アルミラの決意
「それで、お話というのは?」
「そんなに焦らないでよ。働いてた時もそうだったけど、もっとゆとりを持って欲しいものだわ」
そんなに焦ってクエストやってるように見えたのか。
「えーっと、何の話をしに来たんだっけ?」
いや、俺に聞かれても。
「あ、そうだった。近いうちにすごいやつが現れるから、倒しといてって伝えにきたんだった」
「すごいやつ、ですか?」
表現方法が曖昧すぎる。
「そう、名前は……何て言ったっけな。ほら、最初に倒したやつよ。えーっと……」
最初に倒したやつ? あの魔王のコスプレをしてたおっさんのことか?
「ア……アス、アスなんちゃらって名前の魔王の幹部よ。あなたがこの街に来て初めて倒したやつ」
アスト=ウィーザのことか? でも、剣折られて消滅したはずじゃ……。
いや、そもそもなんでシンシアさんがそのことを知ってるんだ? あのことについては誰にも言ってないぞ。
「確かに1度消滅したんだけど、あの神の影響で蘇っちゃったぽいのよね。この世界の理から外れてるから、このままだと世界が滅茶苦茶になっちゃうの。だから、お願いね」
え、蘇った?
しかも、あの神の影響って?
全然話についていけないぞ。
「あ、あと、魔王は……」
まだ、何かあるのか?
「……あら、ここはどこなんでしょう?」
……えー。
そんなボケはいらないのですが。
「あの、魔王は何なんですか? お話の続きが聞きたいのですが」
「あら、ソウイチさんにアルミラちゃんじゃない。ここはどこなの? お話って? 私何か話していたの?」
シンシアさんはフードの部分を取って顔を露わにした。その顔は困惑しているようで、自分がなぜこんなところにいるのかわからないといった様子だった。
「さっきまで教会にいたと思ったのですけど、一体どうなっているのでしょう?」
それはこちらも聞きたいです。
置いてあったテーブルや椅子などは教会の備品だったようで、教会まで運んだ。
その道中で先の話をしたのだが、シンシアさんはまったく記憶にないとのこと。
まさか、本当に女神だったのか?
「そうだったのですか。私がそんなお話を……」
「女神が憑依するなんて話あるんですか?」
「前例は無かったと思います。女神様が人間に憑依するなんて考えられないですから」
なら、考えられるのは……あ、最近の魔王の幹部にもこんなことができるやつがいたな。
まさか、そいつが? でも、前回の時とは雰囲気が全然違った気がする。なんか、馬鹿っぽかったし。
あとは、別のやつがシンシアさんを操った可能性もあるのか。
……考えてもわからないな。
「シンシアさん、体に何か不調とかないですよね?」
「特にはないですね。至って健康だと思います」
シンシアさんが問題ないなら、今のところは大丈夫と考えていいだろう。
ほっとした俺たちはさっきの話を整理するため、教会を後にしたのだが。
「……ねえ、ソウイチ」
アルミラから声をかけられた。その声は小さかったが、不思議とよく聞こえた。
「私の勘違いかもしれないんだけど、さっきの話で出てきた魔王の幹部って……アスト=ウィーザのこと? ソウイチはアスト=ウィーザを倒していたの?」
……そういえば、話すのを先送りにしてたんだった。
やばい、これはどう答えるのがいいんだ。
「ねえ、ソウイチ……」
「はい、Eランクの昇級試験の時に西の森で遭遇しました」
つい、敬語になってしまった。
だって、アルミラは俯いて話してるから怖いんだよ。
「その時に倒したの?」
「はい、剣を折ったら消滅しました」
「何で言ってくれなかったの?」
「いや、とても言えるような感じではなかったですし。なんか復讐だけに生きてるみたいな雰囲気醸してたので。それに言っても信じてもらえないかなと」
「……はあ」
大きくため息をついたアルミラは。
「あの時、あんなことを聞いてきたのはそういうことだったのね」
「あの、怒ってますか?」
「怒ってないわ……でも、ソウイチに倒されてたなんて聞かされたときは正直理解したくなかった」
何かを決意した顔をしていた。
「私がこの手で殺してやりたいと思っていたのにって一瞬思ったけど、蘇ったと聞いて嬉しくなった自分がいる。不謹慎なのはわかってるんだけどね。今度はこの手で……みんなの仇を討ちたいの」
「まさか、1人で倒すとか言わないよな?」
「そう言えれば良かったんだけどね。アルマとの訓練で思い知ったわ。今の私では、1対1ではまず勝てない」
知らない間に訓練とかしてたのか。……あれ、もしかして俺だけ仲間外れだったりする?
「この指輪を使っても勝てないくらいの差があると思う。だから、みんなに協力して欲しい。私のわがままだけど……」
申し訳なさそうに言うアルミラに向かって。
「アルミラ、そんなの今更だろ。ミリカがお前をパーティーに誘った理由を思い出してみろよ。最終目標は魔王だぞ。魔王の幹部なんて、そこらの雑魚と同じだ」
「魔王の幹部をそこらの雑魚って……。ソウイチが言うと妙に説得力があるわね」
「だろ? 今までがそうだったからな」
俺は自信満々にそう言ってのけた。
「それに俺も自称女神様に頼まれたんだ。世界平和のために戦うさ」
「なんか、ソウイチが言うと胡散臭く感じるわね」
ひどい。良い感じにまとめられたと思ったのに。




