夜に
宿に帰る途中、俺はアルミラを見つけた。時刻は夕方であり、そろそろ日が暮れそうな時間帯である。そんな時間に歩いているのを不思議に思った俺は声をかけようとしたのだが、どうやら酒瓶を持ってるみたいだ。
こんな時間に酒瓶を持って歩いているという事実から、俺は魔王の幹部を倒したことで女子会という名の祝勝会でもするのだろうかと考えた。
俺の酒癖が悪いのは3人とも知ってるが、パーティーメンバーを1人除け者にするのはあんまりだ。
そうだ。尾行して会が始まった時に登場して、あいつらの驚く顔でも拝んでやろう。
俺は悪戯心が芽生え、アルミラの後をつけることにした。
ばれたらばれたでこれから何をする予定だったんだ、と追及してやる。
完全に日も落ちた頃、アルミラは1人で公園のような場所の木製のベンチに座っていた。俺は後ろに生えていた木に隠れ、様子を窺っている状態だ。月が出ており、周囲を照らしているが後ろを向かない限り、俺の存在には気付かないだろう位置にいる……と思う。
あれ、1人だな。女子会じゃなかったのか。というよりも、こんな時間に女の子が1人で外にいて大丈夫なのか?
心配している俺を他所にグラスを取り出し、そこに注ぎ始めた。見る限り、なぜか4個ある。
アルミラ、ミリカ、アルマだとしても1人余る。まさか、知らないやつでも来るのか?
疑問が尽きないが、もう少し様子を見てみることにしよう。
全部のグラスにお酒を注ぎ終わったのか、1人グラスを持ち無言のまま時間が過ぎていく。
先に準備を済ませて待っているのか?
今、出て行って驚かせてやろうか。
と、俺が考えていると他に誰もいないはずの公園で誰かに話しかけるように声を発し始めた。
「今日ね。アスト=ウィーザを倒したよ。残念ながら私が直接殺したわけじゃないけど、みんなの仇は討てたんだ」
何か懐かしむように優しい声音で語り掛けるように話し始める。夜であり、周囲に人がいないことも相まって、その声はよく通った。
「ソウイチっていうよくわからない化け物みたいな筋力してる男の人と最上級魔法を操るミリカって子、そして魔王の幹部だったダークエルフのアルマと力を合わせて倒したんだ」
よくわからない化け物みたいな筋力してる男の人……。俺の認識はそんなか。
「驚いちゃうよね。みんなが目の前で殺されてから、誰ともパーティーを組まなかった私がパーティーを組んで敵を倒したんだから。最初はおせっかいな先輩冒険者にイラっとしていたけど、気が付いたらパーティーを組んで、色々とクエストをこなしていくうちに楽しいって感じてた自分がいた。それが1番驚いたんだけどね」
こちらからは表情は見えないが、苦笑している感じがする。
「少しクエストこなして武器選びだけして、さようならしようと考えてたんだけどそんなことができないくらい濃い時間だった。魔王の幹部には立て続けに会うし、せっかく選んだ武器……のような防具を買っても早々に破壊するし、シンシアさんに憑依してたけど女神様に会うこともできたんだよ。普通なら体験できないくらい驚くことがたくさんあった」
パーティー組む時に渋々だが了承していたように見えたけど、本心では抜けようとしてたのか。
「でも、もうアスト=ウィーザという倒すべき相手はいない。今回の戦いで思い知ったけど、私じゃ力不足。ソウイチやミリカの目標は魔王だけど、私じゃ足手まといになるのが精々だっていうのがわかった。大金はたいて買った指輪を装備していても大して役に立ってなかったし」
そんなことを思っていたのか。
「だから、王都に行った後にツケを返し終わったらみんなと別れて村に戻ろうかなって考えてる」
いや、そこはちょっと待ってくれと、木から飛び出して説得しようとすると。
アルミラが座っているベンチを挟んで、向こう側の茂みから人影が飛び出してきた。
「ちょっと、その言葉は待ってください!」
いきなりの言葉に俺とアルミラは呆然としてしまった。
月明りに照らされたその顔はミリカとアルマだった。
「すいません。盗み聞きするつもりはなかったのですが、酒瓶を持って歩いてる姿を目撃してしまい、気になって後をつけていたんです」
「私もアルマが後をつけているのを発見し、好奇心から合流しました。てっきり、ソウイチと飲むのかと思っていたんですけど、違ったんですね」
アルマは申し訳なさそうに、ミリカは開き直ったのか堂々とした態度だった。
「も、もしかして、さ、最初から聞いてたの?」
「はい、もちろん」
「はい、すいません」
即答するミリカとアルマに対し、アルミラは戸惑っているような声だ。
「そんなことよりも、さっきの言葉です。パーティーを抜けるなんて言葉が聞こえてきましたが、あれはどういう意味ですか?」
……完全に出遅れてしまった。これはいつ出ればいいんだ。
「……はあ、話を聞いていたのならわかるでしょ。倒したい相手を倒せたし、満足したから帰りたいなーって思ってたの」
「そんな感じではありませんでしたよね。私たちの足手まといになるから離れる、と言っていたように思いますよ」
「……そうね」
「誰も足手まといなんて思ってませんよ。どちらかというと私の方が足手まといでしょう。魔法を撃ちすぎれば気絶しておぶってもらわないといけなくなるんですから」
「撃ちすぎなければいい話じゃない。私はミリカのように全部の魔法を……ましてや、最上級魔法なんて扱えない。アルマのように魔道具を作ったり、ゴーレムを操るなんてできないの。私は一部の上級魔法を使えることを除いたら、戦力としては微妙なのよ」
ここだ! ここで登場して、あの言葉を言おう。
「それは……」
「アルミラ! それは違う!」
おっと、ミリカが何か言おうとしていた言葉を遮ってしまった。だが、ここは勢いに任せて言ってしまおう。
俺まで登場するとは思ってなかったのか驚いた顔をしている3人。あ、いや、そのうちの1人は不服そうな顔になったな。
「アルミラは潜在能力が凄まじいって話だぞ!」
言われた本人は口を開け、ポカーンとしている。
伝わらなかったのか。なら、もう一度。
「アルミラは潜在能力が」
「き、聞いてたから。ただ、驚いてただけよ」
さすがに大きな声で言えば、この距離なら聞こえてるか。




