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いざ、王都へ!

 王都に行く当日の朝、俺は冒険者ギルドに向かって歩いていた。


 まだ朝日が昇り始めたくらいの時間で、静まりかえっている街はまるで別の街のように感じられる。


 別に王都に行くのが楽しみで早く起きすぎて、宿の中が落ち着かなかったからこんな時間に歩いているわけじゃない。そう、宿の人に配慮したのだ。朝は何かと忙しいし、そんな時に手続きで時間を取らせるのは、双方にとってマイナスだ。だから、この早朝を選んだのだ。……声をかけたのが朝食の準備中だったようで、すごい迷惑そうな顔をされたが。


 そんな誰にしているか分からない言い訳を心の中でしていると、いつの間にかギルドの前に着いてしまったようだ。


 さすがに、こんな時間じゃ誰もいないだろうと扉を開けながら思っていたのだが、すでに仲間が全員そろっていた。


「あ、ソウイチ!」


 こちらに気づいたようで名前を呼ばれた。手を振って、自分たちの場所を示してくれる。


 ギルド内を見渡しても、他には数人いる程度で閑散としている。そのため、手を振らなくても必然とわかるのだが、何というか美少女に手を振られると心が和むな。主にポニーテールがゆさゆさと揺れているのは、ポイントが高い。


「早いな。こんな時間に集合しても、まだ馬車は出ないんじゃないのか?」


「その言葉はそっくりそのままお返ししますよ……ふあ」


 俺の軽口に早朝でまだ眠いのか、欠伸をしながらミリカが返した。


「すいません。私が急かしてしまったばかりに……」


「いえ、王都に早く行きたい気持ちもわかりますし、別に良いですよ。馬車の中でも眠れますし」


 アルマの謝罪の言葉に優し気に答えるミリカ。そういえば、今は同じところに住んでるんだったな。


「でも、意外だったわ。アルマが王都に行くってだけで朝早くに目が覚めて、ミリカを起こしたって聞いたときは信じられなかったもの」

 

「みんなで一緒に王都に行けると考えてしまうだけで、気分が高揚してきてしまったので……」


「普段はミリカに起こされる側なのに珍しいと思ったけど、理由を聞くと子供みたいでかわいいわね」


 恥ずかしいのか、顔を俯かせてアルミラからのからかいを受けている姿は確かにかわいいと感じる。普段は冷静なイメージがあったからか、ギャップ萌えというやつなのかもしれない。


 それにしても意外な話を聞いてしまった。アルマは朝が弱いのか。


 そういえば、ギルドに来るときはいつも一緒だったな。教会からギルドに向かう道にアルマが泊まってた宿があったのは知ってたが、そういう理由だったのか。


「アルマは、結構夜更かししてますからね」


「ポーションや魔道具の研究をしているといつの間にか時間が経ってるんです。それに昔から朝は弱いんですよ。ミリカには悪いと思っているのですが、どうにも治らないんです」


 好きなことをしていると、時間の経過は早いよな。


「そういうアルミラはどうなんだ? こんな朝早くにギルドに来てたようだけど」


「え? ……私はあれよ。宿の人に配慮して早朝に手続きをしてきたからよ。忙しい時に手続きとかしたら、迷惑でしょ」


 ……考えていることはみんな一緒か。チームワークが良いな、このパーティーは。


「ソウイチはどうなのよ?」


「俺も似たようなものだ」


「……配慮は大事よね!」


「そうだな!」 


 アルミラも俺と同じ結論に至ったのか、誤魔化そうとしてきたので乗ることにした。


 2人で笑っていると。


「こんな朝早くだと、そっちの方が迷惑になる気がしますよ」


 的確な突っ込みをされてしまった。




 雑談をしているとほんわかさんが出社してきたようで、受付を交代していた。俺たちに気づくと、こちらに何か書状を持って来た。


「あ、みなさんお集りのようですね。こんな朝早くでなくても良かったんですけど」


 ギルドマスターに報告をした日、出発前にギルドへ来てくれと受付の人から言われていた。手続きやら色々することがあるとのことで、ほんわかさんが担当してくれるようだ。


「こちらギルドマスターからの紹介状になります。失くさないように気をつけてくださいね。あと、こちらは王都とこの街の往復にかかる馬車の費用をギルド側が負担する証明書になります。馬車に乗る際に提示してください」


 費用はギルドで負担してくれるのか。


 もう、これ観光みたいなものだな。


「ありがとうございます。この紹介状は王都のギルドに出せばいいんですよね?」


「そうですね。王都に到着したら、ギルドの受付に提出すれば大丈夫です。他の手続きですが……」


 そして、手続きが終わり王都への馬車が出ている乗合所に来た俺たち。


 そこには、


「よう、お前ら! 見送りに来てやったぞ!」


 お見送りに来ていたゴンドさんファミリーがいた。小さい女の子もいるが、娘さんだろう。シンシアさんに似ていたため、すぐにわかった。

 

 ……お父さんに似ないで良かったね。


 一応、昨日のうちに街を離れる旨は伝えておいたのだが、来てくれたようだ。


 女性陣は、女性同士で別れの挨拶をしていた。馬車での移動の際には、護衛をしている冒険者たちに迷惑をかけないようにだとか、寝るときにはお腹を冷やさないようにだとか主にミリカに対してだが。


「どうだ、ソウイチ。俺の娘はかわいいだろう? やらんがな!」


 そして、余った男同士での会話。朝からテンション高いな、このおっさん。


「そうですね。将来、すごく美人になりそうですね」


「……やらんぞ」


 年齢的に無理だ。


 そうこうしていると、時間になったようなので馬車に乗り込む。


「王都、楽しんで来いよ!」


「お気を付けて、いってらっしゃいね」


「お姉ちゃんたち、いってらっさいー」


 3人の声を聞き手を振りながら、馬車は王都に向かい出発した。


 いざ、王都へ!

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