巴投げ
「へー、こんなところで珍しい顔に会ったものだね、アルマーティ。そして、久しぶりだね、アルミラ」
「アストさん……」
「アスト=ウィーザ!!」
敵に名前を言われた2人の反応は全く違うものだ。直接顔を見ていなくても、どういった感情が含まれているのか容易に想像できる。
「それにしても、引きこもりで有名なダークエルフがこんなところにいるとは思ってもみなかったよ。しかも、そちら側についてるなんてね」
元同僚にまで引きこもり呼ばわりされてるとは……。
「もう、魔王さんにはついていけなくなったんです。日に日に増していく魔道具の作成依頼。しかも、危険なものばかり。私はそんな魔道具を作るために協力してたんじゃないんです」
まんま、社畜だった人の声だ。きっと、苦労してたんだな。
「なんとなく、君はそうなるかなとは思っていたよ。まあ、もう君のことはどうでもいいか」
自分から声をかけておいて、どうでもいいは無いと思う。
「僕がここに来た本当の理由は目の前にいるむかつく男よりも、君の方なんだ。アルミラ」
この野郎。
「奇遇ね。私もあなたに用があったのよ」
「本当かい? 嬉しいな。こういうのを両想いって言うんだっけ。いやー、照れちゃうな」
なまじイケメンだからか、とてもイラっとくる言い方だ。
「ウォーター・アロー!」
魔法名が聞こえると同時に空から水の矢が数本降り、アスト=ウィーザの体に突き刺さった。水は突き刺さった瞬間に矢の形状を失い、周囲を水浸しにした。
どうでもいいが、俺が至近距離にいるのに躊躇無く魔法をぶっ放すのはやめて欲しい。
絶対に当てない自信があるんだろうが、心臓に悪い。見た目的にもちょっと、直視できないくらいの惨状になってきてるし。
「やれやれ、熱くなった僕を冷ましてくれたのかい? 優しいな、アルミラは」
「……悔しいわね。これだけ風穴開けてるのに、本当にダメージを受けてないなんて」
「さっきも言ったはずだよ、僕の本体はこの剣だって。不本意ながら、今はこの男に受け止められてしまってるけどね」
俺だって不本意ながら、受け止めちまってるよ。
くそ、こんな頑丈だとは予想してなかったな。手で折れないのなら、脚で蹴り壊すか?
「うーん、さっきはこのまま押し切れるかなと思っていたけど、全然力が弱まる気配が無いな。いつまでも男に触られているというのも嫌だし。……離してくれるかな?」
そう言うなり蹴りを放ってきやがった。威力は大したことないが、刺さってる氷の槍を使って執拗に急所を狙ってくるのはやめてくれ。しかも、蹴りを放ってるのにも関わらず剣からの圧力が変わらないって、おかしいだろ。
「この野郎、足癖悪いんだよ」
俺は相手の脚を氷ごと砕くように蹴りを放つ。
「……子供の喧嘩を見てるようです」
仕方ないだろ、脚でしか攻撃できないんだから。
「ぐう、何て馬鹿力だ。氷ごと僕の脚を粉砕するなんて」
相手の脚を氷の槍ごと砕くことに成功したと思うが、こいつは普通に立っている。
本体じゃないからって、色々とおかしすぎる。
……そういえば、剣が本体なんだよな。
「よし、わかった。お前の言う通り剣を離してやる。このままだと勝負がつきそうにないしな」
「なら、さっさと離して欲しいね」
俺は……。
「あっ」
体をひねり空の彼方に勢いをつけて剣だけ投げ飛ばしてやろうと考えたのだが、周りがぬかるんでいたのもあり、踏み込んだ瞬間に足を滑らせた。相手からの力もあったためか、後ろにずっこける。
その拍子に。
「ぐほっ!!」
巴投げのように体を蹴り飛ばし、剣だけを奪い取ったようになってしまった。
飛んでいく体に向かって、いつの間に召喚していたのかアルマのゴーレムが拳を合わせるように地面に向かって叩きつける。叩きつけられた体は、クレーターの真ん中でぼろぼろになっており、ピクリとも動かない。
……剣と体を引き離すことには成功したのだが、なんか恥ずかしい。
「やったの?」
アルミラさん、それはフラグってやつですよ。
体は朽ち果て、灰になったみたいだが、本体の剣は俺が持ったままだ。
よくある話だと本体の剣に俺の精神が乗っ取られるとかかな。……今のところなんともないけど。
いつまでも持ってるのも気持ち悪いので、立ち上がった後にそこらへんに投げ捨てた。
どうやって壊そう。
アルマに2つの岩を作ってもらって、橋をかけるように剣を置き叩き割ってみるか?




