早食い対決
この1週間でアルマのランクはFからEに昇級した。街中のクエストもそうだが、魔王の幹部を務めていたほどの実力だ。当然、昇級試験も一発で合格。
採取クエスト、討伐クエストを難なくこなしていき、順調というほかない日々を送っていった。
俺たちは次の昇級試験を受けられるくらいにクエストをこなしたが、ギルドの行事が終わってからでないと、試験は受けられないと言われたので、ゆっくりしていることにした。
そのゆっくりしている間にあることを思いついた。俺は力が強いということがわかったので、これなら魔王も簡単に倒せるんじゃないかと。そのため、アルマに魔王城まで転移魔法で運んでくれと頼んだのだが。
「転移魔法は術者用なので、唱えても私しか転移できないんです」
とのこと。そんな簡単にはいかないか。
いや、待てよ。全速力で走っていけば、魔王の城まですぐに着くんじゃないか? 場所知らないけど。
……まあ、そんなに慌てても仕方ないよな。あと5年もあるんだ。その間に倒せば問題ないんだし、ゆっくりやっていこう。
と、俺は強者の余裕という名の慢心をしていた。
明日に控えた早食い対決も楽勝だろう。身体能力に物を言わせて即食べきってやる。300万ルドは俺のものだな。
俺は宿でニヤニヤが止まらなかった。
そして、ついに迎えた早食い対決の日。場所は、この街の噴水がある広場。参加選手たちが座るであろうテーブルと席が噴水の近くに置かれ、後は料理を待つだけとなっていた。
なんか、緊張してきた。
「頑張ってね。ソウイチ。最悪でも完食だけはしてね」
「無理をしてでも300万ルドは取ってきてください。ソウイチなら、余裕ですよ」
「……無理をしない程度に頑張ってくださいね」
アルマが天使に見える。……ダークエルフだけど。
けど、俺は。
「おう、余裕で完食して、300万ルド取ってくるぜ」
アルミラ達に優勝宣言をして、参加選手の受付に行き、テーブル席に座った。
「……ソウイチ。この大会負けないぜ」
隣にはブランが座っていた。
ふっ、ライバルで隣同士とはこれも運命か。……男同士で運命はやっぱりやだな。
「よろしくな。こちらも負けるつもりはないぜ」
互いに火花を散らす。
俺たち参加選手の前には観客席なのか、椅子が大量に並べられていた。冒険者の仲間や一般人までいる。
その中には、もちろんアルミラ達の姿があった。
時間が経ち、開始の時間となったのか、司会の人……ほんわかさんが出てきた。
「開始の時間となりましたので、毎月主催の恒例行事、今回は早食い対決を開催します。司会は私、ギルド職員の受付でお馴染みかと思いますが、ルルエが担当させていただきます。では、最初にギルドマスターからお言葉をいただきたいと思います」
初めて名前聞いた。ルルエって、結構かわいいな。
「てめーら!! 今回も公爵家の令嬢様が直々に作ってくださった料理だ。残すんじゃねーぞ!! 死んでも完食しやがれ!!」
ギルドマスターはいつも通り、言葉遣いは悪かったが、若干こちらを見る目は憐れんでいたように感じた。
今回も……? なんだ、この早食い対決は何度も行われてるのか?
「ありがとうございました。続いて、本日のシェフとなります。公爵家のご令嬢であらせられますヴィオラ=ステフォード=レストーリン様です」
長い名前だな。さすがは貴族。
「ご紹介にあずかりました、ヴィオラです。本日は公爵ではなく、1人のシェフとして来ていますので、料理を残したからと言って不敬にはなりませんのでご安心ください。腕によりをかけて作りましたので、みなさんどうぞ召し上がってください」
金髪に赤い瞳をしている女性、ヴィオラさんはそう言うなり笑顔で会釈した。貴族としてでなく、シェフとして来ているのもその服装から読み取れる。まさに料理屋のシェフみたいな格好だ。
すごい綺麗な人だな。礼儀正しいし、俺の想像していたテンプレ貴族とは大違いだな。
ん? 一瞬、ヴィオラさんの隣にいたメイドさんと目が合ったような? ……気のせいか。
「ありがとうございました。では、料理も冷めてしまいますので、お運びいたします」
ほんわかさんが言うなり、他のギルド職員らしき人達が料理を運んだ。
料理はクロシュのような、ボールをひっくり返したような蓋で隠されていた。
「制限時間は日没まで。5品の料理を先に食べ終わった人が優勝となります。なお、胃腸薬やポーションなどは魔道具店店主リフェル様がご用意しておりますので、具合が悪くなった方はお気軽におっしゃってください」
5品か、量は確かに少ない。日没までとか、余裕だな。
「では、はじめ!」
ほんわかさんの合図と同時に俺たち参加者は、一斉に料理を食べるべく蓋を勢いよく取った。
「「「ぎゃああああああああああああ!!」」」
そこには、赤色のシチューのようなものがあった。見てるだけで、目が痛い。
なんだ、これ!!
早くも脱落者なのか、獣人の参加者は白目を向いて椅子ごとひっくり返り気絶しているようだ。




