた。


 お客は俺たちだけ。必然的にさっきの男からの視線が固定される。ガン見である。


 ……圧力が尋常じゃない。そんな見ていなくても商品を盗ったりしませんから!


 売られている商品を一緒に見ているミリカもその重圧を感じているのか、緊張した面持ちだ。


 これは、何かを買わずに出て行ったら、まずい気がする。だが、ここで無駄に出費してしまうとギルドに赴いてクエストを受けないと、金銭的につらくなってしまう。


 何かに燃えていたヴィオラさんの目からして、近日中に不穏なことがギルドで起こりそうな気がする。それだけは絶対に遠慮したい。


 そうだ、ミリカが何かを買えばいいんだ。別に俺が買う必要はない。俺は付き添いのように振る舞えば、問題ない。


 よし、これでいこう。ちょうど、俺の目の前に魔力回復のポーションが置かれている。


「ミリカ、ここに魔力回復のポーションが……」

「ソウイチ、ここに体力回復のポーションが……」


 言葉が重なってしまった。


「俺から言わせてもらって良いか?」


「ここは、女性の私から言わせてください」


「ミリカに必要そうなものが売られているんだよ。絶対必要になりそうな、この魔力回復のポーション。この値段はお手頃価格じゃないか?」


 ミリカの言葉は聞こえないフリをしつつ、商品を勧める。実際に魔力回復のポーションの値段など知らないがこう言っておけば、お店側への印象も良くなるだろう。


 値段を見て、ミリカは顔を引きつらせていた。


「ソウイチにも必要そうなポーションがありましたよ。この体力回復のポーションです。きっと、お値打ちな値段ですよ」


 値段を見ると買うことはできるが、本当に財布がすっからかんになることが即座に計算できた。1億ルド貰えるまで不便な思いはしたくない。


 俺とミリカが互いに商品を勧め合っていると、レジの方から声がかかった。


「……あの、値引きしましょうか?」


 おずおずと言った風に言ってくる姿は、最初の印象と違い優しい感じがした。


 お客が俺たち以外にいない店で言い合ってれば、何を気にしてるかくらいわかるよな。


 値引きされても、安くはないポーションをお互いに買うことになった。値引きされても買わないで出ますなんて言えなかった。レジで会計を済ませていると、ふと彼の目が茶色であること、眉毛が緑色であることに気づいた。


 どことなく、リフェルに似ているような気がしなくもない。風貌は全く違うが、なんとなくそんなことを思ってしまった。


「まいどありがとうございます! 今、当店でポーション類をお買い上げくださったお客様にこちらのポーションを無料で差し上げることになっています。よろしければ、どうぞ! ある街で爆発的な人気を誇っている商品になります!」


「このポーションの効果は?」


 無料で貰えるとはいっても効果が分からないと使えないため、ミリカが質問していた。


「はい! 何でも姉の話からは女性に大変人気だそうで、このポーションは体の調子を整えてくれる効果があります」


 ……姉? ……女性に大変人気?


「あの、つかぬことをお聞きしますが、その姉のお名前ってリフェルとか言いませんか?」


「ご存じでしたか! おっしゃる通り、姉の名前はリフェルと言います。エルストの街で魔道具店を営んでおります。私は弟のリフォルと申します!」


 弟とは思えないな。兄と言った方がしっくりくる。


 それにしてもこのポーションの色、豊胸ポーションにそっくりなんだが……。


 店内の様子から見るにこのポーションを大々的に売り出せば、もっとお客が入ると思う。まあ、思うだけで素人の俺が口を出すべきじゃないな。リフォルさんも豊胸ポーションとは聞いていないようだし。


 ミリカは豊胸ポーションをそんなに見たことが無かったためか、さほど興味を示している様子はない。


 アルミラにでもあげようかな。男の俺が服用しても仕方ないし。


「またのお越しをお待ちしております!」


 リフォルさんの嬉しそうな声を聞きながら、俺たちはお店を後にした。

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