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不死身

「アルマ、ちょっと頼みが……」


 俺がアルマに先ほどのことを提案すると。


「……はい、わかりました」


 魔王の幹部をそんな風に倒すのかと、軽く引いてるようだ。


 仕方がないんだ、手だけの力では折れなかったんだから。


 因縁のある相手をこれで倒せたはずなのに、浮かない顔をして剣を眺めているアルミラ。


「俺が最後に止めを刺していいんだよな?」


 一応、確認のため聞いてみたが。


「ソウイチじゃないと折れないでしょ。私のことは気にしないでいいわ」


 気遣いは無用だと返答されてしまった。


 こういう中ボス的な存在は、仲間と協力して苦労の末に倒すことを予想していた。あの自称女神様から聞いた話だとすごい強い相手だと思っていたのだが、終わりは呆気ないものだ。


 アルマの魔法により、2つの岩が隙間を作るように生成された。


「それじゃ、さくっと折って終わりにしますか」


 俺は投げ捨てた剣を拾い、橋をかけるように置いた。


「……なんか、虚しいわね」


 復讐なんてろくでもないことを悟ったのか、アルミラがぽつりと呟く。


 そして、俺は助走をつけ、勢いよく剣に向かって脚を振り下ろした。所謂、かかと落とし。


 先ほどは手だけの力で折ろうとして無理だったが、今度は勢いがついていたこともあり真ん中から綺麗に折れた。


「よし、これで終わりだな」


 さすがに本体を折ってしまえば、終わりだろう。


 怪我した人たちの手当をしようとそちらに振り向いた瞬間、ミリカの後ろにいた血だらけの冒険者が剣を抜いたのが見えた。


 嫌な予感がした俺は咄嗟にミリカの元に駆けだした。


「え? どうし……」


 突然目の前に現れた俺を見て驚いたのか、ミリカが声を上げるのも構わず体を抱きしめ後ろに跳ぶ。


 その直後に、ミリカがいた場所に剣が振り下ろされた。


「ちょ、ちょっと、ソウイチ!! いきなりどうしたんですか?!」


 改めて血だらけになっている冒険者を見ると、どうにも様子がおかしい。


 いきなり抱きかかえられたミリカは突然のことに狼狽してるようだが、俺には気遣ってやる余裕が無いため無視した。


 危なかった、後少しでも気づくのが遅れていたら……。


 俺は最悪の事態を想像して、嫌な汗をかいていた。


「僕の本体を折って倒せた、と思って油断してるところをザクッと斬ってあげようと思ったんだけど、気づかれちゃったか」


 その声はさっきまで戦っていたアスト=ウィーザのものだった。


 ミリカも何が起きたのか理解したようだ。俺から離れると、その冒険者の方を観察するように見ている。


「あはは、僕を倒せたと思ったかい? 残念、その折った剣は確かに僕の本体だったけど、それを折るだけじゃ僕は倒せないよ。僕は、近くに剣さえあればそれを依り代にしていくらでも復活できる。これもあの方に頂いた能力だ」


 目の前にいる剣を持った冒険者の口は動いていない。だが、声は冒険者の方から聞こえる。どうせ剣が本体と言ってるくらいだから、剣が声を発しているのだろう。


 ……声帯がないのにどうやって声を出しているのかなんて些細な疑問は異世界だからということにしておいて、問題は今こいつが口にしたことだ。近くの剣を依り代に復活するという言葉。


 今この場にある剣は6本。少なくとも消滅させるには6回剣を折らなくてはいけないということだ。


 だけど。


「教えてくれてどうもありがとう。なら、今依り代にしてる剣以外を先に折ってから、最後にお前を折ればそれで終わりということだな」


 心に余裕を取り戻した俺は、皮肉を込めてお礼を言った。


 説明は死亡フラグなんだよ。種さえわかってしまえば、楽勝だ。


「わかってないね。近くというのを僕は明確にしたかい? この近くに街があるだろう。そこに置いてある剣を依り代にできないなんて考えるのは早計じゃないかい?」


 なんだ、そのチート。不死身に近いじゃないか。神なんかに能力貰ってるんじゃねーよ。


「ふふふ、驚愕しているのがわかるよ。これでは倒しようがないってね。その通り、僕は不死身なのさ。今はこの男を操作してるけど、すぐに体の方も再生できる。1回や2回折ったくらいで勝った気にならないで欲しいね」


 こいつを完全に消滅させるにはどうすればいいんだ。

 

 しかも、冒険者の男を操ってるから下手に攻撃できないぞ。というか、さっきは精神操作できない感じ出してたのに嘘だったのかよ。


「この男を殺せば僕の動きは短い時間だけど封じられる。でも、君たちにできるかな?」


 そう言うなり、こちらに駆け出し斬りかかってきたアスト=ウィーザ。……正確に言うと俺に。

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