お風呂
俺が突然起きたことに対して、みんな動揺しているようだ。
アルミラに至っては聞かれたくなかっただろうことを聞かれ、固まってしまっているし、ここはお兄ちゃんとして紳士な対応をしておこう。
「アルマ、膝枕ありがとうな。さすがに長い時間は疲れるだろう。後は背もたれに寄りかかって寝るとするよ」
さも、聞いてませんでしたということにして寝ることにしよう。
「寝る前に聞かせて、いつから聞いてたの?」
座り直し、眠ろうとする俺に待ったをかけるアルミラ。
俯いているので表情はわからないが、きっと恥ずかしがっているのだろう。なら、俺の返答は決まっている。
「俺は今起きたばかりだぞ? 何を言ってるのかわからないな」
「……そう。変なことを聞いて悪かったわね」
「気にしないでくれ。俺たちは大切な仲間同士だろ」
「……実は寝たふりをしていて、ずっと聞いていたなんてことはないですよね?」
「俺は寝不足だったんだ。そんな話を聞いている余裕なんてなかったよ」
「そ、そうですよね。静かに寝ていましたし、全然動いてませんでした……し……」
さて、寝るか。
俺は座り直し、今度こそ本当に眠ろうと目を閉じた。
「君たちは面白いな。これは本気で狙ってみるというのも一興かな」
目を閉じ、外界の情報を遮断した俺にカンナさんの呟きは聞こえてこなかった。
「なあ、魔物に1回も遭遇してないんだがこんなことってあるのか?」
「別に良いじゃない。何もないのが一番よ。これでお金をがっぽり稼げるんだから、王都に着いたら飲みまくるわよ!」
「……楽に越したことはない」
旅は順調に進んでいき、明日には王都に着く予定となった。現在は、王都の近くにあるこの街の宿で宿泊の手続きをするべく、受付前で並んでいる状態だ。
護衛を担当している冒険者の人たちがフラグを立てている気がするが、ここまで来たのならさすがに何も起きないだろう。
俺がそんなことを考えていると、手続きの順番が回ってきたようなので受付にいく。この宿での注意事項とおすすめを説明された。
「この宿には広いお風呂がありますよ。しかも、露天風呂もありますので長旅の疲れを癒してくださいね」
その言葉に俺は即座に質問する。
「「混浴ですか?」」
おっと、隣の人と声が被ってしまったな。
「いえ、男女別に設けてありますよ」
隣の人と声が被ってしまったのにも関わらず、きちんと俺の言葉を聞き取っていた受付の人に感心した。苦笑して答えてくれたのは、きっとよく質問される内容だったからだろう。偏見かもしれないが露天風呂=混浴と思ってしまうのは仕方が無いことだ。
「ふむ、隣の人と声が被ってしまったのに聞き取ることができるとは……この宿の従業員はよく訓練されているのだな」
どうやら、隣で受付をしていた人も感心しているようだ。
「何、漫才やってるんですか。先生、早く部屋に行きますよ」
「ソウイチも変なこと質問してないで、夕食に行きましょう」
カンナさんと目を合わせてため息をつく。
混浴は素晴らしい文化だと思うのだ。裸の付き合いというものを俺は大切な仲間としてみたかったというのに。
「そもそも、ソウイチはカンナさんのことを苦手に思ってませんでしたか?」
「ミリカ。対価を得るにはそれ相応の代償が必要になるんだ」
「おや? 今、私は大変失礼なことを言われた気がするな」
大切な仲間のためなら、この体がどうなろうと俺は構わない。その結果、お婿にいけなくなるようなことになっても。
そうまでして一緒にお風呂入りたいのかという視線が4つほど俺に突き刺さってる気がするが気にしない。
「注目を集めてますし、他の場所に移動しませんか?」
アルマの声に周りを見てみると、後列にいる順番待ちの人たちからさっさとしろといった視線を感じる。
――すいませんでした。
「ソウイチ君、さっきのことについて話があるのだが」
「よし、みんな夕食にでも行こうか」
「夕食に行くのは待って欲しい。そんなに私のことが苦手なのか? その理由を教えて欲しいのだ」
真剣な眼差しで話すカンナさんを見て、俺は決意する。
きちんと俺が思っていることを伝えよう。その結果、悲しい思いをさせてしまったとしても今の状態よりはいいはずだ。
「俺は攻められるよりも攻めたい派なんです。だから、カンナさんとそういう関係になることはできません」
「そ、そうだったのか!」
「先生はガッツキすぎだったんですね」
俺の言葉に愕然とするカンナさんに冷静に突っ込むリカさん。
「「「あー……」」」
そして、なぜか納得している大切な仲間たち。
あれ、そんな納得する要素今までにあったか?
「なるほど、わかった」
わかってくれたようで何よりです。
「これからは攻められるように努力しよう」
わかってくれてない。




