吊り橋効果
「あ、そういえば、俺の昇級試験ってどうなったんですか?」
魔王の幹部騒動で試験を見事に無視してしまったわけだが、討伐したということで上げてもらえないだろうか。
「あ、私も気になります。魔王の幹部を討伐することもできましたし、もちろんCランクになるんですよね?」
……俺もそのことは少し思っていたけど、口には出さないでおこうな。仮にも英雄と呼ばれたいのなら、そんな打算めいたことは伏せてあくまで善意でということの方が良いと思うぞ。
「ああ、試験か。Cランクへの試験は後日改めて護衛試験だけを行う。筆記試験は免除だ。それで……お前のランクはいくつだっけ?」
「今はEランクです。Dランクへの試験を受けている最中でした」
「魔王の幹部を倒せるくらいの実力があるのなら上げても良いとは思うが、お前もまた後日受けろ。楽勝だろうがな。そうだな、王都から帰ってきたら受付に手続きしてくれればその時に日付を決めてやるよ。あ、他の冒険者にも知らせないといけねーのか。後で掲示板にでも張り出しとくか」
クエストを受けなおして再度試験とならないだけましか。
「納得できません! 魔王の幹部相手に死人を出さなかったんですから、護衛試験はクリアとしてランクを上げてしまっても構わないと思います! それが駄目なら、せめてソウイチのランクを上げてください!」
ギルドマスターの言葉を受け入れられないのか、強い言葉で反論するミリカ。
俺のランクを上げてくれだなんて言ってくれるとは思ってなかった。先ほどの説明には思うところがあったが、やっぱり仲間想いの良いやつだな。
「つってもな。ギルドの規則だしな」
「何事にも例外というものがあるでしょう。何ですか。ギルドの規則には、魔王の幹部が現れて試験を中断させられたら後日受けること、なんて書いてあるんですか?」
「うるせーな。俺がルールだ。ギルドの規則には、例外として何らかの事態が起きた際はギルドマスターが判断して良いことになってるんだよ。もう一度クエスト消化してからの試験にされないだけ、ありがたいと思え。わかったらさっさと退出しろ。こちとら、暇じゃねーんだよ」
ミリカの言葉に対してまるで相手にしてないギルドマスターは淡々と答えた。
何も反論できなくなったのか、ミリカは黙ってしまい悔しそうにしている。
良いんだ、ミリカ。俺はお前がそこまで言ってくれたことにもう満足したから。
さすがにそんなことを言われてしまっては、どうしようもないので俺たちは退出した。
書類に顔を向け、手でシッシと払う仕草をするのは上の者としてどうかと思うが。
「まったく、もう少し融通が利けば良いと思うんですけどね」
「仕方ないわよ。ギルドマスターの権限使われちゃ何も言えないし」
「ミリカなら次は受かりますから、問題ないでしょう」
さっきのことをまだ根にもってるのかぷんすかしていたが、2人に言われ渋々納得したようだ。
「ミリカ、ありがとうな。俺のことも言ってくれて。最初のあらましについては思うところがあったが、そんなことどうでも良くなっちまったくらいだ」
「ついでに叶えられれば良いと思っていただけだったので、お礼を言われるほどではないですよ」
照れてるのかな。これはもしやフラグを立ててしまったか。
参ったな。吊り橋効果だろうが、あの時助けたときに惚れられたのかな。
「なんかでれでれしてて気持ち悪いわよ、ソウイチ」
「多感な時期なんでしょう。放っておいて、王都に行くための準備をしましょう」
……ふむ、勘違いだったかな。
ミリカの一言で夢から覚めた俺は王都に行くための準備をみんなと話すことにした。
「ちなみに、ここから王都まではどれくらいあるんですか?」
「馬車でだいたい1週間くらいで着くわね。定期的に王都との巡回馬車があるから、明後日の朝に冒険者ギルドに集合して、乗っていけば良いと思うわ」
そんなにかかるのか。食料とか買い込んでおくか。
「あ、そういえば馬車に乗るためのお金はいくらか、知ってるか?」
「使ったことないから知らないわね。聞いておきましょうか」
ギルドの受付にいた人に聞いたところそんなに額がかからないことが判明したので、
「というわけで、各自準備して明後日の朝に会いましょう」
今日はこれで解散し、各々体を休めることになった。
病院に運ばれた冒険者のお見舞いにでも行くかな。
案の定、病室でまだいちゃいちゃしていた。他の独り身だろう冒険者たちに睨まれながら、できるのはいっそ清々しい。
俺はまた後日にしようと考えたのだが王都に行ってしまうことを思い出し、2人の甘い空間を邪魔するのは非常に心苦しいがお礼は言うことにした。非情に申し訳ないと思っているのだが、仕方ない。
会話を遮るのは勇気がいることだったが、普通にお礼を言うことができた。ほんの少しの間だったが、女冒険者からの凄まじい圧力を感じた。顔は笑顔で言葉ではご丁寧にどうもと言ってくれたのだが。
「何、邪魔してくれてるわけ?」
こういうニュアンスを感じたので、すぐに引き上げることにした。
ちなみに、男の方からは。
「冒険者同士なんだから、お互い様だ。俺もお前たちに助けられたみたいだしな」
と純粋な笑顔で返してくれた。
女って怖い生き物だよな。
俺は心の中で思いながら宿に帰ることにした。




