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胸やけ

「あまりスッキリしない終わり方だな」


 対処の仕方がわからなかったし、これで全部解決したから良いとは思う。……思うのだが、良いとこだけ持っていかれた感がある。


「女神様が処理してくれるのなら、安心じゃない。これ以上ないくらいスッキリしてると思うけど?」


 そう言ったアルミラの横顔は、スッキリしたという顔とは程遠い感じがする。


 やはり、一番因縁があった相手だ。こういう幕引きだと、何か思うことがあるのだろう。


 時間が解決してくれるだろうと考え、今は何も言わないでおこう。


「何はともあれ、無事に終わって良かったですね。アルマが目を覚まし次第、応援を呼びに行きましょう。ここに倒れている人たちを街まで運ばないといけないですし」


 あれ、魔王の幹部が現れたことを冒険者ギルドの中にいた連中は知ってるはずだよな。 


「そういえば、他の冒険者たちは駆けつけてこなかったよな。なんでなんだ? 昇級試験をやってる最中で襲われてる人がいるってわかってたと思うんだが……」


「……あのですね、ソウイチ。魔王の幹部なんて普通はこんなところに現れるものではないんです。ギルドなんて今はきっと大騒ぎになってると思いますよ。ウルジナスの時もそうだったでしょう?」


 あの時も色々騒いでたな。


「それに魔王の幹部に挑むにしても、きちんと戦力を整えてからでないと無駄死にすることになります。冒険者だって人間ですし、死にたい人間なんていないと思います」


 わかってはいるんだけど、仲間が危険に陥ってるならすぐに助けに行こうと思うはずだろ。


「ソウイチは何か勘違いしてるみたいですね」


「勘違い?」


 ミリカは俺の顔を見て納得できなかったのを察知したのか、さらに言葉を続ける。


「普通の冒険者は魔王の幹部なんて大物は相手にできませんよ。ソウイチみたいに倒すなんてできるはずも無く、逃げるのだって危ういんですから。アルマとの闘いを思い出してみてください。手加減してくれてたアルマとだって、ソウイチがいなければ私たちは負けていたでしょう」


 ……自慢ではないが、確かにそうだ。

 

 おまかせ機能とはいえ、強大な力を手に入れた俺は慢心していたのかもしれないな。いつの間にか、この力基準で考えてしまっていた。


 この力が無くても俺は助けに行けたのだろうか?……行くな。仲間を見捨てることなんてできないし。


「でも、それでミリカ達を見捨てて良い理由にはなってないと思うけどな」


「だから、ソウイチが助けに来てくれた時は本当にうれしかったですよ。私は魔法を使い切ってしまってましたし、正直怖かったんですから。駆けつけてくれた時は、本当に安心しました」


 お、おう。そんな真正面から言われると照れるな。


「魔王の幹部が現れたと聞いた瞬間に席を立って一目散に向かったものね。すごい速さで、全然追いつけなかったし」


「な、仲間として俺は見過ごせなかったんだよ」


「魔王の幹部と聞けば、普通の冒険者は怖気づきます。それでも向かって来てくれたことに私は感謝してますよ、ソウイチ」


 これはどうしたの? 普段は俺のことをぞんざいな扱いしているはずなのに、素直に感謝の言葉を言われると反応に困るんだけど。


 今回もどうせ、筋力お化けだからで終わると思っていたのに。


 持ち上げられると天まで昇って行っちゃうよ?


「案外、街の人たちも急いで向かってるのかもしれないわよ? 私たちはそのまま飛び出してきちゃったからこんなに早いだけで……と、噂をすれば」


 俺がそんな人生で初の女の子からちやほやされるという特別な体験をしていると、街の方からこちらに駆けつけてくる集団が見えた。


 どうやら、この街にいる冒険者は普通ではないらしい。




 あの後、合流した冒険者たちに事のあらましを説明しようとしたのだが、敵がいないことを確認するとそれだけで十分だと言わんばかりに倒れている人たちを運び始めた。


 まずは、怪我人の手当が先だよな。


 その中には当然ミリカのことを最後まで守ってくれた冒険者がいた。アスト=ウィーザを倒した後だし、再度お礼を言っておくかと考えたのだが。


「こんな傷だらけになって……馬鹿じゃないの?! 早く逃げ帰ってきなさいよ。とても心配したんだからね!!」


「へへ、名誉の負傷だよ。守る対象がいるのに俺だけ逃げる訳にもいかないだろう。それにこうして生きてるし、問題ない」


 と、駆けつけてきた女冒険者と良い雰囲気になっていたのでまた後日伺うことにした。


 さっき、考えていたことは見当はずれだったようだ。俺が単純に先走ってただけだったんだな。


 安心して2人の空間を作るのは良いんだが、甘い言葉をこんな場所で囁き合わないで欲しい。


 ……なんか、胸やけしてきた。

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