病院
「知らない天井だ……」
なぜか、俺はベッドで寝ていた。
さっきまで、早食い対決をしていたはずなのだが?
「うん? 目覚めたかい?」
横を向くと白衣を着た初老の男性が座っていた。周りにはベッドが俺の寝ているのも含め6床。
「ここはどこなんですか?」
「意識を失っていたから、わからないのも当然かな。ここは、医療室だよ。君は早食い対決をしている途中で倒れたんだ」
ドラゴンフルーツを食べたところまでは覚えているが、あのフルーツに何か入っていたのか?
「原因はあのドラゴンフルーツですか?」
「いや、それが原因不明なんだよ。君の体を検査してみたんだが、何もおかしいところを見つけられなくてね。料理の方も特に異常はなかったみたいだし。医者として恥ずかしいことだけどね」
と言って、苦笑するお医者さん。
いつの間にか病院に運ばれていたみたいだ。
「体の調子はどうだい? 何か違和感があるかい?」
お医者さんの言葉に体を動かそうとするが鉛のように重く、うまく動かせなかった。
「体がうまく動かないです。あと、体の末端、手や足に痺れみたいなのもあります」
「ふむ、しばらくは安静にしていると良い。私は用事でこの場を離れるが、お仲間さんが見舞いにきているから何かあったらすぐに知らせてくれ」
「ありがとうございます」
医療室を出て行くおじいさんと入れ替えに仲間が入室してきた。
やっぱり、仲間がいるとこういう時嬉しいな。
「ソウイチ。体の調子は大丈夫?」
「体が重くて多少の痺れはあるけど、大丈夫かな」
「全くいきなりテーブルに突っ伏したので、驚きましたよ」
「心配かけたみたいだな」
「何か、欲しいものとかありますか? 飲み物とか買ってきますよ?」
「いや、今のところ大丈夫。ありがとう」
なんというか、安心感があるな。
心配してくれるのがこんなにありがたいことだとは思ってなかった。
みんなの顔見てるだけで、元気になった感じがする。
「それにしても途中までは普通に食べていたのに、惜しかったわね。300万ルド」
完食はできなかったんだよな。これで借金は330万ルドか。
「いきなり倒れたこともあって、30万ルドは払わなくてもいいそうですよ」
それなら、安心かな。
「何が原因だったんですか? お医者様に聞く暇が無かったもので……」
「そのお医者様でも原因は不明だってさ。本当にどうしたのかな」
倒れる直前は、元気だったのにな。
「今のところは、安静にして回復に専念ね。治ったら、またクエスト行ってお金を稼ぎましょう」
「そうだな。いけると思ったんだけどな、300万」
勿体ないことしたな。なんとか、完食さえできてれば良かったのに。
そういえば、優勝したのは誰なんだろう? 誰かしらは完食できたのか?
聞いてみると案の定というか、想像していた通りの答えが返ってきた。
「誰もいないわ、ドラゴンフルーツに挑むもみんな吹き飛ばされていたわ。ソウイチだけよ、あのドラゴンフルーツの首を折って、ぼりぼり頭からかぶりついていたのは」
「正直、他の料理よりもその食べ方の方が引きました。手で掴んで食べている様子は、野蛮人でしたね」
「あはは……」
普段なら、何かしらフォローしてくれるアルマは苦笑をしているだけだった。
いや、自分でも思っていたよ。でも、あんなのフォークやスプーンで食べれるレベルじゃ無かったんだよ。
時刻はもう夕方になっていたので、みんなは帰り俺は入院することになった。
そして、夜。事件が……。
「トイレに行きたい」
俺は夜中に目を覚ましてしまった。
体はあれから順調に回復し、完全とまではいかなくても動ける程度にはなっていた。なっていたのだが……。
起き上がって、部屋を見渡してみると明かり一つ無い暗闇が広がっていた。この世界にも月はあるのだが、偶然雲によって遮られているみたいだ。
ここは病院の2階に位置する場所らしく、トイレは1階にある。
……こえー。
普通の建物ならば暗闇でも平気なのだが、病院は別だ。
と、風が吹き俺の頬を撫でる。ひんやりした風が余計に怖さを引き立てる……あれ。
「窓なんて開いてたっけ……」
窓の方を見てみると開け放たれ、風にカーテンが揺れていた。
おかしい。俺は寝る前に窓は閉まっているのを確認したはずだ。なぜ、開いて……?
そして、そこに佇む影。ゆらりと髪の長い女性らしき人が……。
視認した瞬間、俺は絶叫を上げた。




