VS アスト=ウィーザ
「うちのパーティーメンバーを守ってくれたんですね。ありがとうございます」
同じ冒険者として、礼はしっかり言っておかないとな。
「おたくのところの魔術師さんには、こっちも助けてもらったから礼はいらねえ。お互い様だ。が、そういうのはあいつを倒してからにしろ。あいつは魔王の幹部で多額の賞金が懸けられてる強敵だ。礼はちと早いぜ、あんちゃん。はっきり言って死ぬかもしれないぜ?」
歴戦の兵を思わせる雰囲気を出しているこの人はそんな言葉を返してきた。
「大丈夫です。ここからは俺があいつの相手をします」
「相手って、お前1人でか? 無茶だ」
「大丈夫です」
なんせ、1回消滅させたことがあるんだからな。
俺たちがそんな話をしていると。
「お話は終わったかい? さすがにこれ以上待ってるのも退屈なんだよね」
アスト=ウィーザから催促の声がかけられた。
そんなに戦いたいのなら、一瞬で消滅させてやる。前回の時と同様に剣を折れば、どうせ終わりだろう。その余裕も剣と一緒に粉々に砕いてやる。アルミラには悪いけど、1人で片付けてしまおう。
「気をつけてください、ソウイチ。私の魔法が通用しませんでした。最上級魔法3発食らって無傷なんておかしいです」
ミリカは本日分の魔法を撃ち切ったのか。でも、その情報ではっきりした。体に食らっても無傷なら、やっぱり剣さえ折れば終わりっぽいな。
「すいませんが、ミリカと一緒に他の冒険者の手当をお願いします」
「おい、正気か?! 相手は魔王の幹部だぞ!!」
隣にいる血だらけの冒険者の制止の声を無視し、アスト=ウィーザに向かって歩いていく。
「前回の僕とは違うよ? 侮ってると今度は本当に死んじゃうと思うけど。なんせ、今の僕はあの方から加護をいただいてるからね」
「そういうのはいいから、かかってこいよ」
俺の挑発に乗ったのか。
「ふふ、そんなに死に急ぐならご所望の通り、殺してあげるよ。そこらへんに転がってる冒険者のように遊んだりしない」
言葉を言い終わると同時に斬りかかってきた。
が、前回の斬りかかる速さより多少速くなってる程度だ。十分視認できる。
上段からの斬り下ろしの軌道を読み、真剣白刃取りでまた刀身を折ってやろうとしたのだが。
「「「なっ!!」」」
折れなかった。全力で力を込めてもびくともしない。
「まさか、また止められるとはね。でも、前回のように折れないだろう? そこにいる魔術師の女からも弱点を知られていたようで、最上級魔法を3発も食らったけど無傷だからね」
俺の力でも折れないとなると相当の硬度だぞ。
ミリカも体じゃなくて剣に魔法を当ててたのか。主語が抜けてると伝わらないのを実感した。
あと、後ろで驚いてる冒険者さんは仕方ないとしても、ミリカまで驚かないでくれ。
「折れないことを疑問に思ってるみたいだね。当たり前だろ? 何の対策もせずに、君の前に現れるわけないじゃないか。君に折られて消滅した後にあるお方に巡り合えたのさ。その方のおかげでここまで頑強になったんだ」
あるお方ってのは、自称女神様が言ってた神のことか。そんなパワーアップしてこないでくれ。
「そして、僕は君に復讐をしてみようと思ってね。初めてだよ、この感情は」
そりゃ、そうだろう。自分で自分の仇を討つなんて、普通はできないぞ。
「俺に復讐するために、ここにいる人たちを襲ったのか?」
「その通りさ。ここで騒ぎを起こせば君が来ると思ってね。今回の目的は君だけだから、そこに転がってる人間たちは殺さないであげたんだ。感謝して欲しいね」
感謝されたいんだったら、襲わないで欲しいんだけどな。
この状況どうしよう。アスト=ウィーザは俺を斬り殺そうと力を込めてるみたいだが、こちらはただ刀身を両手で挟んでいるだけだ。傍から見たら、拮抗して俺がピンチなように映るんだろうが実は結構余裕があったりする。
パワーアップしたのは刀身の頑丈さとちょっとした速さと力くらいのようだ。
一番厄介なこの剣……本当どうしよう。
「どうしたんだい? この状況に戸惑っているみたいだね。表情から分かるよ。君は人間だ。当然疲労してくるだろ? でも、僕は人間じゃないから疲労しない。つまり、今は拮抗していても最終的には僕の剣が君を切り裂く。どうだい、焦ってきたんじゃないかい?」
それにしても、こいつはこんなに饒舌だったのか。前回は一瞬で勝負がついたから分からなかった。……そうでもないか、前口上は勢い良く色々喋ってたな。
「それに僕はこういうこともできるんだ」
そう言うと俺から視線を外し、後ろの方に向けた。
「そこにいる僕が斬りつけた男に命じる。そこにいる女を斬れ!」
「何っ?! まさか、精神操作系の何かか?!」
漫画とかでよくある自分の斬りつけた相手を操作するという能力!! テンプレ通りこいつも使えたのか!! これは、まずいぞ!!
俺も視線をついミリカと冒険者さんの方に向けてしまったが、特に何もないようだ。きょとんとした顔で見返されてしまった。
「引っかかったね。そんなのは嘘に決まってるだろう。ふぬぬ……」
こいつきたねえ!! 顔に似合わずやってることがきたねえ!!
いや、勝負の最中によそ見をする俺も俺なんだが……。
「ぐっ、びくともしない。なんて力だ。君は本当に人間かい? こうなったら……」
「アイスランス!」
突如として聞こえてきた魔法名と3本の氷の槍がアスト=ウィーザに直撃するが。
「僕の本体は剣だ。人間部分が損傷したところで大した痛みもない」
平然と受けていた。
3本の氷の槍は、頭、胸、脚を貫いたが、ダメージは受けていないようだ。……絵面的には大惨事だが。
「ソウイチ、あんた速すぎるわよ!!」
「みなさん大丈夫ですか?」
心強い味方の増援が来たのは良いんだけど、目の前の人外からも人間なのか疑われるとは思ってなかったぞ。




