和解
「う、うーん……はっ!」
カッと目が見開かれ、意識を取り戻したアルマーティだが。
「あ、あれ、体が動かない……」
体の自由が効かなくなっていることに困惑した様子だ。
「やっと目が覚めたわね。さて、お話しましょうか」
目の前には体が動かない女性。その女性を挟むように俺とアルミラは立っていた。
……どっちが悪役なのかわからない構図だな。
アルミラの声を聞き、懇願するようにアルマーティは声を上げる。
「さ、さきほどはすいませんでした。もう何もしませんので、拘束を解いてはくれませんか?」
怯えたような彼女の様子を見ると、つい拘束を解いてしまいたくなるがここは我慢だ。
安全だという保障がない。何より、相手は魔王の幹部だ。ミリカが動けない以上、下手に判断を下すわけには……。
「本当にもう戦う意思はありません。ど、どうか、拘束だけは……」
「……ねえ、ソウイチ。魔法解いてもいい? 何か企んでいるという感じはしないし、可哀想になってきたわ」
もはや先ほどの魔王の幹部という威厳もなく、ただ怯える女性にしか見えなかった。
拘束を解いた後は冷静になったようで、こちらからの質問にはできる限り応えると言っていた。
「あなたの目的は何? なぜ、ここにいたの?」
「あるポーションの材料に必要な素材がこの地に群生してましたので、採取しようかと」
ポーションの材料……。想像がついてしまった。
「ポーションの材料? それはどういった効果があるポーションなんですか?」
「あの……その……」
ミリカの質問にはっきりと言えないのか、言いよどんでしまった。
アルミラの方をちらりと見てみるが、気づいてはいないようだった。
「まあ、いいです。なら、私たちを襲ったのはなぜですか? ソウイチの話からだと、好戦的な人とは思えないのですが」
「その……魔王の幹部だということを知られていたので、口封じをしようかと。あ、口封じといっても別に殺そうとは思ってませんでしたよ。……ただ、今まで他の人に見られたこともなく、手配書も出回ってなかったはずなのにどうしてと疑問に思ってしまいまして。記憶を覗いたうえで、消去してしまおうかと考えたんです」
つまり、俺の偏見による言葉が原因だったと。あんな言葉を口走らなければ、戦闘にはならず穏便に済んでいた可能性が高いということですね。……すいませんでした。
「そういえば、私も気になっていたのよね。どこで、この人のことを知ったの?」
「無知なソウイチがなぜ、この人のことを知っていたのかは非常に興味深いですね」
なんだろう。経験したことが無いはずなのに、浮気がばれて追い詰められていくようなこの感じは。……この場合は、素直に白状したほうがいいんだろうな。
「……そのですね。ただの勘と言いますか。本当にあてずっぽうに言っただけなんです」
沈黙が場を支配した。
「……なんか、すいませんでした。私が1人で勘違いして、みなさんに襲い掛かってしまって。先ほどはとぼけているのかと思ってましたが、違ったようですね」
アルマーティが申し訳なさそうに謝ってくる。
本当に魔王の幹部なのだろうか。
「過ぎてしまったことは仕方ないですよね。ここはお互い水に流しましょう」
俺はここぞとばかりに先ほどの件をなかったことにしようとした。
お前が言うなというアルミラとミリカの視線が痛い……。
「あ、質問良いですか? 何でアルマーティさんは魔王の幹部なんてやってるんですか?」
「他に行くところが無く、成り行きで……」
成り行きで魔王の幹部になれるのはすごいな。
「私は正直に言って戦闘がそれほど得意というわけではないんです。魔道具とかポーションを作ってる方が好きなくらいです。幹部になれたのもその作成技術のおかげだと思います」
え? さっきので戦闘が得意じゃない? 嘘だろ。
「さすが、腐っても魔王の幹部というだけはあるわね。あれで、戦闘が得意じゃないなんて」
「驚きです」
俺たち3人はその言葉に驚いていた。
「驚いたのはこちらもですよ。最上級魔法を詠唱破棄で使えることや中級魔法を完璧に制御してみせたこと、何よりも驚いたのはゴーレムをただの蹴りで粉砕したことなんですから。みなさん凄かったですよ」
「私を誰だと思ってるんですか? 天才魔術師のミリカですよ。ゆくゆくは魔王を倒し、歴史に名を刻む者です。詠唱破棄なんて当然です」
「今回私はあまり、活躍できなかったけどそう言われると悪い気はしないわね」
と、敵に称賛されて喜んでいる2人。
おまえら、いくら称賛されても敵なんだぞ。もう少し、警戒しておけよ。
「アルマーティさん、俺の蹴りそんなにすごかったですか?」
「ええ、とても驚きましたよ。どんな筋力してるのか疑問に思うほどに」
「見ますか? 俺の筋肉」
「え? えーっと……」
「「気持ち悪っ」」
2人からの視線が痛い……。




