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デザート

 残るはサラダとデザートのみ……。


 正直言って、無理。無理なのだが、もうここまで来たのなら全部の料理を拝んでから棄権したい。これまで好奇心とか色々なことでひどい目に合ってるが、見たいものは見たい。


 他のまだ無事な参加者は、「次お前いけ」「いやいや、お前がいけ」と会話し合ってる。


 とりあえず、誰でもいいから他の1品だけでも注文してくれ。俺が最後の注文するから。

 

 このままでは誰も頼まないのではないかという空気が蔓延している中、ヴィオラさんが口を開いた。


「私としたことが大変失礼なことをしてしまいました。2品目に用意したお野菜は、この街近くの村で収穫されたものを使用しております。私もいただきましたが、新鮮でとても美味でした」


 いきなり謝罪の言葉と野菜の説明を始めたのをこの場にいる人たちが怪訝に思っていると。


「その地域のお野菜で作った料理をこの街の代表でもあるギルドマスター様にお出ししておりませんでした。申し訳ありません」


「……え?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔になるギルドマスター。


「すぐにお出ししますので、少々お待ちください」


 にっこりと良い笑顔のヴィオラさん。


 2人の顔の対比が笑えてくる。


 今まで自分には被害が来ないと思って油断していたのか、すぐに言葉を理解できなかったようで固まってしまっていた。その時間が致命的なミスとなったようで、料理がギルドマスターの前に運ばれた。


「ま、待ってくれ。お、俺、今日はあまり腹の調子が良くなくて……」


「あら、それでしたらちょうど良かったですわ。このお野菜は食べるとお通じが良くなるんですのよ。栄養もたっぷり詰まってますし、健康な体を維持するのに最適。今のギルドマスター様にぴったりですわ」


 自分の言葉が仇となったようで、完全に退路を塞がれたギルドマスターの顔はまるで今から処刑を迎える囚人のようだ。


「それではギルドマスター様、どうぞ召し上がってください」


 そして、露わになった野菜の盛り合わせは……普通だった。


 普通にお皿に盛りつけられた野菜は瑞々しく新鮮な感じだった。


 俺はここで疑問に思う。料理の紹介の際に言っていた特製の調味料が見当たらない。


 遠目だからよく見えないのか?


 ギルドマスターはフォークを使い、ゆっくりと野菜を口に運んだ。


 この場にいる全員の注目がギルドマスターに集まっており、咀嚼音がここまで聞こえてきそうだ。


 ……なんともない? 


 見ていると普通の食事の風景となんら変わりがない。フォークで野菜を突き刺して、口に運ぶ。咀嚼して飲み込んで、また野菜を口に運ぶ。


 問題なさそうに見えるが、今までの料理が料理だっただけに俺たちはその光景を固唾を飲んで見守る。


 すると、異変が起きた。


 突然、食べるのを止めお腹を押さえ、苦しい表情になったギルドマスター。


 何事だと思っていると、いきなり駆け出してどこかへ行ってしまった。


 料理はまだ半分ほど残っているにも関わらずだ。


「あらあら、ギルドマスター様は最近溜まっていらっしゃったのね」


「えーっと……、このお料理は特製の調味料を使ってらっしゃるとのことですが、見たところ普通の野菜の盛り合わせに見えるのですが?」


 ほんわかさんの疑問は最もだが、ギルドマスターの心配はしなくてもいいのか?


「あら、使ってますよ? お一口いかがですか?」


「ひっ、す、すいません。見えてなかっただけでしたね」


 悲鳴が聞こえてますよ、ほんわかさん。一体どんな調味料が使われていたのか気になるが、なんとなく末路が予想できるので、もう触れないでおこう。


「こ、こほん……。残るはデザートですが、これは……」


「説明はしませんよ? 見てからのお楽しみです。私の自信作ですからね」


 一番聞きたくない言葉を聞いてしまった。


 残るはデザートのみだが、誰も注文しようとはしない。


 当たり前か。5品中4品があんな料理だったんだし、勇気が出ないのも理解できる。


 だが、俺は好奇心に逆らえなかった。


「すいませーん。デザートいただけますか?」


 周囲がどよめく中、俺のテーブルにデザートが運ばれた。他の料理が入っていたお皿と比べると大きいお皿だ。


 なぜか、運んでくれた人はギルドの職員ではなく、ヴィオラさんの傍にいたメイドさんだった。


「一番にデザートを頼んだ人には私が運ぶ係になっていたんです」


 と、聞いてもいないのに答えてくれる桃色の長い髪をしたメイドさん。


 早食いのラストだから、一番に到達した人を周囲に認識させるための演出なのかもしれないな。


 そして、蓋を開けた直後、メイドさんは急ぐようにその場を離れた。


 え? と思っているのも束の間、突然何かが胸に直撃したような感触がした。


 お皿の上を見るとそこには小さなドラゴンがいた。


 正確には色とりどりのフルーツをパーツ毎に分けて作ったような小さいドラゴンの様相をした何かであるが、問題はそこではない。動いてるのだ。生物のように。


「なんだ、これ……」


「そちらは様々なフルーツを組み合わせて作ったドラゴンになります。昔からドラゴンの肉を食べたものは大きな力を得るとも言われておりますので、最後の品にふさわしいものを作らせていただきました。名づけるならドラゴンフルーツですね」


 俺の知ってるドラゴンフルーツと違う。


 その説明の最中にも関わらず、俺の胸に突進を繰り返すドラゴンだが特に痛みは感じない。

 

 俺の状況を見たからなのか、これならいけると思った参加者たちが一斉にドラゴンフルーツを注文しだした。


 運んだ料理を開けるとすぐに逃げていくようにその場を去るギルド職員たちはどうしたのだろうと思っていると、その疑問が解決した。

 

「ぐはっ!!」


 そのドラゴンの突進を受けた参加者が後ろに吹っ飛んでいった。


「言い忘れてましたが、そのドラゴンフルーツの突進は凄まじいですよ? なにせ、ドラゴンを元に作ってますから。強い力を得るためにはそれ相応の試練が必要と言いますでしょう? あ、安心してください。そのお皿からは出れないようになってますので」


 もう、この貴族やだ。

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