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グランデシャトー

「とりあえず、ギルドに入る? いつまでも、ギルド前にいる訳にもいかないし」


「そうしましょうか」


「……あ、そうですね」


 アルミラの一言により、俺たちは冒険者ギルドに入ることにした。


 まあ、手続きで時間を取られるだろうからその時に聞くとしよう。


 中に入ってみるとそこで起きている異様な光景を目にし、俺たちは驚くことになった。


「おい! 大丈夫か!」


「……俺はもう無理だ。後は、お前が頑張ってくれ」


「む、無理だ。こんなの……」


「だ、誰か―! み、水を!」


「ちくしょう! 今日がこの日だったなんてな。情報の大切さを身に染みて痛感したぜ……」


 入る場所間違えたかな?


 冒険者ギルド内は阿鼻叫喚といった光景だった。


 エルストの冒険者ギルドよりも広々とした内装に食堂とも一体になっており、夜は酔った冒険者たちで溢れ、今とは別の意味で盛り上がりそうだ。


 観察するように見回しているとこの原因であろう、忘れもしない人物名が書かれている看板がギルドの一角に立てかけてあるのが見えた。


『公爵令嬢ヴィオラ様の最新作! ~美少女の作る料理が堪能できる!~』


 顔を見合わせ、目で通じ合った俺たちは巻き込まれてはたまらないとギルドを後にしようと扉側に振り向こうとした瞬間。


「冒険者ギルドへようこそ! いやー、今日来るなんてツイてますね! どうツイているのかって? なんと、公爵令嬢ステラ様がお作りになった料理を味わうことができる日だったんですよ。冒険者の方々を労うためにわざわざ作ってくださった一品なんです。あ、料金とか心配してますか? なんと、タダなんですよ。無料で味わえることなんて、またとない機会ですから、ささ、席に着いてください」


 俺たちが入ってきたことを目ざとく見つけたギルド職員に引き留められてしまった。


 その様子は必死であり、一言も噛むことなく矢継ぎ早に伝えてくる姿に恐怖を覚えるほどだ。しかも、俺たちを逃すまいと9人もの人数で包囲するとか正気ではない。


 そこで俺は気付いた。気付いてしまった。


 なぜ、この冒険者ギルドの周りだけ人がいなく、まるで避けるように歩いていたのか。天下の王都で一番の大きさを誇るこの冒険者ギルドに出入りしていた人が短い間とはいえ皆無だったのか。そして、中の声が全く聞こえなかったのか。


 このためだったのか!


「ごめんなさい。ちょ、ちょっと急用を思い出してしまって」


「きょ、教会に行かなくてはいけない用事を思い出しました!」


「す、少し体調が悪いみたいですので、出直してきます……」


「そうだ! 研究室に呼ばれていたことを思い出した! というわけなので、すいません!」


 全員で拒否の意を示し、出て行こうとするが。


「そちらの女性は3人とも嘘をついてますね。そちらの男性は本当のことのようですが……」


 俺たちの目の前に現れた眼鏡をかけた長身の優男に嘘を見抜かれてしまった。


 誰だ、こいつはという俺たちの視線に気づいたようで、お辞儀をしながら自己紹介をしてきた。


「私はこの冒険者ギルドグランデシャトーのギルドマスターを務めておりますイヴァンと申すものです。以後、お見知りおきを」


 どうやら嘘を見抜ける魔法を使える人というのは、ここのギルドマスターのことらしい。


 というか、こんなことのためにそんな魔法を使うなよ。


 嘘を見抜かれた3人は女性のギルド職員に両腕を掴まれて、テーブル席に連行されていった。


 哀愁が漂う背中を見ていると、見捨てるわけにもいかなくなるな。


 あ、ギルドマスターがいるのなら、ちょうどいいし今渡してしまおう。


「あのギルドマスター、俺たちはエルストの街から来た冒険者なんですが」


「違う街から来た冒険者だとしても、逃がさないよ?」


 今、逃がさないって言いやがったな。さっきのギルド職員の説明は何だったんだ。


「えーっと、もうその件は良いです。用事というのはこちらの書類を渡すことをエルストのギルドマスターから頼まれまして」


「ラスクからかい? どれどれ?」


 渡した書類を見るなり、目つきが先ほどとは変わり、真剣に書類を確認し始めた。


 さきほども真剣と言えば真剣だったが、それとは別な感じだ。


「この書類は1人で確認するから、少しギルド内で待っていてくれ」


「はい、わかりました」


 ギルドマスター室で確認するのだろう。階段の方に向かっていくイヴァンさん。


「ギルドマスター、その書類は大切なものなのでしょう? 私が運びますよ」


「お前みたいなガサツな女に任せられっかよ。ギルドマスター、俺が丁重にお運びいたしますよ」


「それなら、俺はもしもギルドマスターが落とす可能性を考え、後ろからついて行きますよ」


 その後ろに何名ものギルド職員がついていこうとする。


 いや、仕事しろよ。


「必要ないよ。僕のことを気にしてくれるのは嬉しいけど、君たちは1階で自分の仕事をしていなさい」


 断固としたギルドマスターの言葉に引くしかないギルド職員たちは悔しそうだ。


 そんなにここにいるのが嫌か。……嫌、だな。


「もしかしたら、ちょっと時間がかかるかもしれないけど、料理を食べて寛いでいてくれ」


 そんな心にも思っていないことを言い残し、階段を上がっていった。


 絶対、寛げない。


 ギルドマスターと一緒にこの場を離れることができなかった職員たちは、悔しそうな顔から一変し笑顔になり。


「席はこちらになりますー」


 俺を案内するのだった。


 案内された席ではみんなの前に料理が置かれていたのだが、赤い。


 また、激辛系かー。


 変な連帯感を出さずに俺だけでも日を改めて来た方が良かったかな。

2017/9/1 公爵令嬢”ステラ”→”ヴィオラ”に修正しました。

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