エルスト
望みか。いきなり言われても戸惑うな。
「聞きたいことは色々あるけど、まずステータスやスキルの確認がしたい」
ステータスの分配やスキルの取得を”おまかせ”で決めてしまい、自分の状態が分からないのは怖いものがあるからな。
だが、
『……要求を却下します』
はい?
『この世界にステータスの閲覧およびスキルを確認するといった行為は存在しません』
え? 異世界なら当然あると思ったのに、無いの? ……やばい、自分がどんな状態なのか全くわからない状態での異世界生活は危険だ。
本を見てみるが、ページが埋まった気配はない。どうやら、望みが叶った場合にページが埋まっていくようだ。
「……なら、俺がこの世界に転移することになった目的を知りたい」
これも気になっていた。なぜ、この世界に転移したのか? また、誰が転移させたのかを……。
『……要求を却下します』
駄目か……。
『回答できるのは、この世界に関する”理”内の事象だけとなります。』
ん? この世界に関する”理”内の事象? ということは、俺が転移したのはこの世界の”理”外の事象が絡んでいるのか? ……考えてもわからん。
「要は、目的不明の異世界転移ということか」
目的を知るだけでも、行動の指針が決められるのに。ま、わからないのは仕方ない。気持ちを切り替えて、次の望みを叶えてもらうかな。
『……』
と思ったのだが、本が段々と透けてきた。
「あれ? 3回で終わり? ページ分の望みを叶えてくれるわけじゃないのか!?」
『……』
本からは何も応答が無く、ついに手に持っていた感覚が消え、完全に見えなくなった。
ちくしょう。この本さえあれば、人生イージーモードだと思ったのに。もっと、慎重に望みを考えてからにすればよかった。
「……はぁ。人生そんな楽にはいかないか。森から脱出できただけでも良しとしよう」
落胆した気持ちを無理矢理切り替える。
「街に行ってみるか!」
もはや、本に未練は……ない。望みを叶えてくれるというのはとても魅力的だが、人間そんなことでは堕落してしまうし。そういうのは、自分で叶えてこそだな。うん。……うん。
それに、本よりも人と会話したい。こんなにも人との会話を恋しく思うとは思わなかったし、街に行けば色々なことがわかるだろう。そこで情報収集をしよう。
街は壁に囲まれており、門に衛兵がいた。
「お? 見ない顔だが、旅人か? こんな薄暗くなってるのに大丈夫だったか?」
衛兵は思ったよりも気さくな態度だった。間近で見ると、同じ年代に見える。
薄暗くなっており、服装も軽装なため警戒されるかと思ったが杞憂だったようだ。
「はい。訳あって旅をしてます。もう暗くなってきてるんで街に入れてもらえませんか?」
「なら、通行証または身分証明書を提示してくれ」
……やばい。持っていない。
「どうした? 持ってないのか? それとも落としたのか?」
探す振りをして、何かいい案が浮かばないか考えるが探す場所はジーパンのポケットの中くらいなので、すぐに無いということが伝わってしまった。
「ははは。どうやら、そのようです」
「なら、詰所に来て、証明書を発行してもらう」
そんな簡単に証明書を発行できるのか、この世界。
「どうせ、おまえも田舎の方から冒険者になろうと出てきたんだろう?」
「まあ、そんなところです」
なるほど、いつも通りの対応というわけか。とても、対応が慣れてらっしゃる。
「それにしても、黒髪に黒目は珍しいな。ここらでは見かけないが」
「……よく言われます」
そのあと、問題なく証明書が発行された。証明書といっても名前と年齢、犯罪経歴の有無が書かれていた簡易的なものだった。犯罪経歴の有無については、魔道具の水晶に手をかざすと判明した。
「ようこそ。この街”エルスト”へ。頑張れよ、ソウイチ!!」
俺の冒険はこれからだ!!
とかっこつけてみたのは良いが……もう夜になっており、宿の受付も終了しているだろうとのことで、今晩は詰所で休ませてもらうことにした。
あ、明日から頑張ればいいんだ!!
ちなみに、詰所で出された料理は思いのほか美味しかった。
2017/7/2 本文修正しました。