ギルドマスター
俺たちは、冒険者ギルドの2階にあるギルドマスターの部屋の前に来たのだが。
「こちらにギルドマスターはいらっしゃいますが、その、言葉遣いが悪いので気分を害するかと思いますがご了承ください」
ほんわかさんはドアの前で、とても申し訳なさそうにそんなことを言ってきた。
緊急クエストの時にも言葉は聞いていたが、職員からもそんな風に思われているのか。
大丈夫なのか? ここのギルドマスターは。
「一応、仕事もできますし、魔法の腕も良いんですよ。ただ、言葉遣いが悪いだけなんです。性格も……まあまあではあります。そして、もう30代になるにも関わらず、結婚したことがない寂しい男性ですので、多めに見てあげてください」
俺たちの微妙な雰囲気を察したのか、ほんわかさんからフォローが入った。
最後のは、フォローになっているのか疑問だが……。
フォローが入った後の方が、微妙な雰囲気になった気がする。
「こほん、では、皆さん。準備はよろしいですね?」
その言葉に頷く俺たちを見て、ほんわかさんがギルドマスターがいる部屋に入室した。その後に俺たちも続いて入室した。どんな言葉を言われるのかと、身構えていたのだが。
「……言葉遣いが悪いのは、いつもすまねえって思ってるんだ。つい、口から出ちまって……。悪かったな」
予想とは反し、とても落ち込んでいる様子だった。
ドアの前での会話を聞かれてたのか。
「あと、30代にもなって結婚できない寂しい男性で悪かったな」
結婚できないという単語に、一番落ち込んでいるように見えた。
とても繊細な人っぽいな。
「落ち込んでる30代の男性って、うざいですね」
「ミリカ、本当のことでも言わないでおいてあげるのが優しさよ。でも、きっとこれが原因で結婚できないんでしょうね」
「ちょっと、2人とも……」
ミリカとアルミラの言葉が止めになったのか、ギルドマスターは口を閉ざしてしまった。
容姿は結構良いと思うんだけどな。深い青色の髪を短く切り、同じような深い青色の瞳をしている。……言葉遣い直せばモテるんじゃなかろうか。
「あの、ギルドマスター。落ち込むのは後にして、今はボーン・フォニー・ドラゴンの話をお願いします」
ほんわかさん、容赦無いですね。
「……おう。そうだったな」
ギルドマスターが座ってる机の前には、会談用なのか向き合ってるソファが置いてあり、そこに座って話をすることになった。ほんわかさんはお茶を出した後、退出したため部屋内には俺たちのパーティーメンバーとギルドマスターだけが残った。
「先に自己紹介しておくが、俺は知っての通りここのギルドマスターだ。名前はラスクってんだ。よろしくな、新人冒険者共」
と、ギルドマスターが自己紹介をしてきた。俺たちも自己紹介を済ませたところで本題に入った。
「それで? 西の森にボーン・フォニー・ドラゴンの残骸があったって言ったか。それは、真実なのか?」
「はい、森の中に開けたところがあるんですが、そこに大量の骨が散乱してるのを確認しました」
第一発見者は俺なので、代表して答えた。
「大量の骨だけじゃ、ボーン・フォニー・ドラゴンがいたって証拠にはならないだろう」
「その近くにウルジナスという魔王の幹部の死体があったんです」
「何だと!! ウルジナスだと!! ……なるほどな」
ギルドマスターは驚いたように魔王の幹部の名前を叫んだあと、納得したような顔になった。
ウルジナスってやつは、ボーン・フォニー・ドラゴンを使役していることで有名なのか。
「ウルジナスだと特定できたのはなんでだ? 何か見つけたのか?」
「これです。ウルジナスが装備していたと思われる腕輪です」
いつの間にか持ってきていた腕輪をミリカがローブから取り出した。
「……確かに、ウルジナスの名前が彫られているな。現場の方も確認したい。案内してくれ」
案内係に選ばれたのは俺だった。4人揃って行くようなことでもないし、魔物を寄せ付けない俺が適任とのことだ。
最初に発見したのも俺だしな。
現場の確認は意外にもすぐに終わった。多少は驚いていたが、死骸ということもあり脅威は無いと判断できたためだ。色々と話を聞かれたが、あったことをそのまま話した。
酒癖が悪いという話をした時は、呆れられ。
「お前、よく無事だったな」
と、心配もされた。
ギルドマスター、結構いい人なんじゃないか。
「こちらが、今回の緊急クエストの報酬になります。どうぞ、お納めください」
冒険者ギルドに戻った俺はみんなと合流し、緊急クエストの報酬を貰っていた。今回の件は、事が事だけに各ギルドに連絡することになった。
「情報だけだったけれど、報酬がすごいわね」
「魔力回復のポーションが何個か買えそうです。無くなっていたので、これは嬉しいですね」
「私までいただいてしまっていいのでしょうか」
緊急クエストの報酬だが情報だけとはいえ重要なことだったため、金額が今までに貰った額以上だった。4人で分配しても、1人が貰える額は多く懐に余裕ができた。
これなら、そろそろ武器が買えそうだな。
「なあ、アルミラ。今回の緊急クエストで良い額が手に入ったし、明日武器探しに付き合ってくれよ」
「そうね。そろそろソウイチも武器を買って装備を整えましょうか」
「面白そうですね。私も行きます」
「あ、私もついて行って良いですか? 仲間との武器選び楽しそうです」
明日は4人で武器屋に行くことになった。
「ちょうど良いので、そこで実験をしましょう。ソウイチの身体能力テストです」
……すっかり忘れてた。




