コツコツと
多額の借金ができてしまったので、早速クエストをやろうと冒険者ギルドに向かう道中。
「これではっきりしたわね」
「何がはっきりしたんだ?」
アルミラは確信を持って断言した。
「ウルジナスが誰に倒されたのかってことよ」
「そうですね。もう筋力お化けしかいないですね」
……まあ、そうだよな。酔った俺が偶然西の森に赴き、偶然遭遇した魔王の幹部を撲殺したってことだよな。
薄々は感じていた。おまかせで転移したとはいえ、俺の力は実はすごいんじゃないかって。
だが、筋力お化けって言うのは、勘弁してほしい。
「ウルジナスさんもボーン・フォニー・ドラゴンも確かに強力ですが、ソウイチのようなでたらめな強さでは無かったですね。私でもなんとか戦えるとは思っていた程度でしたから」
魔王の幹部を酔っぱらった勢いで撲殺した俺が言うのもなんだが、アルマも相当強いよな。
「そのアルマが視認できない速度で動けるし、ゴーレムのような硬い相手も難なく蹴り飛ばせる頑強さ。ソウイチが倒したってことで確定でしょ。この街にアルマを除いて、魔王の幹部を倒せるようなやつはいないと思うし」
「そう考えるとウルジナスって魔術師も可哀想ですよね。きっと、出会いがしらに蹴り飛ばされたんですよ。魔法を使った痕跡がありませんでしたから」
「ウルジナスさんの思想は魔王さんよりで危険でしたが、魔法も使えずに消滅は……」
まるで俺の方が悪者みたいじゃないか。
「ひどい言われ様だな。被害無く倒せたんだからいいだろう」
「同じ魔術師として、同情してしまったんです。魔王の幹部だって、魔法を使えず倒されるなんて思わなかったでしょうし」
魔王の幹部もまさか同情されるなんて、思わなかっただろうな。
そして、冒険者ギルドも間近に迫ってきたところでアルミラから。
「さっきの弁償の話良かったの? 借金の額相当だし、本当に協力しなくて良いの?」
弁償の話を再度聞いてきた。が、俺の気持ちは変わらない。
「さっきも言ったけど、額はすごいが期限があるわけじゃない。なら、コツコツと稼いで返済するよ。人間真面目に稼ぐのが一番だ。少しずつでもな」
「あ、ウルジナスをソウイチが倒したということを報告すればいいんじゃないですか? 相当な額の懸賞金がかかっていたと思いますよ」
「………………いや、証拠が無いし。後から言うのもかっこ悪いだろ。コツコツと稼げばいいんだよ」
若干、心を動かされたが倒したことを覚えてないから、報告して万が一違ってたら恥ずかしいし。
そう、一気に稼げるようなことはしないで、みんなでゆっくりクエストをしながら返済していけば良い。
ギルドに着いたら、アルマのランクを上げるためにクエストを受けよう。仲間で協力すれば、すぐ上がるだろう。
冒険者ギルドに到着した俺たちは、空気が重いことに気づいた。
もう、ウルジナスが討伐されたことが冒険者に知れ渡ったのか。
……そりゃ、そうだよな。まさか、魔王の幹部が西の森にいたなんて思わないよな。しかも、討伐されていたなんて。
「なんか、ギルドが変ですね。もしかして、もう情報が出回ってしまったんでしょうか」
「……違う、これは……」
アルミラはこの空気の原因に気づいたらしく、顔を強張らせていた。
俺はクエストが張り出されているボードに一際大きい紙が貼られていることに気づいた。
なんだ、あのでかい紙……。
俺はその張り紙を読むべく、近づき愕然とした。
張り紙には。
『毎月主催の恒例行事、今回はパーティーの代表1名のみ絶対参加! 賞金300万ルドを手にするものは誰だ! 今、エルストの街で最強が決まる!』
でかでかとそう書かれていた。
300万ルド!!
借金を完済するチャンス!!
これはやるしかない!!
俺は借金を完済できることに浮かれ、そのまま受付に行き参加の手続きを済ませた。
……内容を読まず。
「ちょっと、ソウイチ。一瞬の間に何やってるのよ」
「いや、つい……」
「さっきの話は一体何だったんですか……」
「人間、目先の欲望には負けるよな」
アルミラとミリカからの非難がましい視線が俺に突き刺さった。
でも、パーティーから1名は絶対参加だし、別にいいんじゃないか?
「……これ、本当に参加するんですか?」
アルマはおずおずと聞いてきた。
「最強を決めるんだろ? なら、俺が参加した方がいいんじゃないか? 決闘かなんかだろ……」
目先の欲望に負け、参加してしまった恒例行事の張り紙を再度読んでみるとツッコミどころ満載だった。
『参加者には早食い対決で勝負していただきます。料理の量はそんなに多くありませんのでご安心ください。料理を残した場合、30万ルドいただきます。ご了承ください。なお、胃腸薬は魔道具店の店主リフェル様がご用意しております。ご安心ください』
強制参加なのに料理残したら、金取るのか?!
まあ、量は多くないみたいだし、大丈夫だよな? なぜか、リフェルが胃腸薬を用意してるって書いてあるけど、大丈夫なんだよな? ご安心くださいって2回書いてあったとしても、大丈夫なんだよな?!
……すごく、嫌な予感がしてきた。




