魔力の宿ったハンマー
「……えーっと、奇抜な中庭ですね。……良いセンスだと思います」
「違います。私の趣味ではありません。これは、傍迷惑な魔術師が原因です」
……良かった。これが異世界のセンスだとしたら、美的感覚に差がありすぎると思った。
「では、どうぞ……」
ん? シンシアさん? その両手で持っている物は、ハンマー?
「……まさか、雑用のクエストって」
「はい。あの岩を砕いて、中庭からどかしてください」
……マジですか。何日かかるんだ、これ。
「その傍迷惑な魔術師に言って、どかしてもらうというのはできないんですか?」
あまりに大きな岩を前にやる気が削がれたため、そんな案を出してみるが……。
「無理です。あの岩の生成に全魔力を費やしたため、魔力欠乏症になり1週間は魔法が使えず、動けない状態です。ちなみに彼女は非力なので、動けたとしても無理です」
なんて、傍迷惑な……。
「1週間もこの有り様なのは色々困りますので、冒険者ギルドに依頼したんです。希望欄に体力のある方と明記したのもこれのためです」
え、そんなの初耳なんですけど!? 確かに、得意な項目に体力には自信あると言ってしまったけれども、正直これは体力云々で片付けられるのだろうか?
「そのハンマーで壊せばいいんですか? もう少し大きなものでも自分は振れると思いますが……」
「大きなハンマーはありますが、あの岩は魔術で作られたものなので残存魔力が残ってるんです。残存魔力が残ってる状態では、普通のハンマーでは砕けないと思います。これは小さいですが、魔力が宿っているので普通のよりは砕きやすいかと」
「……わかりました、ありがたく使わせていただきます」
俺はシンシアさんから片手でハンマーを受け取り、作業するべく大きな岩に近づいて行った。
「……え? 片手で持った?」
近づいてみると大きさが際立つ。
俺の身長よりも高いこんな大きな岩を50cm程度しかないハンマーで砕くのか。
時間がかかりそうだな……。ゆっくり、やっていくか。
気合を入れ、ハンマーを両手に持ち大きな岩に振り下ろした瞬間。
凄まじい轟音が鳴り響き、大きな岩が粉砕された。
「!?」
「!?」
魔力の宿ったハンマー、超スゲー!!
え、こんなに簡単に粉砕できるの?
これなら、体力に自信のある方っていう希望も納得だな。あとは、この砕けた岩を敷地外まで運べばいいだけだし。あ、これどこに運べばいいのか聞いてなかった。
シンシアさんの方に振り向いたが、口を半開きにして茫然とした姿で立ち尽くしていた。
「シンシアさーん、この砕けた岩どこに運べばいいですかー?」
距離が多少あったので声を大きめにして、叫んだ。
「え? あ、え?」
あれ? 様子がおかしいな。
俺はどうしたのかと、シンシアさんの方に近づいた。俺が目の前に来て、やっと気づいたようで。
「……ソウイチさん、今何をされたのですか?」
え? 後ろで見ていたんじゃ?
「? 普通にハンマーを岩に振り下ろしただけですよ? いや、それにしても魔力の宿ったハンマーってすごいんですね。こんな小さなもので、あんな大きな岩を粉砕できるなんて」
「……え、振り下ろしたんですか? 全く見えませんでした」
俺の背に隠れて見えなかったのか。それもそうか。いきなり轟音がしたら、誰でも驚くよな。
「振り下ろす前に声かければ良かったですね。あ、砕けた岩はどこに運べばいいですか?」
「それでしたら、こちらに……」
と、案内された場所は教会の後ろだった。そこは大きめの広場になっていた。
「ここに置いていただければ……」
「了解です!」
俺は、初クエストを無事に完遂できそうだという喜びに浮かれていたため、シンシアさんが言っていたことはまるで耳に入ってこなかった。
「……身体強化魔法を使った? でも、全く魔力を感知できなかった。それに、あのハンマーには一撃で粉砕するような性能なんてなかったはず。……?」