ドキドキ
「退屈だな……」
エルストの街を出た馬車は、ゆっくりと王都を目指して進んでいる。最初のうちは、流れる風景を眺めたりして新鮮な感じで楽しめていたのだが、さすがに飽きてきてしまった。
「あ、でしたら、こういうのはいかがですか?」
俺は小さく呟いたつもりだったのだが、隣の席のアルマに聞かれてしまったようだ。何かを荷物から取り出そうとしている。ちなみに、残りの2人は俺たちの対面の席で就寝中だ。
朝が早かったし、窓から差し込む日差しでポカポカと良い陽気だから仕方無いかもしれない。馬車に揺られているのも要因の1つだろう。
もたれ掛かり合いながら、寝る風景はそれだけで絵になる。……ずっと、見続けても飽きないとは思うのだが、他の人の目に入るこの場ではそういうわけにいかないのが残念だ。
「見てください。娯楽用に考えついた魔道具です」
と、つい対面の席に座ってる2人に意識を取られている俺にアルマがずいっと何かを出した。
……本?
「見たところ普通の本のようだけど、魔道具なのか?」
「はい、自信作なんです。暇つぶしには良いと思いますよ?」
その自信作の本を開いてみるが、何も書かれていない。
「使い方はどうするんだ?」
「簡単ですよ? まずは、本を閉じた状態で持ってください」
「ふむふむ、それで?」
「そうしましたら、自分の秘密を1つ思い浮かべてください」
「ふむふむ、秘密を……え?」
「その秘密が本に書かれますので、他の人に本を開いてもらうんです。1発で書かれたページを開くことができれば、その秘密は読まれてしまいます。逆に、その秘密が書かれたページを開けなければ、その時点で白紙に戻ります。自分の秘密が知られてしまうかもしれないというドキドキ感とどんな秘密が書かれているのかというドキドキ感が合わさって面白いこと間違い無しです!」
なるほど、面白そうだな。1回やってみるか。それにしても秘密か……。
俺は異世界人です。
心の中で秘密を思い浮かべた瞬間、本が小さな光を放った。ちょっと、光った程度だが驚いて落としそうになってしまった。
「これ、書かれると同時に光るのか」
「あ、すいません。説明してませんでしたね」
「このままアルマに渡せば良いのか?」
「はい、ありがとうございます。では……ここです!」
アルマの開いたページには、何も書かれていなかった。
「ちなみにこの本、何ページあるんだ?」
「300ページほどです……」
……見つけ出せないんじゃないかな。
その後、何度か繰り返してやってみるも開くページは全部何も書かれていなかった。
「おかしいですね。どんどん、ドキドキ感が薄れてきました」
そりゃ、1回も当てられなければ薄れるよな。
「何をやってるんですか?」
俺たちが本を開いたり、渡したりしているのを不思議に思ったようで2人が寝起きの顔のまま聞いてきた。この本について説明すると寝ぼけ眼だった目が段々と見開かれ、興味を持ったのか。
「やってみたいです!」
と、言ってきたので本を渡した。
「……はい、思い浮かべました!」
本が光ったのを見るに何か書かれたようだ。
「アルミラ、どうぞ!」
「え、私なの?」
「ソウイチとアルマは何度かやってたみたいですからね。初心者なのは私とアルミラだけですから」
いや、これ初心者とか関係ないと思う。
「うーんと、このページで……ミリカ、これシンシアさんにばれたら怒られるわよ?」
「あー! み、見つけられてしまいました。ソウイチの話から当てられないだろうと思って、重大な秘密を思い浮かべてしまった浅はかな自分が恨めしいです。お墓まで持っていこうと思っていたのに……」
すげー! 1回目で当てやがった。そして、何が書いてあったのか超気になる。
「すごいです、アルミラ! 私とソウイチが何回やっても書かれたページを開けなかったのに、1回で当ててしまうなんて」
「え? そ、そう? 昔から勘だけは良かったのよね。それと、シンシアさんにはきちんと報告しておくからね」
女の勘、恐るべし。
アルミラに言われ、ミリカはぐったりとうなだれてしまった。
本当、何が書かれていたんだ。
「な、なら、今度は私が秘密を書きます。当ててみてください、どうぞ」
「じゃ、ここ……あ、えーと、誰にも言わないわ」
「あー!」
もはや、秘密を見られるかもしれないというドキドキ感を煽るゲームではなく、アルミラへの秘密の打ち明け会になってしまった。それほど、的中率は凄まじかったのだ。
ちなみに、俺は巨乳好きと秘密を書いたら案の定読まれ、蔑んだ瞳で見られた。
なお、同じ馬車に乗っていた他の2人のお客も俺たちの騒ぎに興味を引かれたのか参加することになったのだが、今日初めて会った人に秘密を打ち明けることになった。
……本当にすごい的中率だな。




