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研究者

「いやー、それにしても面白いものを持ってるんだね。秘密を読まれてしまった時は恥ずかしかったけれど、とても興味深い。これは、どこで売っていたのかな?」


「私の自信作なんです。王都まで1週間もあるので、暇になると思いまして作ってきたんです」


「ほう、自作なのかい? 後で詳細を聞いても?」


「はい、喜んで!」


 秘密を打ち明け合ったからか、同じ馬車に乗っていた他のお客2人と仲良くなることができた。


 この魔道具に興味を持ち、眼鏡の縁を摘まんでクイクイしながら詳細を聞こうとしてきた人はカンナさんという王都で働いている女性研究者だ。聞いてもいないのに、28歳独身で年齢=彼氏いない歴だと自己紹介の時に俺の方を見ながら言っていた。


 ふむ、前かがみになると服の上からでもわかるほどのご立派なものをお持ちだ。


 アルマの前で魔道具を熱心に眺めている姿は研究者だと納得する様相だ。研究している対象は魔物だそうだが……。


 馬車が突然揺れて、俺の方に倒れてくるというラッキーな展開にはならないものだろうか。

 

「高名な魔道具職人の方でしたか。私、魔道具を趣味で作ったりしているんです。魔道具に関しては多少の知識はあったんですが、こんな高度なものは王都でも見たことありませんよ。どのくらいの年月で習得したんですか? やっぱり、100年とか長い期間が必要なんですか?」


「私は魔道具職人ではなく、普通の冒険者です。あと、年齢は21歳ですのでそんなことは無いですよ?」


「あ、はい」


 アルマからただならぬ気配を感じ、質問を止めた子はリカという。なんと、あの図書館で司書見習いとして働いていたリアさんの妹だそうだ。


 カンナさんの助手をしているそうで、今回はある魔物の分析と姉に会うためにエルストの街に来ていたとのこと。


 くそ、惚気話をされたくないがために敬遠していた場所に出会いの場があったとは思ってなかった。


「そ、それはそうと私にも後で魔道具の作り方を教えて欲しいです。いつも作るときに爆発を起こしてしまうので、それをどうにかしたいんです!」


「私は21歳でリカさんよりも少し……ほんの少しだけ年上ですので、教えられることは少ないとは思いますがそれでも良いのでしたら」


 ドジなのも血なのだろうか。


 ふむ、俺の目の前でかがんでも重力に引かれるものはないな。

 

 対面に座ってこちらを見ていた2人とふと視線が合ってしまった。


 いつも思うんだが、なぜそんなに俺の考えてることがわかるんだ。




 順調に馬車は進んでいき、1日目は野宿となった。ここからは近くの街に寄りながら進んでいくとのことで、最初で最後の野宿となるそうだ。


 各街停車の王都行きといった感じだな。


 護衛のために同行していた冒険者たちも交代しながら、夕食を取ることになっているのだが。


「なあ、こんなに魔物に遭遇しないってあるのか?」


「偶然でしょ。楽で良いじゃない」


「……何か、あるな」


 盛大にフラグ的なものを立てていた。


 やめてくれ、夜は安眠したいんだ。


「ソウイチの体質は護衛依頼向けね。安全に旅ができるって素晴らしいわ。夜もこの分なら安心ね」


「そうですね。魔物の討伐をする際は邪魔な体質ですけど、こういう場面では頼もしいです」


 はっきり、邪魔って言いやがって。……まあ、その通りなんだけどな。


 夕食も食べ終わり、みんなと雑談していると俺の体質という単語に引かれたのか、カンナさんが興味を示した。


「体質? ソウイチ君は特別な体質があるのかい? ぜひ、調べさせて欲しい。王都に行くんだろう? どうかな、私の研究室に来てもらえないだろうか。何、変なことはしないさ。少し体を弄らせてくれればいい。天井の模様を眺めているだけで終わるから」


 あ、変なスイッチ押しちゃったか。目がギラギラしているのは、たき火に照らされているだけではないだろう。


 俺が無言で少し引いていると、何かに気づいたかのようにカンナさんは言葉を続ける。


「私としたことが……君の体を弄る代わりの対価が必要だったね。対価は、私の体を好きにしていいぞ」


 体を……好きに……。え、本気ですか?


「ちょ、ちょっと、私の仲間を変な研究に使わないで」


「そ、そうです。確かに体質はありますが、そこまで珍しいものでもないですよ」


「わ、私と魔道具のことについて向こうで話しませんか?」


「先生! 何、変なことを言ってるんですか!?」


 本気で迷っていると焦った様子の仲間とリカさんが、俺とカンナさんの間に壁となるように割り込んできた。


「変な研究とは失敬な。貴重な魔物除けの体質を調べるんだ。変ではないだろう。それに対価としては十分だと思うが? 体を調べるんだ。私の体も調べてくれて構わない。というか、そろそろ本気で男が欲しい。これも何かの縁だ、私と一緒に人体の神秘を……」


 言葉を続けながら、今にも飛び掛かってきそうなカンナさんにリカさんが素早い動きで後ろに回り、何かを振り下ろした。


「ご迷惑をおかけしました。先生は興奮してしまうと視野が狭くなってしまうんです。それに今まで研究一筋でしたので男の影も無く……遅い思春期みたいなものですので、どうか多めに見てください」


 そう言い、リカさんは鈍い音と共に気絶したカンナさんを引きずり、少し離れたところに寝かせていた。手に持っているのは棒のようなもの。


 思春期にしても、遅すぎるだろう。


 研究者のイメージは冷静で理知的な人だったのだが、こんなにも肉食系で行動的だとは思ってなかった。


 




 みんなが寝静まり、起きているのは見張りの冒険者だけとなっていた頃、俺は襲撃された。


「どうかな、早いけどこの場で……」


 ゴン!


「すいません」


 美女からのお誘いだから嬉しい。


「君の魔物を調べたい……」


 ガン!


「本当にすいません」


 嬉しいのだが、時間と場所を選んで欲しい。このやり取りが何度か行われ、その度に起こされた。その結果、朝起きた時には寝不足だった。


 ……フラグを立てていたのは俺だったのか。

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