ライバル
「なんてね。そんな悲惨なことにはならないと思うから、大丈夫だよー」
冗談めかして、リフェルが言うが……。
「な、なあ、その王都から来る料理人って、有名なのか?」
その料理人のことが怖くなってきた俺は、詳細を確かめるべくリフェルに問いかけた。
「有名だよ。なんてったって、お貴族様なんだからー」
貴族の道楽ってことか?
「料理好きな女の子だよ、ソウイチ。やったね!」
何がやったなのか……。
確かに女の子という部分に興味を引かれないわけではないが、どんな料理を作るんだ。
「美少女だよー。……料理は下手だけど」
最後に呟いた言葉は小さかったけれど、きちんと聞こえたぞ。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だって。その料理は毒ってわけじゃないし、食べられるレベルだからね。そのお貴族様も真心込めて作ってるし」
そっか……。ん? 真心込めて作った料理を早食い対決にして良いのか?
「リフェルー、この容器はどこにしまえばいいのー?」
奥の方から、アルミラがリフェルを呼ぶ声が聞こえてきた。
「はーい。今行くよー」
リフェルがいなくなった店内で、アルマと目が合った。
「……頑張ってくださいね」
苦笑しながら、励ましてくれた。
でも、予想していたようなやばそうな料理を作る人じゃなさそうだな。
この街の料理がおいしいものばかりだから、みんな大げさに言ってるだけだろう。
これなら、身構える必要もなさそうだ。
俺だって、まずい料理を食いたいわけじゃないがそのくらい訳ない。地球にいたときはそんな料理も食べさせられていた気がする……誰にだったか思い出せない。なんか、記憶が曖昧だな。
「はい、お疲れ様ー。いやー、助かったよ。こんなに早く終わるとは思ってなかったからね。アルマちゃんの調合のお手並みは見事としかいいようがなかったよ。誰かに教わっていたの?」
「ありがとうございます。調合は、母から多少手ほどきを受けてました」
リフェルから腕はかなりのものだと褒められ喜んでいたみたいだが、家族のことを話した時のアルマの表情には少し悲しみが含まれている気がした。
何か、里にいたときにあったのかもしれない。
その表情を悟ったリフェルは空気を変えようとしたのか。
「ひゃっ!?」
アルマの胸をいきなり揉みだしたと同時に、驚愕の表情を浮かべた。
いや、驚愕したのはこっちだ!! 何、いきなり胸を揉みだしてるんだありがとうございます!!
「ちょ、ちょっと、リフェルさん!?」
アルマは距離を置き、手で自分の胸をかばうように後ずさった。その顔はいきなりこんなことをされるとは思ってなかったのか、若干赤くなっていた。
「……手がすり抜けた」
そりゃ、驚くよな。あるって思ったものが、無かったんだから。
「ちょっと、リフェル。いきなり仲間の胸を揉まないでちょうだい!!」
アルミラが仲間として、抗議の声を上げるが。
「女同士なんだから、いいじゃない。それにその大きな胸にも興味があったの。魔道具店店主として……いえ、豊胸ポーションを売るものとしてはぜひ参考にしたいなーって。圧巻だったからねー」
リフェルはどこ吹く風である。
豊胸ポーションを作るのと、大きい胸を揉むことに関係はあるのか?
「でも、その胸盛っていたのねー」
とても悪どい顔。早くも秘密がばれてしまったようで、アルマは狼狽していた。
「ばれてしまっては仕方がありませんね。そうです。実はアルマの胸にはある秘密がありまして、呪いの副作用で縮んでしまっているんです。そして、それを隠すために幻影の魔法を……」
「ちょ、ちょっと、ミリカ……」
ミリカが即席で考えたであろう呪い説をリフェルに伝えて誤魔化そうとするが、さらにアルマを狼狽させたようだ。
下手な誤魔化しは一層恥ずかしくなるよな。
まあ、アルマには悪いが、俺から言えることはとても眼福でしたってことかな!!
「「……」」
うおっ。2人からの冷たい視線が痛い。
「別にいいじゃん。減るものでもないしー」
あっけらかんとリフェルは笑っていた。
「リフェル、うちのパーティーには獣がいるんだから。あまり、変なことはしないでよ」
「さっきの獣の表情、気持ち悪かったです」
こうして、アルマの初クエストは無事に終わった。
クエストの達成を報告するため、冒険者ギルド内に入るとまだ重い空気のままだった。
みんな大げさすぎるんじゃないのか?
アルマが受付に報告に行っている間、他のクエストを見ながら時間を潰していると、声をかけられた。
「ソウイチ達じゃん。奇遇だねっ」
どうやら、サラ達はクエストを終わらせてギルドに戻ってきた様だ。
パーティーを見渡してみるが普通だった。
誰かが落ち込んでたりって感じはしないな。
ちょうど良いと思い、情報収集ついでに聞いてみると。
「サラ達のパーティーからは、誰が早食い対決に出るんだ?」
「俺が出る」
寡黙そうな剣士が出るとのこと。名前なんて言ったっけな……。
「一緒に頑張ろうぜ。えーっと……」
「……俺の名前はブランだ。覚えといてくれ」
「そうだったな。正々堂々とよろしくな、ブラン。俺は本気で勝ちを目指してるからな」
「こちらもだ、300万ルドは魅力的だからな」
俺とブランは火花を散らす。なんか、熱血漫画っぽい感じだ。
ブランの方が背丈が大きいから、見上げるようになっている構図は微妙だが。
「知らないって、時には幸せなことだよね」
サラの言葉は燃えている俺には聞こえなかった。




