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印象

 この街の案内を頼まれた俺だったが、住み始めてから数日しか経っていない街を案内するというのは厳しいものがあった。


 そのため……。


「ソウイチ。何かちらちらと見られてる気がします……」


「アルマが珍しいだけだと思うよ」


 喫茶店でお茶をしながら、時間を潰していた。


 せっかく先ほどの会話でお茶をしましょうと言ってくれたので、誘ってみたのだ。


「正直いって、落ち着かないのですが」


「そうか。なら、飲み終わったら早いけど教会に行くか」


 やはり、引きこもりだった人にこの環境はつらいか。クエストをこなして、街の人の知名度が上がればこんなに見られることも減ったかもしれないな。お茶を誘ったタイミングが悪かったか。また、今度誘おう。


「これ、本当にパーティーメンバーになったら一緒に飲んでるんですか?」


「そうだよ。アルマみたいな美人さんと飲めて幸せだよ」


 どんな果物をジュースにしたのかわからないが、程よい酸味と甘さでとても飲みやすい。

 

 美人な女性と2人きりでの喫茶店。めっちゃリア充。これぐらいの役得は良いよな。


 そして、幸せの時間というものはすぐに終わってしまうものだ。


「ごちそうさまでした。恥ずかしかったですけど、とても美味しかったです」


「アルマに喜んでもらえて良かった。じゃ、教会に行くか」


「はい!」


 あるテラスの道よりのテーブル席は、他のお客が飲んでるグラスよりも一回り程大きい空のグラスと2本のストローが残され、空席となった。


 とても眼福でした!




 教会に着くなり、アルミラから腹にドロップキックを食らった。


 なぜ!!


「ソウイチ! 見てたわよ、喫茶店での事。世間知らずのアルマを騙して、あのジュースを2人で飲んだ事!」


 俺の腹を蹴っておいて、涙目になっているアルミラに捲し立てられた。

 

 見られていたのか!!


「ち、違うんだ。これは俺からのお祝いで……」


「お祝いだったら、他のことしなさいよ! あんな馬鹿なことして! 獣! 変態!」


 ひどい言われ様だ。


「アルマ! その男から離れた方が良いわ! その男は獣なの!」


「え、えーっと……」


 アルミラに突然言われたアルマは困惑しているようだ。


 こうなったら、大義名分を掲げるしかないな。


「……アルミラ、ちょっとこっち来てくれ」


「何?」 


 俺はアルマに聞かれないように距離を取り、アルミラを呼んだ。


 怪訝な顔をされたが、とりあえずは来てくれるようだ。


「俺があんなことを考え無しにやると思っていたのか?」


「思ってるに決まってるでしょ」


 ぐっ……。そんな風に思われていたのか。


「……実際の目的は他にあるんだよ」


「聞きましょうか」


「アルマは魔王の幹部だっただろ。それに、このエルストの街には初めて来たと言っていた。なら、誰もアルマのことは知らない」


「そうね」


「だからこそ、最初の印象が大事だと思ったんだ」


「印象?」


「そう、印象。あんな目立つところで、アルミラも言っていた馬鹿なことをすれば、アルマのことをどう思う?」


「そんなのバカップルにしか思えないわね」


「そういうことだ。今後、何らかの拍子に魔王の幹部だってばれるかもしれない。その時のために、アルマがあんな一面を持っているとすれば、人の見る目は変わるかもしれないだろ。恥ずかしがりもする女性だってことを」


「あんた、そんなことを考えていたの?」


 愕然とした様子のアルミラ。


「これでわかってもらえたか? 俺が大勢の人の前であんな行動をしていた理由を」


「……悪かったわね。そんな狙いがあったなんて知らなかったわ」


 アルマはこちらを見て、きょとんとしていた。


「それにしても、あなたの腹筋どうなってるの? 蹴ったけど壁を蹴ったみたいにびくともしなかったけど……」


「……多少、鍛えてるから」




 何とか誤魔化せた。さすがにあんな行動したらそうなるよな。見つかるとは思わなかったが……。


 良かった、教会への道中で考えついて。


 これから、女子会をやるといって教会の中に2人で入っていった後、俺はほっとしていた。


「よう、ソウイチ!」


 ほっとしたのも束の間、背後から声をかけられぎょっとした。


「……なんだ、ゴンドさんでしたか。驚かさないでくださいよ」


「なんだとは失礼だな」


 久しぶりに会った気がする。


「シンシアさんをお迎えに来たんですか?」


「いや、今日は女子会をするって言ってたから、飯を食いに外食しようと思ってたんだ」


 シンシアさんも呼んだのか。だから、場所が教会だったわけか。


「それにしてもさっきの話聞いちまったぜ、ソウイチ」


 魔王の幹部って、早速ばれたのか!!


「うん? 魔王の幹部ってのは、もうミリカから聞いたぜ。だから、そんな驚いた顔するな。それよりもさっきの喫茶店の話だ」


 ミリカ、お前ってやっぱすごいな。信頼してるから話したんだろうけど。


 それにしてもゴンドさん、魔王の幹部よりも喫茶店の話ですか。


「うまくやったもんだな」


「大義名分のため、仕方なくやったことですから。何を仰ってるのかわからないです」


「とぼけるなって。この後、暇か? 話ついでに夕食一緒に食わねーか? 男子会やろうぜ」


 男子会……。おっさんとはやりたくないな。


 ちくしょう。俺も教会側に混ざりたい。

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