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王都の図書館

「予想はしてたけど、王都の図書館はエルストの街とは比べられないくらい大きいな」


「ソウイチ、図書館の入り口でぼーっと立っていると迷惑ですよ。さっさと入りましょう」


 エルストとは比較にならないほどの大きさを誇る王都の図書館。その大きさに驚き、歩を止めていたらミリカに注意されてしまった。館内に出入りしている人たちの妨げになっていることに気づいた俺は慌ててミリカの後についていく。


 なんと、今日はミリカと図書館デートなのである。


 アルミラとアルマは王都にしか売っていないものを買い漁ると言って、朝一番に宿を出ていった。ミリカも2人と一緒に行くのかなと思ったが、本日の買い物には興味がないとのことでこうして俺と図書館に来ているわけである。


 本人曰く、せっかくの王都なのに男1人でいるなんて可哀想だからだそうだ。


 だが、俺は知っている。その言葉は照れ隠しの一種だと。


「私は魔法関連の本が読みたいので3階に行ってますね。お昼までそこで読書していようと思いますので、用事がある場合は来てください」


 入り口に立てかけてあった館内案内図を見ると、3階は魔法関連の書物が置かれている。


 魔法か。今日は魔物関連の本でも読もうと思ったんだけど、そちらも読んでみようかな。


「ソウイチは、昨日カンナさんがおすすめしていた魔物関連の本に興味があったんですよね。この案内図を見ると2階のようですね。お昼の鐘が鳴ったら、またここに集合ということで良いですよね」


「え? 別々で読むの?」


「当たり前じゃないですか。違う種類、ましてや階が違うのにどうして一緒に読むんですか? 移動の手間が面倒くさいじゃないですか」


 想像していたのと違う展開になってしまった。


「……いや、今日は魔法関連の本でも読もうかな」


「無理に私に合わせないで良いですよ。読みたい本を読んでください。ソウイチを置いて、帰ったりなんてしませんから」


 俺は子供じゃないんだが?


 ミリカの言葉は優しい感じなのだが、まるで手間のかかる子供をあやしている時の母親のような目はやめて欲しい。


「それでは、3階に行ってますね」


「……はい」


 そう言って、階段の方に歩いていったミリカを見送ることしかできなかった。


 残された俺は、男1人の状態と言えるのではないだろうか。この状況は俺が思っていたデートと違う。


 もっとこうカップルの男女みたいに隣同士で座って……座って……。本を読む? ……あまり1人で読書をしている時と何が違うのかわからない。


 図書館デートを楽しんでしている人って、すごいんだな。


 俺は一種の尊敬の気持ちを抱きながら、自分の読みたい本が置かれている階まで上がろうと階段の方に歩いていった。


 


 この図書館は2階までが吹き抜けになっており、3階と4階は違う階段を使わないとたどり着けなくなっていた。後で聞いた話だが、1階に転移の魔法陣が設置されているらしく、それに乗ると一気に3階にたどり着けるそうだ。


「それにしても、本の数が半端じゃないな。昨日聞いた本を探すのは大変そうだな。そこらへんに職員の人は……いた」


 ちょうど、3階の階段付近にある棚で作業をしていた職員らしき男性に近づき、声をかける。


「あの、すいません。ちょっと、お聞きしたいことがあるんですが」


「あ、はい。少々お待ちください。……お待たせしました。どのようなご用件でしょうか?」


 その職員は黒縁の眼鏡をかけたインテリ系の男性だが、ある一点が他の人と違った。耳が他の人よりも長い、いわゆるエルフである。


 異世界での初エルフがアルマで良かったと心の底から思った。ダークエルフだけど、耳が長いという点は共通しているから問題ない。普通のエルフに会う際も女性の方が良かったが、贅沢は言うまい。


「あのー、お客様?」


 俺がそんな彼に失礼なことを考えていると、無言でいるのを不審に思ったようで問いかけてきた。


「あ、すいません。少し考え事をしてました。えーっと、用件は探して欲しい本がありまして。魔物の歴史に関する本なんですが……」


「あ、それでしたら、あちらに……案内しますね」


 彼の後に続いて棚の間を進んでいく。


 やばい、カンナさんに言われた本のタイトルを思い出せない。しかも、案内されてもこんなにぎっしりと詰まった本棚から希望の本を探すのも面倒くさい。


「魔物の歴史に関する本はこちらにありますよ」


 案内してくれた彼に、うろ覚えのタイトル名を伝える。


「えーっと、昔の物語なんですけど。魔物が存在しないものってありますかね?」


「魔物が存在しない? ……あ、わかりました。こちらですね」


 元々、本の整理をしていたのか案内している最中も彼が持っていた本を渡された。


 その本は、童話と書かれていた。


「子供の頃に読み聞かされた本ですが、大人になった今でもよくできてるなと思います。お客さん、実は無類の本好きですね。僕にはわかりますよ。この曇りなき眼がそう断定している。この本を選ぶとはわかっていらっしゃる」


 眼鏡でも曇っているんじゃないだろうか、この職員は……。


 なぜか、テンション高く去っていった彼の後姿を見ながら、手にある童話を見る。


 カンペキなメガミのソウゾウしたセカイ……あの女神本人が執筆した童話じゃないだろうな。


 内容は、本当に簡単な子供向けに創作した物語だった。


 ただ、最後に書かれていたページを読んだ後、何かが気になった。


 悪しき心を持った神が生まれ、世界が崩壊に向かいそうなところを勇者と天使によって阻止され、ハッピーエンドというありきたりな内容ではあったが、何が気にかかったのかまでは分からなかった。


 俺は何か忘れているのではないだろうか。首を傾げていると、視界の端に人影が映った。


 その人影は、先ほどの黒縁眼鏡をしていたエルフであった。


「読み終わったみたいですね。どうでしたか? 面白かったでしょう。この物語には遠からぬ縁があるんですよ」


 いきなり、話しかけてきたこの男に俺は警戒した。この物語に縁があると目の前の男は言った。こういう物語は創作だと思うが、あの女神のことだ。ひょっとすると、実際にあった話ではないだろうか。今日の俺は一味違う。びしっと当ててやる。この男は悪しき心を持った……。


「リアという幼馴染がいるんですが、小さい頃に一緒に読んでいたんですよ。それでですね、この物語の解釈が……」


 リア充だった。非リアをいじめる悪しき心を持ったリア充だ! ……リアさんだけに。


 お昼までこの物語と彼女の事について語られた。


 リアさんは、この男と遠距離恋愛してることを思い出した。これだったのか、忘れていたことは!


 もう、本当お似合いのカップルだよ!

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