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魔法の本

 しばらく歩いてみるものの森の出口には、一向にたどり着く気配がない。太陽の位置が前回見上げた時よりも変わっているため、時間は結構経っていると思う。前回で学習したので、木に目印として跡を残しているので同じところをぐるぐるということもないはずだ。


「にしても、全然疲れる気配がない。さっきのおっさんの吹っ飛び方といい、ひょっとするとステータスが強化されているのか?」


 そう、全然疲れない。これだけ、飲まず食わずで歩いていても全く……。ステータスの確認ができないのがもどかしい。まあ、強化は間違いなくされていると思う。そうなると、さっきのおっさんは生きているのか心配になってくる。


「過ぎてしまったことは仕方ない。今は前を向いて進むしかないんだ」


 それに、勘だがおっさんは大丈夫な気がする。




 完全に日が落ち、夜になってしまった。


 暗いが疲れてもいないし、何より野宿するのにいい場所が見たらなかったので、歩き続けていた。


「せめて、洞穴みたいなところはないだろうか……」


 最悪、適当な木に寄りかかって寝るか。


「お!! 明かりだ!!」


 諦めかけていたその時、遠いが確かに明かりらしきものを発見した。


 一気に駆け出し、その明かりの場所まで到着した。遠かったと思ったが、一瞬で着いた。そこにあったのは、錆びてボロボロの小さい掘っ建て小屋だった。


「ごめんくださーい」


 なぜ、こんな森の中にそんなものがあるのか。疑問には思ったが、これで野宿しなくても良いと思うと、声が先に出た。


 だが、何も返事はない。


「ごめんくださーい!!」


 明かりがあるため、てっきり人がいるものと思ったがやはり返事はなかった。


 ドアをいじってみると普通に開いた。


「……開いちゃったよ」


 中を覗いてみたが、机に本が一冊だけと質素な内装だった。


 誰もいないのか?


 ずっとドアを持っているのもどうかと思い、俺は掘っ立て小屋の中に入った。


「こんな樹海の中だし、事情を説明すれば何とかなるだろ……」


 楽観的に考え、ここで一晩過ごそうと決意する。


 手持ち無沙汰なため、机の上にあった本を手に取って見てみる。


 なんか、魔法陣っぽいのが描かれている。


「何だ、これ?」


 本を開こうとした瞬間、何かが割れる音が響いた。窓が割れたような音が聞こえたため、周囲を確認したが、異常は見当たらない。


「……?」


 仕切り直して、本を開いてみた。


 真っ白だった。


「文字が書かれていない。メモ帳か何かだったのか?」


 何かあると思い、期待を持って開けてみただけに拍子抜けだった。


 本を閉じようとした瞬間、声が響いた。


『……何を望む?』


「!?」


 いきなり聞こえた声に驚く。周囲を確認するが、誰もいない。


 何を望む? どこから、声が?


『……何を望む?』


 再度聞こえる、男性のような声。


 まさか、この本か?


『……何を望む?』


 それしか考えられない。


 何を望む……か。そんなの決まってる。叶うかは分からないが、言うだけ言ってみるか。


「俺の望みは……とりあえず、この森から出たいな。できれば人の街近くとかに行きたい」


『望みを受諾。実行』


 一瞬の出来事だった。ふと、視線を本から上に向けると……


「え?」


 そこは、小高い丘になっていた。下には街と思しき風景が広がっていた。


 先ほどの掘っ立て小屋の中ではなく、外に出ているというのにも驚いたが、何よりも夜の暗さではない。まだ日が沈む前、薄暮時といった時間帯だった。


「これは、時間が巻き戻ったのか? いや、あの森とここで……まさか、時差があるということか?!」


 なんてこった。そこまで、深い森だったのか?! そして、時差があるということは、ここは地球と同じように自転しているということか。自転云々はどうでもいいか。


「それにしても、この本は一体何なんだ? ん?」


 先ほどは真っ白だったページに何かが書かれていた。残念ながら、文字は読めなかった。


「さっきの願いを叶えたから、ページが埋まったのか?」


 あと何ページあるんだかわからないがその分願いが叶うとしたら、これはすごい。


 色々試してみるか。こんなにページがあるなら、少しぐらい無駄使いしても問題ないだろう。


 薄暗い中本を見ながら、にやけ顔をしている俺は不審者にしか見えなかっただろう。

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