王都、到着!
「王都到着でーす。馬車内にお忘れ物がないようにしてくださーい」
御者さんの声に馬車から降りると、エルストの街とは比べることができないくらいの人だかりで乗り合所が混雑していた。
エルストの街が田舎なのだと認識させられる光景だ。
道中では魔物に遭遇することが無く快適な旅で心休まる感じだったが、こうも人が多いとこの場所にいるだけで疲れてしまいそうだな。
ミリカとアルマもこの人の多さに驚いているようで、人の行き交う風景を眺めていた。
「確か君たちは冒険者ギルドに用があると言っていたな。王都には不慣れだろうから案内しよう」
カンナさんからのありがたい申し出に断る理由もなく、ぜひお願いしますと伝えた。
馬車の乗合所に観光に来た人用だろう街の全体図があったのだが、とてもではないが案内の人無しでは迷ってしまいそうなほどの広さだったので助かった。
ほんわかさんはわかりやすい場所と言っていたが、この広さで探すのは一苦労だろう。
「それでどこの冒険者ギルドに用事があるんだい?」
王都には冒険所ギルドが何棟もあるのか。えーっと、書類にはグランデシャトーという名前のギルドが書かれているな。
「ふむ、一番大きなギルドだね。よく行く場所だからばっちり案内できるよ」
頼もしい言葉とともにカンナさんの後について王都を歩こうとしたのだが、ちらっと仲間の様子を見てみるとアルミラ以外の2人が挙動不審だ。キョロキョロと辺りを見渡してお上りさんのようになっている。これでは迷子になってしまいそうだと判断した俺は。
「2人ともそんなキョロキョロしてたら、はぐれるぞ。俺と手をつないで歩いていこうか」
大義名分がある両手に花状態にするべく、そう提案した。
「わ、私は子供ではないです! はぐれることなんてありませんよ! それにそんなにキョロキョロしてません!」
「……お願いします」
この反応の差である。
「さすがにこの人通りが多い状態で両手が塞がったら、大変だと思うわよ。ミリカは私と手をつなぎましょう」
不服そうな顔をしているが渋々アルミラの手を握る姿は、姉妹みたいで微笑ましい。
両手に花ということにはならなかったが良いものが見れたので、よしとしよう。
「しまった。その手があったか。私も手をつなぎたかった」
「はいはい、これで良いですか?」
「ソウイチ君とつなぎたかったのだが……」
それでは、案内お願いします。
大通りはさすがというかそこかしこに人が溢れていた。しかも、ファンタジーものに出てくる人種が多く、目の保養になる。
ダークエルフもちらほらいるため、アルマが変に注目を集めることが無い。エルフの人たちは森の中で生活しているイメージだったが、こうも普通に街中に溶け込んでいるのを見るとそれは間違いだったようだ。
お、向こうにはうさぎの獣人かな。頭に生えている耳が可愛い。
そこかしこに目を引く店もあり、見たことが無いものが売られているのはとても興味をそそられる。が、今は迷子にならないように後をついていかなければ……あれ、カンナさんはどこ行ったんだ。
「なあ、アルマ……」
「あのー、ソウイチ……」
アルマにカンナさんのことを聞こうと声をかけようとしたら、向こうも聞きたいことがあるようで被ってしまった。
お互いに譲り合うというお決まりをした俺たちは、一呼吸置き。
「カンナさんを見失いました」
「カンナさんを見失った」
同時に今の状況を言うことにしたが、きちんと内容は同じものだった。
やばい、迷子になってしまった。
……と焦ることは無く、目的地が一緒なのだからそこらへんにいる人たちに聞きながら向かえばいいと思い至った俺は早速行動に移そうとした。そうしたら、突然右手を引かれてしまった。
アルマかなと思ったが、引かれている手が逆だ。
そちらに視線を向けると小さい女の子がいた。銀髪で青い瞳をしている少女は握っている手とは逆の手に飴を持ちながら、こちらを見上げている。
迷子か? だが、これは非常に不味い。この少女は小学生高学年程の歳だろう。事案が発生してしまう。訴えられたらこちらが悪になってしまいかねない。
「どうしたの? 迷子になっちゃったの?」
この状況をどうにかしようと怖がられないように目線を下げて聞いてみるが、無表情に飴を舐めながらこちらをじっと見ているだけだ。
「ソウイチ、そちらの子供は?」
「わからない、いきなり手を引かれて振り向いたらこの子がいた」
アルマも目線を下げて子供に質問をする。
「お名前はなんて言うんですか?」
質問されているにも関わらず、アルマの方を見ずに俺の顔をじっと見てくる。
このままでは牢屋に……いや、そもそもこちらの世界にそんな法律があるのか?
1人で焦り、1人で落ち着くということをしていると少女がやっと口を開いた。
「……見えない」
え、何が?
言葉を発してくれたのは嬉しいがいきなりそんなことを言われても意味が分からない。
アルマも言葉の意味を図りかねているようで困惑している様子だ。
その少女はアルマの方に顔を向けると、何かを理解したかのように頷くと同時に。
「……グランデシャトーという冒険者ギルドに案内する」
そんな言葉を呟いたのだった。




