先輩冒険者
早速、クエストでも受けてみようと張り紙のあるボードのところまで行ったが……。
「……読めない」
見たことのない文字が並んでおり、全く読めない。
仕方ない。誰かに聞くか。
えーっと……。
「おいおい、おまえはさっき登録したばかりの新参だろ? そんなランクの高いクエストは受けられないぜ?」
先ほど冒険者ギルドの外まで吹き飛ばされていた男がフレンドリーに話しかけてきた。
いきなり背後から話しかけられたため、少々驚いた。
まさか、新参者には通過儀礼とかなんとかで絡んできたのか……と身構えたが、親切心からの言葉だと雰囲気から察することができた。
高い身長に筋肉に覆われた大きな腕、顔の見た目は怖いが……。
これはチャンスだ。
「あ、そうだったんですね。ご親切にありがとうございます」
「お、おう。礼儀正しいやつだな」
「ちなみに、自分にもできるクエストってどこにありますか?」
よし、自然な流れで聞くことができた。
「あー、それなら向こうにあるボードに張り出されてるぜ。こっちのは、俺たちみたいな上級者向けのクエストだからな。な、アルミラ」
「……話しかけないで。また、吹っ飛ばされたいの?」
うおっ、さっきの赤い髪の少女。まだいたのか。
「まあ、そうつれないこというなよ。俺とお前の仲じゃないか」
「そうね。あなたとは1回パーティーを組んだだけ、それだけの仲ね」
そういうと、赤い髪の少女……アルミラはボードから張り紙を取り、受付に歩いていってしまった。
「何かあったんですか?」
好奇心からついつい聞いてしまった。他人のことなので踏み込んで聞くのも失礼かと思ったが、気になってしまったのだから仕方ない。
それにこういうときは、大抵この目の前の男に非があるはず。親切な人かもしれないが、男と女だ。間違いがあってもおかしくない。例えば、セクハラとか。
「ん? いや、1回パーティーを組んで一緒に護衛クエストに行ったんだが、そこでちょっとな。クエストの守秘義務もあるから、あまり詳しくは言えないが……」
ふむふむ、護衛クエスト。そういうのもあるのか。
そこで嫌われるような何かをしたのか?
「あいつがって……そういえば、あいつの名前言ってなかったな。あいつはアルミラだ。んで、俺はゴンドってんだ。よろしくな」
「ソウイチです。よろしくお願いします」
「話の続きだが、簡単に言うとアルミラが護衛対象に腹を立ててな。殴りかかりそうになっていたのを止めたんだ」
何だ。特に嫌われる要素がないような。
「その時にあいつの胸を触っちまってな」
……なんだ、そのラッキースケベは。
「ただ、あいつ見た目通り全く胸が無えだろ?」
……あー、その後の展開が簡単に想像できた。
「その時は護衛対象に対してすぐに怒りが収まったみたいだから、少し不思議に思ってたんだ。その後の会話で失敗しちまったがな。はっはっは」
女としての尊厳を踏みにじられたということか。
「それにその護衛対象ってのが面倒な奴だったんで、その後も色々あった。そんで、あいつは今ソロで冒険者をやってる」
ソロで冒険者ってのは、きつそうだな。
「責任感が強いやつなんだ、あいつは。あれ以来、パーティーから誘われてもソロで活動してる。俺にも迷惑かけたと思ってるんだろうな。俺はそれをなんとかしてやりたい」
……ごめんよ、ゴンドさん。さっきは心の中でひどいこと思って。やっぱり、良い人なんだな。
「女は胸がすべてじゃない。確かに触っちまったのは悪いと思ってるが、俺は巨乳でないと女の胸とは認めない。お前の胸は男の胸と変わらない。だから、俺はお前の胸に関しては何も思ってないってのを知ってほしくてな。……言った瞬間に魔法で吹き飛ばされたが」
……前言撤回。やっぱりセクハラじゃないか。
「はっはっは、そんな顔するなよ。冗談だ冗談。本音は、俺はもう気にしてないってのを伝えたいんだ。あのタイプは正面から言っても、余計追い詰めるだけだしな」
すごいな、ゴンドさん。きちんと考えてるんだな。……セクハラだが。
「それで、お前に頼みたいことがある」
「何ですか?」
「あいつと一緒にパーティーを組んでやってくれ」
「え?」
今の話でなんで俺とパーティーを組ませる流れになったんだ。
「俺はもう歳だし、引退を考えてる。それに妻や娘にこれ以上心配かけさせる訳にはいかねえしな」
引退するのか、そんな歳には見えないな。……ん? 妻? 娘?
「え?! 結婚してたんですか?!」
「見ない顔だと思ったら、この街出身じゃなかったのか。一時期は俺も有名になったと思ったんだが……」
この人、有名人だったのか。……確かに自分で上級者って言ってたな。冒険者も上級者くらいになると有名になるのか。
「まあ、俺はこれで冒険者を引退するがアルミラのことが気がかりだったんだ。あいつは危なっかしいところがあるからな」
「それで何で俺とパーティーを組ませる流れになるんですか?」
「俺にはできなかったが、お前にならできると思ったんだ。初対面だが、受け答えもしっかりしてるし……何よりも俺の勘がそう告げている!!」
いや、勘て……。会って、数分話したくらいじゃないか。
「何となくだが、お前はただもんじゃない気がするんだ」
「……なんで、1回パーティーを組んだだけの相手にそこまでするんですか?」
「逆だ。1回パーティーを組んで行動すれば、わかるものもある。さすがに全部はわからないけどな。それに、俺ぐらいの歳になるとお世話を焼きたくなってくるものだ。特に、娘をもつ身としてはな」
やっぱり、上級者はすごいな。
「すぐにとは言わねえ。気が向いたら、話しかけてくれ。普段はギルドにいるからよ」
そう言った後、ゴンドさんは冒険者ギルドから出て行った。
……好奇心は猫をも殺すということわざを思い出した。
これ、おまかせ機能で変なスキルを取得してしまった影響じゃないだろうな。
2017/6/28 「パーティ」→「パーティー」に修正しました。