弁償
買ったばかりなのに使えなくなったグリーブと周囲の惨状を見渡しながら、えらいことになったと意外に冷静な頭で考えていると、店から武器屋の店主が慌てたように出てきた。
「な、何しやがった!! お前ら!! すごい音が……は?」
そして、この状況を見て3人と同様に口を開けて固まった。
これ弁償しないといけないよな。……でも、好きに使って良いとも言ってたし。何より、的やテスト用の人形はいずれ壊れる運命だったんだ。それが早くなっただけと考えれば、俺が弁償するのは窓と店を囲んでいる石壁くらいか。
なんて、楽観的に考えていたら3人とも復活したようだ。
「ソウイチの筋力は異常だと思ってたけど、改めて常軌を逸しているのがわかったわ」
「人間じゃない説が有力になってきましたね」
「わ、私の全力が……。あの時、生身でソウイチの相手をしていたら、あんなことになっていたんですね。……ちなみに、今は脚で蹴っただけなんですよね? 良く見えなかったんですけど」
「そうだな。割と本気で蹴ってみた。あと、俺は人間だ。……そのはずだ」
アルミラは引くよりも感心しており、ミリカは自分の仮説が有力だと勝手に納得し頷いていた。
やめてくれよ。俺は人間のはずだ。ただ、ちょっと転移した際におかしくなっただけで……。
アルマに至っては、俺の方を血の気の引いた顔で見つめていた。
戦った時はゴーレムが相手だったから良かったものの、アルマ本人に蹴りを入れていたら、あまり想像したくない結果になっていたんだろうな。……まあ、俺は紳士だから、女性に蹴りを入れるなんてことはしないが。
「というか、ソウイチがゴーレムに向かっていった際、地面がめくれ上がって私たちに降りかかってきたんだけど。アルマが防護結界張ってくれなきゃ、今頃私たち砂まみれだったんだけど……」
それは悪いことをしたな。
「さすが、アルマ。この時のことを考えて防護結界を張っていたのか。さすがだな」
「い、いえ……どちらかというと、破片が私たちに降り注いだ場合を想定してたんです」
やっぱり、あのときのことがトラウマになってたんだな、悪いことしたな。
「はっ。おい、これはどういうことだ!」
やっと、復活したのか武器屋の店主が俺に怒鳴ってきた。
どういうことも何も。
「グリーブの性能テストの結果です」
「お前は性能テストでうちの窓を割り、裏庭をめちゃくちゃにするのか!」
店主の顔はとてもお怒りのようで、俺に掴みかかるような勢いだ。
「……すいませんでした。こんなことになるとは思ってなかったです」
あまりの店主の勢いに謝った。
めちゃくちゃにしたのは、悪かったと思う。
「まったく、んでこの土の塊は何なんだ?」
店主が指さした先には俺に蹴られたゴーレムの残骸が残っていた。
「あ、それは私のゴーレムです。……原型を留めないくらい粉砕されてしまいましたが」
「あんた、ゴーレム使役できたのか。粉砕って、こいつがやったのか?」
俺を指さして、こいつ呼ばわりした店主。
そういえば、自己紹介してなかったな。
「……はい、私が全力で作ったゴーレムを一蹴された結果です」
「……初めて会った時も思ったが、やっぱり筋力お化けだな」
何も言い返せない。
「にしてもこれどうすっかな。的や甲冑を着た人形はいずれ壊れるから仕方ないとしても、窓の弁償はしてもらうか。あと、ところどころに刺さってる破片も集めないとな。石壁に刺さるってどんな速度で飛んできたんだ」
……本当に良かった。店主さんに破片が当たらなくて。
裏庭の片づけを終えた俺たちは、再度店内に入ったのだが。
「これはひどい」
窓を割り、飛んできた破片は武器にも当たったようで、整頓され見やすいように陳列されていた面影はもうなかった。
「本当に申し訳ありませんでした」
俺は改めて謝罪をした。土下座である。
「ああ、もう気にすんな。ちゃんと弁償してもらうから」
「はい」
これの弁償金額の総額を聞かなければいけないんだが、怖くて聞きたくない。
「さすがに、こんなになるなんて予想してなかった。そんなに高価な品は壊れなかったし、窓も1つしか割れてない。そんなに途方もない金額にはならないと思うからそんな顔するな」
俺の身体能力が本気でやばいことに今更気付いた。
これ、人をどつくだけでも細心の注意が必要だな。特に酔った時……禁酒だな。
「弁償金額は300万ルドだな。本当はもうちょっとするんだが、キリのいい数字ってことにしておく。煽ったあたしも悪いしな」
300万……すごい借金になってしまった。
「一括で返済しなくてもいいぞ、少しずつでもいいから払ってくれると嬉しい。何年かかってもいいからな」
「はい、もちろん払います」
「私も払います。ゴーレムを作ったのは私ですし……」
「私も……身体能力テストを気軽に考えてました」
「ソウイチの身体能力は異常だって思ってたのに止めなかったし、私も一緒に払うわ」
みんなの優しさが嬉しい。
「いや、これは俺がやっちまったことだからな。責任をもって俺が全額払う。幸い期限もないし」
みんなに甘えるわけにはいかないし、これをやった責任は取る。
「そういや、まだ自己紹介してなかったな。あたしの名前はグレースだ」
武器屋の店主、グレースに俺たちは自己紹介した。これから、長い付き合いになりそうだ。




