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ダッシュ

 先ほどのやり取りは、勿論俺をからかっているのだとすぐに理解した。


「悪かったわよ。金額が金額だけに舞い上がっちゃっただけなの」


「あれくらいは聞き流すくらいの器の大きさを示してくれても良いと思いますよ?」


「すいません。いつもの風景を見ていたら、つい……」


 手続きを終えた俺たちは、また1週間後に再度ギルドを訪ねることになった。それまではギルド直営の宿で暮らし、かかる費用もギルド持ちということを説明された。


「別に、そんなに気にしてないから……」


 言葉ではそんな風を装いつつも、からかい返してやろうと仏頂面を浮かべる演技をする。


 たまにはやり返しても良いだろう。何気に楽しいし。


 階段を下り、1階に着くとそこにはヴィオラさんとお付きのメイドがいた。


「あら? まあまあ、お久しぶりなお顔ですわね」


 俺たちに気づき、懐かしむように微笑を浮かべながら近づいてきたので、覚えたての貴族への礼をする。


 早速、習っておいたことが役に立った。実は、王都に来る前の馬車内でこっそりと聞いていたのである。


「ここで会ったのも何かの縁ですわね。ちょうど、私が作った料理がありますの。よろしければ」


「あ、お料理でしたら、先ほどいただきました!」


 勧められる前に断ってやる。人が話してる最中に遮るのは、失礼なのは百も承知だがあんな料理、同じ日に2度も味わってたまるか。


 俺が失礼にも言葉を遮ったことに対して何を言うでもなく、ヴィオラさんはより一層笑顔になると。


「あら、そうでしたの? お味はどうでしたか? あの催し物のときよりも辛さを控えめにして、食欲増進を目的に新たに作ったものですの。お気に召していただけましたか?」


 答えづらい感想を求めてきた。


 後ろにいる仲間に聞こうにも振り返るのは不自然だ。くそ、先に階段を下りなければ良かった。


 前方に見える冒険者連中は、正直に話せ的な視線をこちらに向けている気がする。


 対して、問いかけてきたヴィオラさんの目を見ると気のせいか何か作為的なものを感じる。


 ここで美味しかったですなんて答えようものなら、ではもっと作りましょうと言われかねない。王都には1週間滞在するのだ。言葉は慎重に選ばねば……。


「……はい、美味しかったです」


 考えてみたら、滞在はしてもギルドに来るのはお金を受け取りに来る日だけだ。今日の様子を見るに料理を振る舞っているのはギルド内だけだろう。宿の費用はギルド負担なのだから、別にクエストを受けに来なくても生きていける。そのあとは大金もらっておさらばだし、こちらに被害は出ない。


 美味しかったという言葉を聞いたヴィオラさんは輝かしい笑顔になると。


「まあ、良かったですわ。体が資本の冒険者様方には、食事というのは大切ですものね。1か月に1回の頻度でご提供してましたが、これからはもっと短い間隔でご提供したほうが良いですわね」


 そんな不吉なことを言い、後ろに見える連中を絶望させていた。


 このお貴族様に意見するのなら、同じ王都民であるあんたらがしてくれ。




 恨みがましい視線を向けられる中、冒険者ギルドを後にした俺たちはとりあえず宿に向かうことにした。カンナさんの研究所に行きたい気持ちもあったが、手続きに時間がかかったので明日にしようということになったためだ。


「それにしても広いよな、王都は」


「当たり前じゃないですか。王都なんですから」


 俺の言葉に対して、ミリカが答えにならないような返答をしてきた。


「せめて、人が多く暮らしてるからそれに伴って広いだとかの理由が知りたかったんだが」


「そ、そう言いたかったんです」


 もうすぐ日が暮れそうな時間帯ということもあり、昼間ほど人通りが多くない通りを歩きながらそんな雑談をしていた時。


「……え?」


 突然、ミリカが立ち止まりある方向を凝視していた。


「どうした? 何か、面白いものでも……」


 見つけたか? と問う前に何かを追うように宿に向かう方向とは逆の方向へ走り出した。


「お、おい、どこ行くんだよ」


 人が少ないとはいえ、それでもエルストの街よりは通行人が多い。追いかけようとしたのだが、あっけに取られていたのと運悪くちょうど角になっていたこともあり、見失ってしまった。


「いきなりミリカが走り出しましたが、どうしたんですか?」


「わからない」


「どこ行っちゃったのかしら?」


 心配するが当の本人がいないので、理由を聞くことができない。


 やばい、どうやって探そうか。


「大丈夫です。こんなこともあろうかと、あらかじめみんなの服にきちんと追跡用の魔道具を仕込んでおいたんです」


 お、さすが頼りになる。……うん? みんなの服にって言ったか? 


 アルマが取り出したのは、丸いコンパクトミラーのようなものだった。


「普段は鏡のように使えますが、魔力を流すことでこのように仕込んである魔道具との距離と方向が浮かび上がるようになってるんです」


 便利なのは良いんだが、いつの間に仕込んだんだ?


「ちょっと聞きたいことができちゃったけど、それはあとで聞くわ。とりあえず、追いましょう」


「……そうだな」


 アルマを先頭にミリカの追跡が始まった。向こうも移動しているはずだから、時間がかかるかもしれない、と考えたのだが案外あっけなく見つけることができた。ミリカが走るのを止め、立ち尽くしていたからだ。


「ミリカ、いきなり走り出してどうしたのよ?」


 アルミラがそんな質問を投げかけるが、


「……すいません。勘違いだったようです。どこかで見覚えのある顔が歩いていた気がしたので、つい追いかけてしまいました」


 ミリカは浮かない顔をしながらそう言うのだった。

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